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高齢者住宅の経営悪化はリスク管理の不備

 事業経営のポイントは、産業・業界・業態によってそれぞれに違う。
 ただ、近年、業界を問わず共通する経営の重要課題として挙げられているのが「リスクマネジメント」だ。例えば、製造業で海外から部品を輸入・輸出している場合、円高・円安などの為替リスクによってその収益性は大きく変動す。情勢が不安定な国や、中国などの社会主義の国では、日本との政治的な関係が、暴動や打ちこわしなどに直結するし、トランプ関税にも左右される。これはカントリーリスクと呼ばれる。
 日本の国内産業でも同じだ。
 飲食業には食中毒があり、運送業には交通事故のリスクがある。最近ではネット上の「サイバー攻撃」「炎上」もその一つに挙げられるだろう。「アスクル」「アサヒビール」「サイゼリア」など、業種を問わず、システムの機能停止や顧客情報の流出などの被害を受けている。
 それ以外にも、アルバイトのふざけた行為が、動画サイトにアップされ大企業の屋台骨を揺るがすこともある。コロナ禍では、感染症リスクが企業経営・経済に連鎖的に及ぼす影響があらためてクローズアップされることになった。
 これは、介護ビジネス、高齢者住宅事業でも同じだ。後後期高齢社会の到来で需要の拡大が確実なため「簡単な事業だ」と思っている人が多いが、その特性を理解し、想定されるリスクを適切に管理できなければ、安定的に経営を続けることはできない。

 下図のように高齢者住宅経営におけるリスクは、「経営悪化の原因となるリスク」と「サービス提供上発生するリスク」に大別することができる。



 経営悪化の原因となるリスクには、入居者募集の失敗、スタッフ確保の失敗、人件費他運営コストの上昇などが挙げられる。介護サービス事業は、労働集約的な事業であるため、入居希望者がたくさんいても、必要な介護人材が確保できなければ、受け入れることはできないし、逆にスタッフが確保できても、入居希望者がいなければ、人件費ばかりが嵩み、大赤字になってしまう。また、入居者がいても、事業計画の想定よりも、軽度要介護の高齢者が多くなれば、収益性は悪化することになる。

 収入の多くを、公的な介護報酬に依存しているということもリスクの一つだ。
 「介護報酬が低いのが、介護人材が集まらない最大の理由だ」 という声は大きいが、一般のサービス事業であれば、需要があるのであれば、給与を上げて、それを価格に転嫁することが可能だが、医療保険と同様に、社会保険を土台とする介護保険制度では、それは許されていない。
 これは医療業も同じで、「取引先の倒産で支払いが滞る」「下請けイジメ」のようなリスクはないが、社会保障財政が悪化する中で、これから懸念されているのが「制度変更リスク」だ。
 自己負担割合の増加は、介護利用控えにつながるし、言われているように、要介護1、要介護2の軽度要介護が、介護保険から地域の総合事業に移管されれば、経営に対する影響は大きいだろう。その他、指導監査によって、契約違反や不正請求などの契約違反が見つかれば、返還命令だけでなく、事業停止や事業廃止などの行政処分によるペナルティで、事業は閉鎖に追い込まれる。

 もう一つは、業務上のリスクだ。
 その対象は身体機能の低下した要介護高齢者であり、歩行中の転倒、車いす移乗時の転落、食事中の誤嚥窒息、入浴中の溺水など、生活上、ありとあらゆるところで事故が発生し、骨折や死亡などの重大事故に発展するリスクも高い。
 また、介護保険への介護サービスに移行したこともあり、家族・入居者の権利意識は、老人福祉の時代とは比較にならないほど、高まっている。「部屋が掃除されていない」「いつも同じ服を着ている」「スタッフの態度、言葉遣いが悪い」といった苦情は多く、転倒・骨折でも、スタッフのサービス中の事故でなくても、「どうしてくれるんだ…」と裁判にまで発展するケースは多い。
 その他、火災や地震、台風などの災害リスク、コロナ・インフルエンザなどの感染症やO157などの食中毒のリスクなど、挙げればきりがない。

 この「経営悪化の原因となるリスク」と「サービス提供上発生するリスク」は、分離しているものではなく、それぞれに関係している。家族からの苦情やクレーム、腰痛などの労務災害もスタッフ離職の大きな要因となる。その他、入居者は加齢によって、要介護状態や医療依存度は重く、高くなっていくことから、それに対応できなければ、介護看護スタッフは過重労働となり、労働環境は悪化、事故やトラブル、クレームが増え、スタッフの離職に歯止めがかからなくなる。

 高齢者住宅、介護サービスの経営とは、この経営や業務の安定を阻害するリスクをどのように削減・管理していくのかという、「リスクマネジメント」にあると言ってもよい。
 「欠陥商品・違法商品」というのは、言いかえれば、これらの経営やサービスの安定を阻害するリスクを十分に(またはまったく)理解・想定しないまま商品設計、経営が行われているということだ。そのため「安心・快適」という美辞麗句で一時的に入居者が集まっても、リスクが顕在化し、スタッフがどんどん逃げ出し、事業・サービスの継続が困難になるのだ。






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