わたしは、30歳の頃から経営コンサルタント(介護コンサルタント)を名乗って仕事をしていますが、どうしてだか「先生」と呼ばれることが多い職種です。
講演をしたり、セミナーをしたり、本を書いたりしているということもあり、医師を先生と呼ぶ符丁のようなものだと思っていても、55歳になった今でも少し苦手です。若いころはわたしよりも20歳、30歳以上年上のクライアントが多かったですが、先生といわれると、もぞもぞもしました。
初対面の人に一時的に「先生は…」と呼ばれるのはかまわないのですが、コンサルティングをしたり、中長期的にお付き合いをする人には「申し訳ないけど、先生って呼ばないで…、名前で呼んでもらえませんか…」とお願いしています。
これは、もぞもぞもするから・・・という感情的なものだけではありません。
経営者とコンサルタントの正しい関係
経営者とコンサルタントの関係は、よく将軍と傭兵参謀の関係に例えられますが、現代的にいえば、登山家と山岳ガイドによく似ています。
地元の山岳ガイドは、その山のことをよく知っています。山小屋からは見えなくても、どこに崖や難所があるのか、山頂までどのくらいの時間がかかるのか、山頂の天気はどうか、温度や湿度はどの程度のものなのか…などを教えてくれます。
ベテラン・経験豊富な山岳ガイドになると、その登山家の力量を見極めて、難度の高い上級者のルートではなく、より簡単な中級者や初心者のルートを勧めたり、「あなたにはこの山はまだ無理だと思う」「遭難のリスクが高い」と、ストップをかけてくれたりします。
中には、その山の専門家でもなく、登山のリスクも知らない人が「山岳ガイド」を名乗って、不必要で高額な装備を売りつけて何が何でも山に登らせようとする人もいます。山を登るまではガイドしてくれますが、遭難しそうになると、自分だけそそくさと逃げてしまいます。素人登山家は、「こんなはずではなかった・・・」と道に迷い、遭難して、最悪の場合、命を失うことになります。
もちろん、一人で山を登ることのできると自信のある人は山岳ガイドなど必要ないと思うでしょうし、また山岳ガイドがどのようなアドバイスをしても、どの山に登るのか、どのようなルートで上るのかを最終的に決定するのは、経営者本人です。また、ガイドが「いまは山頂の天気が不安定なので初心者はやめた方が良い」とアドバイスをしても、「みんなぞろぞろ登っているのだから大丈夫だ」「定員が決まっているので、いま登らないと登れなくなる」と、別の山岳ガイドに言われるままにピッケルや登山靴など高額な装備品を購入して果敢に挑戦する人もいます。
もちろん、これは批判しているのではありません。
何が言いたいかといえば、コンサルタントは成功に導いてくれる先生ではないということです。コンサルタントは、あくまでも経営上のアドバイザーに過ぎず、わたしを含め、経営コンサルタントを導入したからといって、最高のビジネスモデル・ビジネスルートが確約されるわけではありません。
この経営者と経営コンサルタントの関係を、ゴルファーとキャディに例える人もいます。どちらにしても、経営者はまずは、自分で(会社内)調べて、その方向性を検討し、自分達は何を目指すのか、どうしたいのかを定めておくということです。その上で第三者の視点で、そのプランについてどう思うか、見落としている点はないか、どのようなリスク・課題があるのかについてアドバイスを受けるというのか基本です。
そして、そのコンサルタントの話を聞いて、そのアドバイスを受け入れるのか、そのまま進むのか、ルートを変更するのか時間を見直すのか、それとも計画を断念するのか、その最終判断はすべて経営者が行わなければならないのです。「先生だ」と思うと、この人の言っていることはすべて正しい、この人の言うことを聞いていれば大丈夫…という依存心ばかりが強くなって、二つの意見を合わせて作り上げていくという作業ができないからです。
特に、山登りやゴルフと違って、事業はレクレーションではありません。
「山に登りたいんですけど、何をすればいいですか・・・」「ゴルフしたいんですけど、何したらいいですか・・・」というレベルで、「介護サービス事業に参入したいんですけど、どうしたらいいですか?」という相談をされても、「基本的なことは調べて、考えてから相談してから相談してください」「そんな軽い気持ちでは辞めた方がいいですよ…」というアドバイスしかできないのです。
介護コンサルタントに求めるべきアドバイスとは
では、介護コンサルタントにはどのようなアドバイスを求めるべきなのか。
介護業界の特性から4つのポイントを上げます。
① 他の事業所の成功事例・失敗事例
高齢者住宅事業、介護サービス事業は、利用者・入居者・スタッフが限定されるため、経営・サービス共に閉鎖的になりがちです。他の優良な事業者が、経営上・サービス管理上、どのような工夫をしているのかわかりません。経営コンサルタントは、他の事業者のことも、成功事例・失敗事例、更にはなぜそれが成功しているのか、失敗しているのかをたくさん知っています。
② 最低限やるべきこと。強い経営のためにすべきこと
介護ビジネスは、公的な介護保険・社会保険制度に基づく事業ですから、飛びぬけて高い利益が得られるような事業ではありませんし、そのような方法もありません。
また、これから地域包括ケアシステム・社会保障システムは大きく変わりますから、「現行制度のもとで経営が安定しているから、これからもずっと安心」というわけではありません。そのため、5年10年先を見据えて、強い経営を目指さなければなりません。介護コンサルタントに聞くべきは、「儲け方」ではなく、「最低限やるべきこと」「未来にむけてすべきこと」です。
③ 経営・サービスを不安定にするリスクとその対策
介護ビジネスは、短期利益の確保ではなく、長期安定経営が基本です。
そのために必要なのが、リスク管理、リスクマネジメントです。介護経営には、入居者確保の失敗、人材確保の失敗、関連制度・報酬改定などの経営上のリスクだけでなく、事故やトラブル、災害や感染症、家族からのクレームなどサービス上も様々なリスクが存在します。
介護ビジネスの長期安定経営の鍵は、このリスク管理にありますが、介護業界で一番遅れているのもこの「リスクマネジメント」です。目先の「儲かる方法」ではなく、その事業にはどのようなリスクがあるのか、どのようにしてそのリスクを回避、削減するのかという実務をアドバイスしてくれるコンサルタントを選びましょう。
介護サービス事業、高齢者住宅事業は、高利を得られる事業ではありませんが、きちんとリスクを管理して、やるべきことをやっていれば、事業・経営は安定します。また、テレビドラマのような「一発逆転ホームラン」など言う方法もありません。それが大原則です。「これからは介護サービスの時代」「介護は儲かる」などと言っているようなコンサルタントは、あまり信用できないということです。
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