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社会保障制度 抜本的改革の論点 Ⅱ ~国保逃れの根本的課題~


 最近、ようやく政治家や評論家、コメンテーターの中にも、「社会保障制度の抜本的な改革」を口にする人は増えてきたが、何が論点になるのか、どのような改革が必要なのかを問われると、財政論を口にするばかりで、社会保障制度の中身の改革に触れる人はいない。
 ここでは、選挙後、間違いなく議論が活発になる「社会保障制度の抜本的改革」について、現行制度の根本的な課題から、いくつかの論点を挙げて考えていきたい。
 まずは、健康保険の土台となる保険料と保険者の話だ。

 日本維新の会の一部地方議員が、「国保逃れ」を行っていたとマスコミから糾弾され、六人の地方議員が除名処分となったニュースはご存じだろう。この「国保逃れ」とは、低い報酬で形ばかりの一般社団法人などの理事や役員に就任し、その法人の健康保険に加入することで、国民健康保険の支払いを意図的に免れるというものだ。違法ではないが、「社会保険料の値下げ」を公約に掲げている維新の党としては、なんとも情けない話であり、国保大赤字で頭を悩ませているはずの地方議員が、このような脱法的な手法に手を染めるなど、厳しい非難を受けるのも当然だ。

 ただ、維新はまだ新しい政党なので6人程度だが、自民党や他の野党でも、兼業として、地方議員が社団法人や財団法人、社会福祉法人などの理事・役員として名を連ねているケースは多い。この「国保逃れ」は違法行為ではないため、「節税」ならぬ「節健康保険料」として良く知られた手法であり、被用者保険加入のために、ごく少ない報酬で名誉職のような理事・役員を兼務しているのだ。この国保逃れを行っている政治家は、政党・国政・地方問わず、全国で一斉調査をすれば数千人以上、自営業の高額所得者は全国で数十万人に上るだろうと笑う人もいる。
 だから、自民党だけでなく、立憲・公明、社会、共産党まで野党は、マスコミ任せで党首討論においても表だって批判できず、自分たちの政党の国会議員、地方議員を調べることもしない。マスコミも、有力政治家に止められたのか、フリーのジャーナリスト・アナウンサー・コメンテーターにも、この国保逃れを行っている人は多数いるのか、「他党の政治家も調べるべきだ」「国保逃れは制度的な欠陥だ」と社会問題として喚起するでもなく、他の政党もそれ以上は追及しないのだ。

 この国保逃れは、倫理上の問題でもあるが、それ以上に制度欠陥の側面が強い。
 例えば、所得税の場合、二か所以上の事業所で働いている人や、自営業をしながら空いた時間にパートをしている人なども、基本的にはその収入をすべて合算して申告することが求められており、合算額を基礎として、所得税や住民税は決まる。その他収入を申告しなければ脱税になる。

 しかし、現在の健康保険は、サラリーマンなどが加入する「被用者保険」、フリーランスや自営業者、パートやアルバイトが加入する「国民健康保険」、75歳以上の高齢者が加入する「後期高齢者医療制度」に分かれている。そのため、一千万円の報酬を得ている政治家、フリーランス・自営業者として五千万円の収入がある人でも、一億円の株式配当や利息収入、家賃収入がある人でも、兼業として、年収100万円程度の報酬・給与報酬を受けている場合、「100万円の給与所得者」としてのみ「被用者保険」に加入でき、そこにすべての家族が扶養として乗ることができるのだ。

 これは、違法ではないため、ネットで検索すれば、高額所得の自営業者への「国保逃れ」を指南する企業がたくさんでてくる。それだけの手数料を支払っても、それを上回る保険料差額があるからだ。国民健康保険が慢性的な赤字である理由の一つは、本来、高額の国保料を負担すべきフリーランスや自営業者の高額所得者が、この「国保逃れ」によって、国保には加入しないからだ。結果、収入の低い自営業者にばかり、高額の国保料が重く圧し掛かっているのだ。

 全国で、国民健康保険は大赤字となって、その穴埋めに地方自治体は四苦八苦しているのに、それが原因で地方都市の市民病院はバタバタと潰れているのに、本来国保に加入すべき、数千万円、数億円の所得のある自営業者や政治家が、年収100万円に対する被用者保険料しか払わないでよいのか。「富裕層や企業に課税を強化しろ」という一方で、どうして野党の政治家もこの脱法行為ともいうべき、「国保逃れ」改善しようとしないのか。またマスコミは、一部政党をたたくだけで、制度そのものの矛盾を追及しようとしないのか。その理由は、先に上げた通りだ。

 こんなふざけた話はないだろう。
 ただ、この話は、意図的な「国保逃れ」だけではない。労働の流動化によって、二か所以上での勤務、また、雇用されながら休日にはフリーランス、アルバイトで働く、ユーチューバーやSNSで稼ぐと言う人が増えてきた今、社会保障制度であるにもかかわらず「複数の保険者から一番安い保険料を選べる」というシステムそのものが、時代にそぐわなくなっているのだ。

 もう一つの問題は、富裕層に対する保険料の低さだ。
 国民健康保険の保険料は、高額所得者の限度額が低く抑えられているため、消費税とは比較にならないほど、逆進性が強いことが知られている。例えば、年間の国保料の最高額は、扶養家族分や介護保険料を含め年額109万円(令和7年)。つまり年収五千万円でも、一億円でも、国保料は109万円だ(更に、国保逃れをすればその2/3~1/10程度になる)。これに対し、四人家族の年収300万円の自営業者でも、国保料は30万円~45万円(自治体による)になる。
 年収300万円の人の保険料は収入の10%~15%。対して、年収五千万円の国保料は収入のわずか2%しかない。テレビの弁護士やタレントの中には、「保険料が高い、国保料が高い」などのコメントをする人がいるが、庶民のふりをしているだけで、彼らの収入から見れば、国保料など微々たるものだ。「逆進性の強い消費税は廃止」と叫ぶ政治家もコメンテーターも、この巨額の健康保険料の逆進性については口を閉ざしたままだ。

 更に言えば、この「国保逃れ」は事業者に委託すれば手数料が高額であるため、自営業者で国保逃れを行っているのは、高額所得者に限られる。しかし、政治家はそうではない。市議会議員の場合、年間報酬が年間四百万円程度のところも多いが、この場合、扶養家族として配偶者と子供が二人いれば、国保料は年間60万円となる。しかし、兼業として域内の企業の従業員や社会福祉法人の理事として100万円の給与・報酬を受け、そこの被用者保険に加入している場合、半額の法人負担を除いた個人の保険料の支払い額は10万円を切る。
 政治家は兼業が可能であり、この「100万円の給与・理事報酬」は賄賂にも政治資金にもならないが、そこには「国保逃れ」にとどまらず、手数料以上の利権構造が発生していることは言うまでもないだろう。実は、政治家の国保逃れはこちらの方が圧倒的に多い。「地域、市民のため」「医療・介護・福祉」などと叫んでいる政治家たちが実際にやっているのは、地域の医療介護を破綻させる、脱法的な「保険料逃れ」なのだ。
 書いているだけで、どんどん腹が立ってきた。こんな穴だらけの脱法的なスキームが複数ある制度では、まじめに保険料を支払っている中間層ばかりに負担が集中し、被用者保険や国民健康保険が大赤字になるのは当たり前だ。そして、そのスキームは介護保険も年金制度にも拡大しているのだ。

 健康保険・介護保険は、税金と同じように、どの保険者に加入していても、その人の全収入に合わせて、健康保険料・介護保険料を支払ってもうというのが基本だ。税金はそうなっているのだし、マイナンバー制度によって所得は管理できるのだから、そう難しいことではあるまい。数千万円、数億円の高額所得者には、それ相応の保険料を負担してもらうべきだろう。
 そのためには、健康保険制度の一元化が必要となる。
 現在の穴だらけの制度のまま、国保料の上限をあげると、合法的な「国保逃れ」が加速するだけだ。国保と同じように、扶養者の数に合わせて保険料も徴収するが、「子育て支援」として、子供のある世帯は減額・免除だけでなく、子供の数に応じて世帯保険料そのものを減額する方法も取れるだろう。複数の事業所に雇用される労働者に対する事業者の法定福利費については、別途基準が必要になるだろうが、その分類もそう難しいことではない。
 この保険料改革、保険者改革は、社会保障改革の一丁目一番地だと言ってよい。
 なにより、それができなければ、あまりにバカバカしくて、保険料など払う気にはなれない。



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