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高齢者向け分譲マンションの危うさ Ⅲ

 分譲マンションというのは、居住者(区分所有者)が協力をして、必要な管理・修繕を行いながら快適な居住環境を管理・維持していくことを前提とした集合住宅である。万一、居住者個人が、リストラや離婚など雇用環境、生活環境の変化によって、管理費・修繕積立金の支払いが困難になる状態が発生しても、マンションを売却によって清算することで、他の居住者にその負担が及ばないようになっている。
 しかし、マンションそのものに資産価値がなくなれば、その大前提は崩れることになる。あとに残るのは「資産価値」ではなく、「負の資産」でしかない。この「高齢者向け分譲マンション」の最大のリスクは、その巨大な負の資産が、そのまま妻や子供、孫にまで引き継がれてしまうということだ。

 高齢者分譲マンションの最大のセールスポイントは資産価値だ。
 自立型の有料老人ホームに入ると、入居一時金が三千万円~四千万円、夫婦で入居となると、五千万円を超えるところも少なくない。ただ、その「利用権」は、終身をうたっていても、民法上の物権や債権として確立したものではなく、償却期間が過ぎれば返還金はゼロになるほか、認知症やトラブルの場合、事業者から退去を求められることもある。更に、有料老人ホームが倒産すれば、その権利は保証されないなど、とても安定した「居住権」とも言えないもので、運用上、課題があることは間違いない。
 「有料老人ホームの曖昧な利用権と違って、所有権として法的に確立された権利」
 「有料老人ホームの曖昧な利用権と違って、マンションが不動産資産として残る」
 そう説明されると、「同程度の金額を出すのであれば、不安定な利用権よりも所有権の方がよい」「分譲マンションなら、資産として子供に残してやれる」と考える人は多いだろう。
 しかし、当たり前のことだが、マンションを資産として残すためには、それは「権利」の問題だけでなく、実際に売却して、金銭に換えることができるというのが前提だ。
 ただ、それは本当に可能だろうか…

 前回、「高齢者分譲マンションに起こりうる」三つの課題・リスクを上げた。
   ◇ 管理費・修繕積立金の未納の増加
   ◇ 認知症による生活トラブルの激増
   ◇ 管理不全による管理費・修繕積立金の大幅値上げ

 これらは、マンションの資産価値の低下に直結する。もちろん、いまある高齢者分譲マンションのすべてがそうなると断言するわけではないが、10年後には多くでそうなる可能性は高いと考えている。
 その理由は多く分けて3つある。

 一つは、管理組合が管理できなくなることだ。
 有料老人ホームの場合、その建物やサービスを管理する責任は有料老人ホーム事業者にあり、賃貸マンション・アパートでも、資産価値が低下しないように建物を管理・維持する責任は家主にある。しかし、分譲マンションの場合、区分所有法という法律に基づいて、その責任は居住者の団体である「管理組合」にある。ただ、入居時は60代後半、70代であっても、10年後には70代後半、80代になり、身体機能だけでなく、認知機能も低下する人が多くなる中で、区分所有者が責任をもって管理・維持できるかと言えば、難しいだろう。言い換えれば、それは管理・維持の責任者がいなくなることを意味している。

 二つ目は、認知症高齢者の生活トラブルに対応する方法がないこと。
 分譲マンションは所有権であるため、有料老人ホームの利用権と同じように、「認知症になって他の居住者に迷惑をかけた場合は退去してもらう」「系列の介護付有料老人ホームやグループホームに入居してもらう」という管理規約が制定できるかと言えば、それは不可能だ。どんな理由があろうとも、病気を理由に所有権をはく奪するようなことはできない。逆に、一定の金融資産はあっても、家族や子供がいないという人も多いと考えられることから、その対応はより難しくなる。

 三つ目は、高齢者分譲マンションに精通した管理会社はないということ。
 「高齢者向け分譲マンションは管理不全になり、資産価値がなくなる」と言うと、それを事業化しているデベロッパーや管理会社は、「きちんと管理している」と怒るかもしれないが、マンション管理会社は多数あれど、この特殊な「高齢医者向け分譲マンション」に精通した管理会社はない。
 例えば、二章で述べたように、「認知症トラブルになった時、管理会社が責任を持って対応できるのか?」「独居入居者が部屋で亡くなっていた場合、管理会社の責任で相続人を探すのか?」と管理会社に問えば「NO」と答えるだろうし、「マンション購入時に、管理費支払いや死亡時の身元引受などの保証人を必須とする」「死亡後、買い手が見つからない場合、一定の金額で管理会社・デベロッパーが買い取る」というのもできない。どんなに美辞麗句を並べても、デベロッパーや管理会社が、マンション管理に責任を持つことはないし、また持つことも法的にできないのだ。
 「高齢者向け分譲マンション」は、いまの分譲マンションで発生している様々な課題・リスクが、短期間に数倍、数十倍となって発生する可能性が高いにもかかわらず、その想定や対策ができていない人、難しさを知らない人が、「分譲マンションにもニーズがある」「富裕層を取り込める」と、有料老人ホーム、サ高住に続く三匹目のどじょうを探しているのだ。

 最大の問題は、ここからだ。
 高齢者向け分譲マンションに資産価値がなくなるとどうなるのだろう。
 一例を挙げてみよう。
 1LDK高齢者向け分譲マンションを5000万円で購入し、10年暮らした85歳の父親が亡くなり、相続財産としてマンションが残された。母親はすでに亡くなっており、相続人は50歳になる長男のみ。幸い、管理費や修繕積立金(合わせて月額8万円)の未納はない。ただ、「高齢者向け」であり、家族もいるので、そこには住めないし、住む気もない。売却しようとしようとしたが、高齢者向け分譲マンションマーケットが小さく、一般の不動産会社では扱ってもらえない。有料老人ホームの紹介サイトに掲載してもらったが、問い合わせもない。賃貸に出そうとしても、どこに相談すればよいかわからない。
 そのまま、そのまま買い手がつかなければ、相続を受けた長男は、年間約100万円(8万円×12か月)という高額な管理費・修繕費と、固定資産税だけを払い続けなければならなくなるのだ。
 相続した段階で、相続放棄をすることは可能だが、「高齢者向け分譲マンションのみ」を放棄することはできず、その他の金融資産や財産すべてを放棄することが前提となる

 高齢者向け分譲マンションは、分譲時の価格は近隣の同程度の面積の一般分譲マンションよりも高額であるものの、対象者が一部に限定されるため、中古の売却価格は低くなる。そもそも、一般の不動産屋が不動産管理や売却仲介をしてくれるかどうかもわからないし、管理費・修繕費が高額であるため、賃貸に出しても、それをカバーするだけの賃料を取ることは難しい。そもそも、 マーケットやルートがないため、「借り手」を探すこともできないだろう。
 つまり、「有料老人ホームの曖昧な利用権と違って、マンションが不動産資産として残る」とは言うのは権利上、虚偽ではないものの、一般的に家族は住めない住まないし、さらに売却できない場合、年間100万円以上の管理費や修繕積立金(プラス 固定資産税)を、いつまでも払い続けなければならないという最悪の不良不動産となりうるのだ。





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