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介護倒産の原因は、「介護報酬が低いから」ではない

 高齢者住宅や介護サービスの経営悪化に関する報道が増えている。
 しかし、その多くは、思い込みによる不可思議なものだ。一つの例が、毎年のように東京商工リサーチから出される介護サービス事業の倒産記事である。
 数日前に配信された、今年のデータを見てみよう。

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 2025年の介護事業者(老人福祉・介護事業)の倒産が、176件(前年比2.3%増)に達したことがわかった。これまで最多だった前年の172件を4件上回り、二年連続で過去最高を更新した。背景には累次の厳しい介護報酬改定、終わらない物価高騰、他産業への流出も含めた深刻な人材不足などがある。こうした「三重苦」もあって、生き残りをかけた事業者間の競争が激化。優勝劣敗の状況がより鮮明になっている。業界の新陳代謝が進んでいる一方で、地域のサービス提供体制の更なる脆弱化が懸念されている。業態別では、「訪問介護」が過去最多の91件と突出しており、「デイサービス」も45件、有料老人ホームも過去最多の16件となっている。
政府は来年度の臨時の介護報酬改定で介護職の賃上げを行うが、それでも他産業の水準・ペースには届かない。東京商工リサーチは、「人材確保やコスト上昇への対応は自助努力だけでは追いつかないレベルまで深刻さを増しており、今年も倒産が続く可能性が高い」との見方を示している。

(東京商工リサーチ 2026年1月9日)

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 注目が高いからか、そのまま大手新聞やテレビニュースなどにも配信されている。
 この記事だけを読むと、「介護業界も倒産が多くて経営が大変なんだ……」と思うだろう。
 しかし、介護サービス事業所は、介護保険施設を含め全国で25万事業所ある。過去最高の176件といっても、倒産率はわずか0.07%しかない。有料老人ホームの倒産も16件あり過去最多というが、その事業所数は16,500ケ所以上あり、倒産率はわずか0.1%だ。
 営利目的の事業で、他業種からの新規参入や個人・中小の事業者が圧倒的に多く、かつこれほど倒産率の低い(というか、ほとんど倒産しない)業界は他にはない。「介護・福祉の倒産が本格化の兆し」「止まらぬ介護倒産」という記事見出しが本当に正しいのかは、その母数を見ればわかるはずだ。

 また、倒産している事業者のうち、142件(80%)の事業者は、従業員数が10人未満。
 訪問介護でも、デイサービスでも、事業所の家賃や事務員の人件費、光熱水費、通信費などの固定費がかかるため、一定以上の訪問介護員と利用者がいなければ、経営が維持できないのは当然のことだ。特に、訪問介護は、利用者数が10人以下というところも、全体の14.5%を占める。利用者数、スタッフ数が少なくなれば、訪問事業は非効率なものとなり、家族の急な体調不良等でも休むことができないなど、訪問介護員にも大きなストレス・重圧がかかる。
 利用者10人、訪問介護員10人程度では、介護報酬の多寡にかかわらず、ビジネスモデルとして極めて脆弱だ。非常勤を含めた訪問介護員が10人未満という零細企業が多数を占めながら、これほど倒産率の低い産業・業態は介護以外にないと言っても過言ではないのだ。

 これは他の報道でも同じことが言える。
 訪問介護事業者へのアンケートで、「訪問介護員が足りないと感じている事業者が八割」と答えているが、これは「利用希望者がたくさんいるのに、訪問介護員が足りないので受けられない」という社会的な問題であり、経営問題ではない。「介護報酬が低いと感じる事業者が大半」という報道もあるが、報酬が上がれば利益があがるのだから、「給与を上げてほしいか」という問いと同じで、イエスと答えるのは当然のことだろう。

 「介護看護スタッフはみんな頑張っている」
 「高齢者住宅・介護サービス事業者、経営者もみんな頑張っている」
 「経営悪化も介護人材不足も介護虐待も、すべて介護報酬が原因」
 「経営の安定のために、さらなる支援が必要だ」

 マスコミは、その問題の本質を取材する気がないのか、もしくは、「介護倒産はすべて政府の責任だ」そう報道しなければならないと、脅迫観念に駆られているのではないかとさえ思う。
 デイサービスや訪問介護などの在宅介護サービスは、中小事業者の統合が進むだろうが、倒産数は大きく増えることはないだろう。しかし、有料老人ホームやサ高住などの高齢者住宅の倒産はこれから一気に増加することになる。その理由は介護報酬が低いからではない。述べてきた通り、商品設計の段階でビジネスモデルが破綻しているからだ。

 同じ介護報酬、同程度の労働条件、給与体系でも、介護スタッフが集まっている離職率の低い事業所はたくさんある。そもそも、「この介護報酬では介護スタッフが集まらない」と思うのであれば、介護サービス・高齢者住宅事業に参入するべきではない。「事業計画の失敗も介護報酬の責任」「一件も倒産がでないようにしろ」「素人経営でも高い利益が出るように介護報酬を上げろ」というのは、あまりにも虫が良すぎるだろう。

 「介護報酬を挙げてほしい」と願うのは、介護という仕事の専門性を評価してほしいと願うからであって、「介護は儲かる」と右も左もわからないまま算入してきた素人経営者、悪徳経営者を助けるためではない。介護サービス事業は、営利目的の一般事業であり、「経営責任は経営者にある」という当たり前のことを、誰も指摘しない。
 質の低い事業者は、スタッフからも利用者からも選ばれないのは当然のことだ。マスコミが、全く介護の現状の取材もせずにコタツ記事を書いて、それに「そうだ、そうだ」と拳を振り上げているようでは、いつまでたっても、介護の専門性はあがらない。





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