介護休業制度の取得事例 Ⅲ ~老人性うつ病と診断された母~ (上) 🔗 >>>から続く
ここでは、介護休業制度の実際の取得例について、解説しています。
今回は、前回に引き続き、老人性うつ病と診断された一人暮らしの母親への支援の事例について解説します。高齢期の老人性うつは、意欲の低下から認知症となるケースもあるため、介護休業制度を取得して、丁寧に対応することが求められます。
母が老人性うつ病になった原因
地域包括支援センターの方と話をしていて気になったのが、母が軽度の「老人性うつ」になった要因です。
老人性うつになる原因は、「仕事や家事など、社会的な役割がなくなった」「引っ越しをした」といった環境的要因と、「配偶者が亡くなった」「人から悪口を言われた」などの心理的要因があると書いてありました。しかし、生活環境は大きく変化していません。父は三年前に亡くなり、その時も落ち込んだのですが、最近までは元気にしていました。思いついたのは、父と母が長年一緒に飼っていた犬がこの春に死んだこと、また、体操教室などで一緒に活動していた友達が病気で亡くなった…という話をしていたことも思い出しました。
森下さんに「自分が出向で、実家から離れた場所に転居することを、介護の専門家としてどう思うか」と聞いたところ、「断言はできない」と前置きしたうえで、「話を聞く限り、息子さん(私)のことをとても頼りにされている様子なので、遠くに行かれるとなると、ショックを受ける可能性はあるかもしれない」とのことでした。
私の想像・心配していた通りの答えでした。ただ、その上で、出向先に行くまでにはまだ時間があるので、「A社を断る」「早期離職する」といったことをすぐに決断するのではなく、「介護休業を検討してみてはどうか」と提案されました。
「介護休業?」と思わず聞き返しました。「老人性うつ」と診断され、介護保険制度では要介護一と認定されましたが、排泄や入浴などは介助がなくても、今のところ何とか生活できています。私が直接介護をする必要もありません。
ただ、森下さんの話によると、「歩行や移乗が不安定で転倒のリスクがある」「食事が適切に取れていない」「薬の飲み忘れが多い」などの状態であることから、介護休業の対象になるとのこと。一ヶ月程度、介護休業をとって、寄り添って色々話をすることができれば母も安心するだろうし、必要であれば介護サービスの導入を検討すればよい。その状態を見ながら、これからのことを考えればよいのではないか、とのことでした。
介護休業の取得とその後
上司に相談をすると、「最終的には君が決めることだが」と断ったうえで、「A社への出向はセカンドキャリアとして申し分なく、今のうちに、きちんと時間をとって考えた方が良い…」と言っていただき、森下さんのアドバイスに従って、申し出から二週間の間に業務の割り振りを行い、一ヶ月間の介護休業をとることになりました。
母には、「もうすぐ、銀行卒業なので一ヶ月の休みをもらえた」と言い、実家で短期間の同居することにしました。母のケアプランは、地域包括支援センターから紹介していただいたケアマネジャーさんにお願いし、週に二度、運動機器を使った体力向上の通所リハに行くことになりました。それ以外に、古くなっていたお風呂を高齢者仕様のものに改装したり、トイレ前の手すりの設置、玄関の段差解消などの改修を行いました(一部、介護保険を使いました)。その他、買い物用の手押し車を買ったり、古くなっていた冷蔵庫を買い替えたり、また、「ワン切り」や「もしもし」と言った後に何も言わずに切る電話が数回かかってきたため(これまでも時折あったらしい)、「留守番電話」「録音機能付き電話」「カメラ見守り付電話」に変更し、登録してある電話番号以外には出ないように伝えました。これまでも月に一度、二度は帰っていたのですが、それだけではわからないことがたくさんあると感じました。
私にとって一番安心だったのは、母にはたくさんの友達がいたということです。体操教室に行かなくなった母を心配して、何人かの友人から電話をいただいたり、訪ねてこられたりしましたし、近所の人からも声をかけられました。母は「体調を崩したので、しばらく息子が会社を休んで帰ってきてくれたと嬉しそうに話をしていました。
二週間ほどして、「出向先は、今より少し遠くになるかもしれない」という話をしました。
母は、「それは良かったわね~」と心から喜んでくれ、わざわざ休みをとったことをわかっていたのか「私のことは大丈夫、色々心配かけたね…」と笑ってくれました。
「新しい犬はもう飼わない(自分の方が先に死ぬから、飼いきれない)」と言っていたのですが、娘たちが「もし、おばあちゃんが無理になったら、お父さんか私たちが買うから…」と勧め、これまでの中型犬ではなく、室内犬(白いマルチーズ)を飼うことになりました。結局、私が同居したのは最初の三週間程度で、四週間目の後半は自宅に帰り、母の「老人性うつ」の診察に同行しただけになりました。
ただ、森下さんのアドバイスに従って、一ヶ月の介護休業をとれたことは、母にとってだけでなく、私にとっても意味のあるものでした。休みを取らなければ、「母は大丈夫だろうか…」「出向を辞めるべきか…」と直前までずっと悩んでいたでしょうし、A社に出向しても短期間で辞めていたかもしれません。また母の病状が悪化したり、認知症になっていたりすると、会社を辞めなければならず、「あの時に、きちんと対応していれば…」と後悔していたでしょう。
もちろん、これで母の介護問題が解決したわけではなく、これからも転倒して骨折したり、脳梗塞で入院したりということがあるでしょう。
親の介護問題が起これば、どうしても子供は慌ててしまい、「自宅で介護するのか」「老人ホームか」「仕事を辞めなければいけないか」とバタバタと考えがちです。またわたしのように、どこかで「周りに迷惑かけないように自分だけで対応しよう」「できる範囲で、小さく対応しよう」としがちです。でも、今回のように一ヶ月程度の介護休業をとって、専門家を交えて問題を整理して考えることができれば、慌てずに最良の方法を見つけられることを知りました。
あれから三ヶ月が経ちますが、母は元気を取り戻し、明るく暮らしています。
長女と次女も就職・進学が決まり、頻繁に「マル(マルチーズ)」に会いに行っていますし、今のマンションにそのまま二人で暮らすようです。
新しい会社への出向も決まり、社長との面談の場で、今回の母の介護と「介護休業」について話をしました。母が要介護状態になった時は、また取得できるように依頼するとともに、その必要性や重要性について話をすることができました。新天地でも、社内で介護に困っている人がいれば、積極的に自分の経験を伝えることができればと思っています。
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