RISK-MANAGE

入居相談マニュアル導入の効果とNG対応


マニュアル整備は「現在相談担当者が行っている業務をそのまま書類にする」ということではなく、「入居相談業務とはどうあるべきか」を一から考え直すこと。それが組織のノウハウとして確立・蓄積となり、「入居相談対応」を通じて、担当相談員、介護看護スタッフ、事務スタッフの一体化、チームケアにつながっていく

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 058


ここまで、入居相談対応マニュアルの整備にあたって、その目的や流れ、それぞれのポイントについて述べてきました。
最後に、もう一度考えていただきたいのが、「なぜ、マニュアルにしなければならないのか・・」です。
介護業界において、「マニュアル整備」に対するアレルギーは小さくありません。それは、「介護はマニュアル通りにできるものではない」という「マニュアル的介護」に対する嫌悪感がいまだ根強く残っているからです。(介護マニュアルの目的は「マニュアル介護」ではない 🔗 参照) 
入居相談マニュアルについても、「目的や書類の整理は必要だけれど、マニュアルまで必要だろうか」「相談や見学は、家族や入居者に合わせて臨機応変に対応すればよいのではないか」という声は小さくありません。

なぜ、入居相談にマニュアルが必要なのか

しかし、介護リスクマネジメントの推進のために「入居相談マニュアルの整備」は必要不可欠なものであり、「うちの相談員は経験豊富で優秀だから…云々」というレベルの話ではありません。なぜ、入居相談にマニュアルが必要不可欠なのか、マニュアルの整備によって入居相談業務がどのように変わるのか、どのような効果があるのか、3つのポイントから整理します。

① 入居相談業務の底上げ
マニュアル化の効果の一つは、入居相談業務の底上げです。
マニュアル整備とは、「スタッフが順守すべき事故やトラブルの発生・拡大予防のための最低限の決まり事をまとめたもの」であり、その目的はリスクマネジメントです。マニュアル整備は「誰がやっても同じ入居相談業務ことができる」という平準化ではなく、「誰が相談対応しても、電話受付対応をしても必要最低限のことはできる」という底上げが目的です。
「優秀な相談員がいる」という個人の能力・ノウハウに依存していると、「相談員が当日、急に体調不良で休んだ」「入居者が骨折しその対応に病院に向かった」という突発的な事態に対応できません。その相談員が日々行っている入居相談業務がどのようなものかわからなければ、残された人は何をしてよいのかさえわかりません。

② 入居相談業務の負担の削減
マニュアル化の二つめの効果は、入居相談業務の負担軽減です。
マニュアルによる整理ができていなければ「準備漏れ」「聞き漏れ」「説明漏れ」が必ずでてきます。その結果、「見学時間を現場に伝えるのを忘れていた」「見学者が10人も来てしまった」「食事時間と見学時間が重なった」「急に車椅子が必要だと言われたが余っていない」と言ったトラブルが続出し、担当相談員も介護スタッフも事務スタッフもバタバタすることになります。事前に、何を準備すればよいかチェックリストとしてきちんと整理されていれば、「何か失敗してないか」「忘れ物はないか」と心配する必要もなく、時間的にも労力的にも、また精神的にも、入居相談業務の負担は一気に減ります。

③ 入居相談業務の見直し・確立・蓄積
もう一つの効果は、「入居相談業務の見直し・確立・蓄積」です。
「優秀な担当相談員がいるから大丈夫」という理屈の問題点は、「現在行っている入居相談業務が適切なものか」を、法人としてもその相談担当者も、誰も検証していないということです。入居相談だけでなく、マニュアルはすべて作る過程が重要で、「相談担当者が行っている業務をそのまま書類にする」ということではなく、「入居相談業務とはどうあるべきか」を一から考え直すことにあるといっても過言ではありません。

そのためには、「電話受付で何を聞くのか」「どのようなルートで見学するのか」「どのような視点で説明するのか」を担当相談員だけでなく、関係する介護スタッフや事務スタッフも一緒に検討しなければなりません。そうすればスタッフだけでなく、入居希望者・家族の視点で自分達のサービス・業務を見直すことができますから、「現在、介護現場でどのような問題が起こっているか」「自分たちのサービスの強みは何か」が見えくるはずです。
また、マニュアルは一度作れば終わりというわけではなく、定期的に課題や問題点を見直しすることも必要です。そうすれば、相談員個人の経験・知識が、組織のノウハウとして確立・蓄積となり、「入居相談対応」を通じて、担当相談員、介護看護スタッフ、事務スタッフの一体化、チームケアにつながっていくのです。

入居相談対応において、してはいけないこと

最後に、入居相談対応においてしてはいけないこと、について述べておきます。

① 個人情報を安易に書類に書かせること
一つは、名前や住所、要介護度などの個人情報を安易に書類に書かせることです。
介護保険制度の施行によって、介護や老人ホームへの入居が社会化されたと言っても、本人や家族の不安や苦労が消えることはありません。また、相談内容は生活に直接関わるプライベートな事柄で、『人に知られたくない』特殊な個人情報です。特に、要介護高齢者を対象としたホームの場合、本人が直接アクセスしてくることは稀で、資料請求や説明会に訪れるのは、息子や娘などの家族が中心です。実際に入居対象となっている高齢者や他の兄弟には、まだ老人ホームを探していることすら、知らされていないケースも少なくありません。
相談者に対して、最初から住所・氏名・要介護度などを書かせる高齢者住宅がありますが、人に知られたくないプライベートな問題を安易に書類にさせることは、あまりにも配慮がなさすぎます。また、個別の相談を受ける際にも、チェックリストのようなものを片手に定型の質問をしているケースもありますが、これも同様です。定型の質問ほど全体の状況がつかめず、入居者・家族の口を閉ざすものはありません。
内容を整理する必要がある時には、『状況をよく判断するためにメモを取らせていただいたよろしいでしょうか』と相手の立場に立って対応すべきです。このような対応をしているホームのパンフレットに『心のこもった』『入居者の気持ちがわかる』等と書いてあるのを見ると、まるでコントのようです。

② 営業電話などの攻勢
営業電話も、入居希望者や家族を閉口させるものの一つです。
一般の分譲マンション販売ではモデルルーム見学のあとで、「もう決まりましたか?」「残りの部屋が一割を切りました」などと営業電話がかかってきますが、それと同じように「今ならすぐに入れます」「受け入れキャンペーン中です」などと電話をかけてくる老人ホームや高齢者住宅があるようです。
しかし、①でも述べたように、分譲マンション選びと違い、高齢者住宅は探していることを知られたくない人も少なくありません。一方的に営業電話をするというのは「失礼な事業者だ」と怒りを買うだけでなく、「よほど入居者が集まっていないのだな・・・」「経営が上手くいっていないのだな・・・」と、わざわざ家族に伝えているようなものです。
こちらから連絡を取る場合は、「詳細書類やパンフレットをお知らせしてよろしいですか?」と聞けばその時の対応で、「本人や他の家族も入居を検討しているか否か」「家族は急いで高齢者住宅を探しているか否か」が分かりますし、「どちらにご連絡させていただければよろしいですか?」「何時頃がご迷惑にならないですか?」「メールの方がよろしいですか?」と家族の立場に立った、より慎重な対応をするべきです。
継続的なアクセスをしたいのであれば、「生活費見積書を作成してお送りしましょうか」といった情報提供や、「見学や相談は何度でも可能ですので、よろしければお母さま(入居予定者)も一緒にお越しください」「ショートステイを使った体験入居も可能です」といった入居者・家族の立場・視点に立ったクロージング・アプローチにとどめるべきです。

以上、ここまで、「入居相談マニュアルの整備」について述べてきました。
入居希望者からの入居相談・見学対応は、「リスクの種を育てない土壌づくり」であり、リスマネジメントの土台となることが理解いただけたと思います。
そして、それが、事業者が成長するための、サービス管理・経営管理の技術・知識・ノウハウの構築・蓄積なのです。



入居相談マニュアルを作成する Ⅰ ~相談・説明~ 

  ➾ リスクマネジメントを土台とした入居相談マニュアルの整備
  ➾ リスクが大きくなる最大の理由は受け入れ時の説明不足
  ➾ 「入居説明・相談・見学対応」 3つの目的を整理する
  ➾ 高齢者住宅 入居相談対応のストーリーをイメージする
  ➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅰ ~申込・受付~
  ➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅱ ~準備・説明~
  ➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅲ ~見学対応~
  ➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅳ ~相談・質問~
  ➾ 入居相談マニュアル 書類整備と教育訓練
  ➾  入居相談にマニュアル導入の効果とNG対応



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  7. リスクマネジメントを土台とした入居相談マニュアルの整備
  8. 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅳ ~質問・相談~

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