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介護コンサルタントを上手く活用する契約のポイント

ここまで、9回にわたって、介護コンサルタント活用の成功事例・失敗事例、メリット・デメリットなどについてのべてきました。
介護コンサルタントを使う最大のメリットは、「閉鎖的になりやすい介護経営・サービスの透明化・可視化」です。介護サービス事業は、一般サービスとは違い、「公的な社会保障制度に収入を依存する営利事業」という他に類例のないビジネスモデルです。
また、介護サービスは介護だけではなく、看護・医療・栄養など多くの専門職種がチームを作って行う高度な専門的サービスです。「介護の需要は高まる」「飲食業・ホテル業など他のサービス事業で成功体験・成功モデルがあるからそれを適用しよう」と安易に考えて参入してくる人は多いのですが、一般の経営理論をそのまま当てはめようとしても通用しません。それは、居酒屋や不動産業など他業種・異業種からたくさんの自称カリスマ経営者がたくさん参入してきましたが、そのほとんどが撤退していることを見ても明らかです。

加えて、介護サービス事業は、介護保険制度の発足以降にスタートした、まだ20年程度の新しい事業です。大手企業であっても、その大半は新規参入事業者で、経営ノウハウが十分に構築されているわけではありません。いま、表面化している経営課題の介護人材不足は、「介護報酬が低いからだ…」と考える経営者は多いのですが、実際は同じ介護報酬、同程度の給与であっても、優秀な介護人材が確保できている事業所と、離職者が止まらない事業所に二極化しています。
そうならないためには、経営サービスの透明化・可視化は不可欠なのです。

その一方で、述べたように介護コンサルタントを使うデメリットも発生しています。
一つは、劣悪な介護コンサルタントが跋扈していることです。「介護人材確保のポイント」「入居率アップの秘訣」というセールストークをよく耳にしますが、介護経営は入居率だけ、介護人材確保だけを行っても、経営・サービスは確実に不安定になります。また、「高齢者住宅を建設すること」「高額な備品を買わせること」だけが目的の、営業コンサルタント、ブローカーコンサルタントも多く、「こんなはずではなかった」「コンサルタントに騙された」と頭を抱える介護経営者は少なくありません。
もう一つのデメリットは、経営コンサルタントに対する依存心が高くなることです。「経営陣が事業経営・運営に対する意欲を失ってしまう」「中間管理職が反発して退職してしまう」となると、経営責任やガバナンス不全に陥ることになり本末転倒です。

中長期的に付き合えるコンサルタントを探す

コンサルティングという仕事は多種多様です。
これは大きく分けると二つあります。
一つは、業界を問わず横断的なコンサルティングです。
サービスや事業に沿って、経済調査やリサーチなどを専門に行う「シンクタンク系コンサル」というものもありますし、企業内のデジタル化、IT化をサポートする「ITコンサルティング」、事業所内の適切な人事戦略を検討する「組織人事コンサルティング」を専門とする会社があります。これらは、介護業界でも導入するところが増えています。
もう一つは、その業界に特化したコンサルタントです。例えば、老舗の文具メーカーが新商品の開発を経営コンサルタントに委託するケースがあります。もちろん、会社内部でも新商品開発課がありますが、それだけだとマンネリ化するため、外部のコンサルタントを入れて、今の売れ筋商品の分析やこれからの潮流などを分析しながら、新商品の開発に変化をつけようというものです。
この場合、開発をサポートするためのコンサルティング費(一千万円程度)と合わせて、「パーセンテージ」と言われる商品が一定以上売れた場合の出来高のコンサルティング費を合わせて契約することになります。内容にもよりますが、数年程度の契約でしょうか。

では、「介護サービス事業」の特性からかんがみて、介護コンサルタントとはどのような契約が望ましいのでしょうか。
述べたように、介護経営の目的は短期利益の確保ではなく、長期安定経営です。
「高齢者住宅への新規参入」「高齢者住宅の開設・建設」をコンサルティングの目的にすると、コンサルタントはどんな無理をしてでも「開設建設」にこぎつけようとします。そうなると、そこで無理や矛盾が生じますから、「開設できたけれど運営できない」ということになってしまいます。
これは「入居率のアップ」「介護スタッフの確保」でも同じです。それだけでは、「全く使えない介護スタッフばかり」「他の事業所が断るような難しい入居者ばかり」となり、事故やトラブルが多発し、経営にマイナスにしかならなりません。業務改善・長期安定経営のためには、「開設建設」「入居率」「人材確保」ではなく、介護経営の三要素である「ケアマネジメント」「介護リスクマネジメント」「介護経営マネジメント」の課題を総合的・一体的に検討していく必要があります。

そのためには、細く長く、中長期的に付き合えるコンサルタントを選ぶということが必要となります。ポイントは3つあります。
一つは契約内容です。
「入居率」「スタッフ確保」など個別の対策ではなく、中長期的な安定経営の視点から経営・サービスの課題分析やその改善のためにプランニングなどを行ってもらうということです。繰り返し述べているように、介護コンサルタント導入の最大の目的は経営・サービスの可視化です。自分達の強み・弱点、リスクを正確に理解することなくして、長期安定経営できません。
二つ目は、コンサルティングフィーです。
「入居率が60%になれば、80%になれば…」「介護人材の確保を一人に対して〇〇円」といった出来高契約では、それだけが目的になりますし、どうしても高額なものとなります。そうではなく、「サービス課題の分析と改善案の提案」といった大まかなものとして、年間の包括的な契約を行いましょう。それだけ高額なものではなく年間200万円~300万円程度で十分です。
そして三つ目は、契約期間です。
コンサルタントと細く長く付き合うには、コンサルティングの知識・技術・ノウハウだけでなく、その内容が自分の望む事業の方向性と合致していなければなりません。それだけでなく人物的に合う・合わないということもあります。どれだけ優秀なコンサルタントでも、一緒に気持ちよく事業を推進することができなければ、付き合い続けることはできません。そのため、最初は単年度~二年契約程度にして、「長くお付き合いできそうか…」を見極めましょう。そうして長くお付き合いできそうだと思えば、「こんなこともお願いできないか?」と契約内容・コンサルティングフィーを見直したり、契約期間を延長していけば良いのです。

介護コンサルタントというものに決まった形はありません。
「介護コンサルタントを頼む」となると、「そんなの大手だけの話だ」「そんな余裕はとてもない」という思うでしょうが、どのような契約内容にするのか、それにどの程度のお金を払うのか、契約期間はどうするのかは、クライアント、つまり経営者が決めることなのです。それが決められないと、介護コンサルタントの言いなりになって「こんなはずではなかった」と後悔することになるのです。「指南してくれる先生」を選ぶのではなく、「一緒にできるだけ長くゆっくり伴走してくれるアドバイザー」を選ぶという視点が大切です。




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