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巨額の医療・介護の社会保障費はどこに消えているのか


 介護経営の問題は、まったく別のところにある。
 ごく少数の介護倒産がニュースになる一方で、大手と呼ばれる介護サービス事業者、高齢者住宅事業者の多くが、巨額の利益を上げ急成長・急拡大によって株式公開(上場)していることは、あまり報道されない。もちろん、決められたルール、適正な競争であれば、営利を追求することは当然であり、それが社会のためになるというのが資本主義・市場経済の原則だ。

 最近では、その高い収益性に目をつけた内外の投資ファンドが、高齢者住宅事業に積極的に投資を行っている。需要の増加が確実な事業であること、社会保険が担保する貸倒れのない事業であること、景気に左右されない事業であることなど、投資家から見れば、成長確実で安定した高収益が得られる業態となるのだろう。「株式を上場してはいけない」とは言わない。事業拡大には、直接金融による資金調達は重要な要素だからだ。
 ただ、介護サービス事業・高齢者住宅事業は、営利目的の事業ではあるが、その収入の基礎を公的な介護保険制度に依存するという、他に類例のない極めて特殊な事業だ。その利益が介護看護スタッフや利用者・入居者へのサービスの向上に使われることなく、経営陣への高額な役員報酬や株主への配当にまわされることは、社会通念上、問題ないのだろうか。
 その高い収益を支えているのが「囲い込み」による不正請求であり、低賃金・過重労働で介護を支え「やりがい」を搾取される介護スタッフだというのは、介護業界、高齢者住宅業界の正しい姿だろうか。

 これは、高齢者住宅だけではない。
 特養ホームは営利目的の介護サービス事業ではなく、地域のセーフティネットの役割を持つ福祉拠点だ。認認介護、独居認知症高齢者など難しいケースに対応しなければならないため、より高いノウハウ・知識・技術・経験が必要となる。感情的なクレームや介護虐待を行う家族と対峙しなければならないこともある。その施設長ともなれば、介護福祉士、社会福祉士などの国家資格の有資格者で、かつ10年以上の介護福祉の現場経験がある介護・福祉のプロが付くものだと思うだろう。
し かし、介護保険制度以降に増加した社会福祉法人の理事や理事長には、地方議員が多く、介護資格も経験もないその妻や息子、天下り公務員が施設長、事務長というところも少なくない。そのような素人理事長、天下り施設長に難しい福祉ケースに対応する能力はないが、その年収は介護福祉のプロの施設長よりも高く、施設長室で新聞を読んでいるだけで、1000万円、1500万円という話も聞く。その人数は全国で数千人、その人件費だけで年間数百億円に及ぶ。

 彼らには自治体からの指導も監査もない。
 ある政令指定都市の第三セクターの社会福祉法人では、理事長職が社会保障関連局長の天下りポストとなっている。その理事長が法令を無視して勝手に資金運用し三~四億円規模の莫大な損失を出したが、何のお咎めもない。遊興費を社会福祉法人につけ回したり、副市長を勝手に顧問にして毎月五〇万円もの顧問料を渡していたという人もいる。自身の政治活動の支援者や公務員仲間の親を優先入所させるように、現場に指示をしている人も多いと聞く。
 このような議員の家族や天下り公務員のための特別な施設長資格が、厚労省の関連機関で半年程度の通信教育で取得ができるというのは、いかに国や自治体が介護や福祉の専門性を軽視しているのか、その闇の深さがわかるだろう。
 介護スタッフの労働環境が劣悪なのは誰の責任なのか。介護スタッフが頑張っても給与や待遇が改善されないのはなぜなのか。その元凶である政治家や公務員、理事長、経営者が集まって、「特養ホームが足りない」「介護スタッフの不足は、介護報酬が低いのが原因だ」「介護スタッフの給与を上げろ」とアピールするのは、欺瞞以外の何ものでもない。

 近年、もう一つ、経営悪化の大きな要因となっているのが、「派遣業・紹介業」だ。
 この問題は、以下のコラムに詳しく述べているので、参照いただきたいが、介護の人材派遣料の総額は、介護関連だけでも500億円、病院などを含めると1000億円をこえる。
 これは有料老人ホームの紹介業も同じで、人材派遣料+紹介業に流れているお金は、少なくとも数千億円規模になるだろう。その原資は本来、正規の介護スタッフに支払われるはすだった介護報酬であり、その費用だけで介護報酬総額の2~3%に上る。それだけ介護サービス事業所の利益が削られ、正規職員として頑張っているスタッフの給与が抑えられているということだ。

 私は、介護報酬を上げてほしい、もう少し介護の専門性を評価してほしいと切に願っている。
 税金や保険料が上がっても、それが公平公正に、入居者の生活改善や介護に従事するスタッフに手当されているのであれば、まだ理解は得られるだろう。
 しかし、現状を見れば、介護報酬を上げたからといって、労働環境が改善されるわけでも、要介護高齢者の生活環境が改善されるわけでもない。その大半は一部の経営者、投資ファンド、天下り公務員、紹介派遣業者等に搾取されるだけだ。「高齢者住宅バブルが崩壊して高齢者住宅が不良債権になる」ではなく、「高齢者住宅はすでに不良債権化している」という意味がわかるだろう。
 その不良債権は、単純な金融債権ではない。社会保障費を搾取し、介護スタッフの過重労働、悲惨な生活を余儀なくされる要介護高齢者を増大させる、後後期高齢社会の足を引っ張る劣悪な不良資産になっている。そしてそれは、「一部の悪徳事業者」の話ではないのだ。

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