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介護休業取得に向けた「制度の取り組み強化」のポイント 

介護離職のリスクを受けるのは個人・企業だけではない。社会保障を支える側の人が支えられる側に移るという、国・社会として最悪の選択。国が強化すべき「広報活動の強化」「テレワーク時代の介護休業の検討」「相談員配置への支援」の3つのポイントを整理する

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 064


介護離職の増加のリスク・デメリットを最も大きく受けるのは社会です。
介護離職をする人が増えると、その人が働いて生み出していた労働価値と、給与に基づいて支払っていた税金や社会保障費がなくなります。それは、「超高齢社会を支える人が一人いなくなる」という単純な話ではありません。50代で離職し、10年介護して60代で親が亡くなった場合、精神的にも肉体的にも、新しい仕事に就くことは容易ではありません。

親が死亡すれば親の年金はなくなりますし、住んでいる家も古くなります。数千万円のお金を貯金することは大変ですが、働かなければ数年でなくなります。本人も早期退職のため、年金額は少なく、糖尿病や高血圧などのリスクも高くなり、70代、80代になれば、あなたも介護が必要になります。
その結果、今でも、介護離職者の多くが、親が亡くなった途端、生活保護の受給申請ということになっています。介護離職は、支える側の人が減るという単純な話ではなく、本来、分母にいて社会を支えるはずの人が、分子の支えられる人に移行するという最悪の選択なのです。

残念ながら、人口動態を変えることは容易ではありません。2015年から2035年にかけて、後後期高齢者が500万人から1000万人となり、生産年齢人口が1000万人単位で減少する一方で、後後期高齢者人口1000万人時代は、2070年代まで続きます。それは確定です。
できることは、上記の図で示すように、できるだけ支える側の母数を減らさないことです。定年延長や再雇用制度によって、「働ける間は、できるだけ支える側にいてもらうこと」そして、介護離職によって、「働きたいけれど働けない」という人をなくすことです。
介護休業の充実は、これからの超高齢社会に、国策として推進すべき最重要課題の一つであることは間違いありません。制度上の取り組みとして、強化すべき3つのポイントを挙げます。

介護休業に関する広報の強化

一つは介護休業に関する広報活動の強化です。
育児休業の取得率は87%と比較すると、介護休業は2%と非常に低い水準にとどまっています。
それは、介護休暇・介護休業という名前や制度は知っていても、最初から「使えない制度」として認知されているからです。しかし、述べたように、介護休暇を上手く活用できれば、一ヶ月・二ヶ月という短期間、業務を調整するだけで、介護問題を抱える労働者本人だけでなく、企業・会社にとっても多くのメリットを享受することができます。
介護休業の取得率が低いのは、制度の広報ではなく、その活用方法・活用事例の指導が十分にできていないからです。

介護休暇・介護休業を上手に取ろう Ⅳ  ~介護休業の取得事例 ①~ 🔗
介護休暇・介護休業を上手に取ろう Ⅳ  ~介護休業の取得事例 ②~ 🔗
介護休暇・介護休業を上手に取ろう Ⅳ  ~介護休業の取得事例 ③~ 🔗

大切なことは「制度の広報」ではなく、活用方法の理解を広げることです。
  ① 一般向けの広報活動の強化
  ② 企業・団体向けの広報活動の強化 
  ③ 地域包括支援センター・ケアマネジャーに対する広報の強化

広報活動の方向性は3つありますが、特に強化をしたいのが、②企業団体向けの広報です。
繰り返し述べている通り、介護休業は育児休業とは違い、「家族が介護するための休暇」ではなく、「生活環境・介護環境を整えるための期間」「介護に向き合って、これからの生活を考えるための期間」です。しかし、介護休業の受付を行う人事職員であっても、「介護休業」という制度の重要性は知っていても、それをどのように活用するのか、何のための休暇なのかを理解している人は一部に限られます。
国も、企業の人事部や管理者に向けて、「介護休業とは」「介護離職を防ぐ働き方改革」「上司への相談」「介護休業に向けた取り組み」といった広報活動を行っていますが、残念ながら「風通しの良い職場」「上司に相談できる雰囲気づくり」といったエモーショナルな声掛けと、書類整備やシステムづくりなどの実務が中心となっています。それも推進のためには大切なことですが、それらは各企業・各部門が考えることです。
「介護休業所得率2%」「介護問題を会社に相談した人7.6%」という状況を考えると、まずすべきことは「介護休業の取得例」「介護休業の注意点」などを紹介し、「結構、使える制度だな…」「うちの会社でも使えそうだな…」という理解を広めることです。介護休業は、自営業者ではなく、サラリーマン向けの制度です。介護というプライベートな介護問題と介護休業という働き方の見直しを繋げることができるのは企業・事業者です。企業・団体の人事部を通じて、介護休業に対する理解が変われば社会の認識も変わっていくはずです。

テレワーク時代の介護休業との在り方の検討

介護休業は、「育児介護休業法」という法律に定められた制度であり、以下のことが定められています。

① 介護休業の対象となる労働者の範囲
② 介護休業の対象となる家族の範囲
③ 介護休業の日数(93日)及び分割取得(3回まで)
④ 介護休業の申請方法と申請事項
⑤ 介護休業中の「介護休業給付金」の支給(無給の場合2/3程度)

この介護休業は、以前は「最大93日」「一人の対象者に対して一回だけ」というものでしたが、平成29年の改正で、「最大93日」というのは同じですが、三回に分割して利用することが可能となりました。それは、「要支援・軽度要介護の時の生活環境・介護環境の整備」「重度要介護状態になったので生活環境・介護環境の見直し」といったように、分割して取得する必要がでてくるからです。分割することで、「要支援・軽度の時は、自宅で訪問介護・デイサービスを使って…」「重度要介護になったので、特養ホームや介護付有料老人ホームを探す…」といったように、要介護状態に合わせて複数回、生活環境の見直しができるのです。

「一回➾三回」という改正はとても良いものだと思いますが、テレワークや在宅勤務が進む中で、より弾力的な運用を可能とする、もう一歩踏み込んだ対策が必要だと考えています。
現在の制度は、「全休」「三分割の連続休暇」が原則となっています。ただ、介護休業というのは、育児休業とは違い「家族が介護をする期間」ではありませんから、「一ヶ月間は全て休業」としなければならない意味はありません。24時間見守りが必要となるわけではありませんし、デイサービスを利用している時間帯もありますから、自宅のパソコンで資料を作ったり、情報通信技術を使って部下に指示をしたり、会議に出席することも十分に可能です。

特に、現在の介護休業制度では対応が難しいのが、今後、激増する「独居認知症高齢者」への対応です。
認知症高齢者は、一人で生活することが難しくなるため「施設・高齢者住宅への入居」が基本となりますが、認知症対応ができる高齢者住宅やグループホームは費用が高額となることや、一部地域では特養ホームは入所が難しいこともあり、介護離職を選ばざるを得ないというケースが多くなります。
そのため「介護休業は93日」という期間は同じだとしても、「93日を三回に分割して全休」ではなく、「向こう一年間、業務に合わせて断続的に運用できる×3回」とすれば、定期的なショートステイの利用中は会社へ出勤、在宅生活中は「テレワーク+介護休業」といったように、多くの労働者・企業が効率的・効果的に運用することができます。
介護休業の実体が見えない、不正利用が多くなるのでは…と危惧するのであれば、休業期間後の介護休業給付金の申請に、介護保険の利用状況やケアプランを添付すれば良いのです。

◇ テレワークと組み合わせた、働き方に合わせた介護休業の取得ができること
◇ 「全休」「連続休暇」ではなく、弾力的な介護休業の取得ができること
◇ 労働者だけでなく、企業組織にとって利用しやすい介護休業の取得ができること
◇ 在宅介護サービス利用・ケアプランと連動した介護休業の取得ができること

介護休業制度は、労働者が使いやすいというだけでなく、企業が使いやすくなければ推進できません。「製造業の人は在宅勤務できない」という四角四面の制度ではなく、働き方改革や情報機器の進化に合わせ、一人でも多くの労働者、一つでも多くの企業が活用できるような、弾力的な運用が求められます。

介護休業担当相談員 配置への支援

最後の一つは、「介護休業 担当相談員」の配置への支援です。
前回述べたように、介護休業を実務的に推進するためには、企業の相談体制の強化は不可欠です。

介護休業取得に向けた「企業の取り組み強化」のポイント 🔗

ただし、「介護」は「育児」とは違い、「人に積極的に知られたくないプライベートな問題」であり、かつそれぞれの家族で生活環境や介護への対応力が大きく違います。「風通しの良い会社」「なんでも相談できる上下関係」というのは理想ですが、すべての上司がみずから介護問題に直面し、その大変さがわかっているわけではありません。「うちは長男の嫁さんが頑張ってくれた」「嫁さん同士でタッグを組んでやってくれた」と、個人の経験談のみを話されても、他の人もその通りにできるわけではありません。
また、「じっくり、話を聞いてやろう」と言われても「実は兄夫婦とは仲があまり良くない」「親は年金額が少なくて」など、家族関係や兄弟関係、財政状況までプライベートな話をしなければならないとなると、相談できるはずがありません。

とはいえ、はたらく人の9割に上る雇用者(サラリーマン)の、プライベートな介護問題と介護休業という働き方の見直しを繋げることができるのは企業だけです。また、介護休業取得中の注意点や、これからのテレワーク(在宅勤務)の調整支援、更には介護休業後の仕事への復帰のためには、人事の問題として、かつ人事からは切り離した介護離職を防ぐための「介護専用 相談担当者」の設置が不可欠なのです。

① 人事部内に介護問題専用の相談担当者を設置する
② 担当者はケアマネジャー等、専門的知識と実務経験のある人を採用
③ 介護問題への相談は上司が受けるのではなく、介護担当者へとつなぐ
④ プライベートな問題は秘密厳守、本人の希望以外は人事にも反映されない
⑤ 従業者の介護相談、介護休業取得と業務への復帰を支援
⑥ 介護休業、介護問題への取り組み、社内の啓もう活動

一定規模以上の事業者には、「専門職種の相談員の設置を義務付ける」「中小企業には外部委託を検討させる」「地域包括支援センターや居宅介護支援事業所に対して企業との提携を促進する」「費用の一部を負担する」といった、制度上の支援を行っていただきたいと思っています。

以上、介護休業促進に向けて、3つの制度の取り組み強化策を挙げました。
介護の問題はある日突然やってきます。すべてのケースに対応した準備を行うことはできません。
そのため、「骨折した」「脳梗塞で倒れた」「介護が必要になる」と聞かれれると慌ててしまい、「特養ホームも一杯」「病院からは退院を求められる」と八方ふさがりの状況に追い込まれます。バタバタと追い込まれるように決めざるを得ず、介護離職にならなくても「もう少しきちんと高齢者住宅を選べば良かった…」「リハビリをしたら家に戻れたんじゃないか…」「親に申し訳ないことをした…」と後悔している人は少なくありません。
介護休業を取ったからと言って、すべての介護問題が解決できるわけではありません。ただ、「親に介護が必要になったら、介護休業をとって1ケ月、2ケ月じっくり対応を考える」ということが一般的になれば、「どうしよう・・・」と慌てる必要はありません。介護離職や介護離婚、介護単身赴任といった、子供や家族の生活を巻き込んだ課題の多くは回避することができるはずです。
働き方改革と一体的に、介護離職予防のための介護休業取得を国として積極的にバックアップしなければ、日本の超高齢社会の未来はないのです。




  ⇒ 介護離職が増える社会 ~独居後後期高齢者の激増~
  ⇒ 介護離職の個人・企業・社会のリスクを考える
  ⇒ 介護休業は、親を介護するための休業ではない
  ⇒ 介護休業を上手に取ろう ~ 介護休業の取得事例 ① ~
  ⇒ 介護休業を上手に取ろう ~ 介護休業の取得事例 ② ~
  ⇒ 介護休業を上手に取ろう ~ 介護休業の取得事例 ③ ~
  ⇒ 介護休業取得のポイント ~ 分割方法と二つの選択肢 ~
  ⇒ 介護休業期間中にすべきこと ① ~自宅生活時の留意点 ~
  ⇒ 介護休業期間中にすべきこと ② ~老人ホーム選択時の留意点 Ⅰ ~
  ⇒ 介護休業期間中にすべきこと ③ ~老人ホーム選択時の留意点 Ⅱ ~
  ⇒ 介護休業取得に向けた「企業の取り組み強化」のポイント
  ⇒ 介護休業取得に向けた「制度の取り組み強化」のポイント





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