NEWS & MEDIA

市場価値の高い「介護のプロ」になるための勉強法


 テーマに関わらず、講演やセミナーで、介護の現場の職員さんに話をするときには、「介護のプロになりたきゃ、勉強しろ」という話をします。大学の友人からは、「お前が言うな」と笑われそうですが、これは何も、「若いときにもっと勉強しておけばよかった…」と還暦前のおじさんがノスタルジックな後悔を語っているわけではありません。どの業界でも、どんな職種に就くにしろ、学生の時に勉強した・しないに関わらず、年齢に関わらずプロフェッショナルになるためには、(学生の時以上に)勉強を続けなければならないからです。
 ただ、それは「勉強はとても大切」「努力は必ず報われる」という単純な話ではありません。眠い目をこすりながら勉強しても、それが正しい方向でなければ、給与や評価に結びつくことはありません。よくて「自己満足」、その多くは「徒労」に終わることになります。「プロになるための努力・勉強」は、大学受験以上にテクニックやベクトルを明確にすることが重要です。
 ここでは、市場価値の高い介護のプロになるための勉強方法について考えます。

 仕事は、ボランティアではありません。どんな職業においても、その労働価値に応じた対価・待遇を得なければなりません。プロフェッショナルな介護人材になるということは、その業界、同職種の間で最も高い評価・給与を得るということと同意です。
 介護職で、給与を上げる方法は大きく分けて二つあります。

 一つは昇進すること。
 現実社会をみると、努力や評価によって昇格する人だけでなく、社長や管理者の覚えめでたく、縁故や阿諛追従によって偉くなる人もいます。ただ、明確な基準がなく、好き嫌いで人事を決めるような経営者、管理者の下では、優秀な人材は育ちません。結果、経営・サービスそのものが不安定なものとなり、事故やトラブルが多発、倒産するか「お前は使えない」とその職を奪われることになります。また、その評価・価値はその法人内、事業所内でしか通用しませんから、転職すれば給与は大きく下がることになります。これは「プロフェッショナルな介護人材」とは言えません。

 もう一つの方法は、介護職としての市場価値を高めることです。
 この市場価値は芸能人をみればわかります。売れっ子のタレントは年間数億円の収入を得るのに対し、ほとんどの人は、その活動の場さえ与えられません。これは芸能界やスポーツ界など特殊な世界のだけの話ではなく自営業では当たり前のことです。ヘアサロンや飲食店は言うまでもなく、日本三大難関資格と言われる、医師(開業医)、弁護士、公認会計士でも、その市場価値による格差は大きくなっており、高い収入は望めません。
 すでにそれは被雇用者の世界にも広がっています。サラリーマン長い間、「年功序列」だったのだが、バブル崩壊後、企業内でも「成果報酬型」が一般的になり、今では多くの業界でヘッドハンティングをはじめとした「市場価値」へと変化しています。転職が大流行りなのは、その影響の一つだと行って良いでしょう。

 この市場価値は、給与だけでなく、働きやすさにも大きく関係します。
 「市場価値の高いプロ」は、引く手あまたとなるため、嫌な上司のもとで働く必要はなく、その価値に合わせて、自分の働きやすい環境、待遇、給与を選ぶことができます。配偶者の転勤や子育てなど家庭の事情で退職することになっても、その価値は下がることはありません。現代社会においては、市場価値の高い優秀な人材は、部長よりも社長よりもずっと偉いし、楽しいのです。
 もちろん、これはいい面ばかりではありません。「市場価値の低い労働者は、長い間働いても、給与が上がらないし、待遇もひくいまま」という厳しい現実の裏返しです。つまり、あなたがこの先も、介護の専門職種として、介護のプロフェッショナルとして、介護業界で楽しく、幸せに仕事をしたい、利用者・家族に寄り添った理想の介護をしたいと考えるのであれば、自らの努力でその市場価値を高めなければならないのです。

 この介護の市場価値について、もう一つ言っておかなければならないことがあります。それは、介護業界ではどれだけ長く働いても、経験値だけでは市場価値はまったく上がらないということです。
 無資格・初任者研修修了者(旧ホームヘルパー2級)でも、介護福祉士よりも仕事ができる人はたくさんいます。「介護や看護は、資格よりも臨床(経験)の方が大切」という意見も間違いではありません。
 でもそれは、自己評価、もしくは事業所内だけの評価でしかありません。初任者研修終了で10年働いて、たくさん経験があるとしても、自分では介護福祉士よりも仕事ができると思っていても、事業所内で重宝されていたとしても、オープンな「介護労働市場」では全く評価の対象にはなりません。
 なぜなら、介護職、看護職は専門職種だからです。
 面接で、「初任者研修修了者で10年介護現場にいました」「たくさんの仕事を任されていました」とアピールしても、提示される給与は「無資格の新人」に毛が生えたようなものにしかなりません。逆に「どうして、それだけ長く働いて介護福祉士を取らなかったのか?」という疑念が強くなりますし、一人しか採用されないのであれば、「無資格でも介護福祉士を取りたいと言っている若い人の方がよい」という判断になります。
 「どれだけ仕事ができても、資格がなければ認められない」
 それが介護労働市場の絶対的なルールであり、わたしたちはそう言う評価基準の世界で生きているということを十分に認識しなければなりません。

 では、介護のプロフェッショナルになるには、どのような勉強をすればよいのでしょうか。
 最初に述べたように、「職業人の努力」は、正しい方向で行われなければ評価に結びつきません。
 いま、多くの業界では、第三の産業革命と言われる「AI、ロボット技術の進化」によって、これまで培った技術や知識、ノウハウの市場価値が奪われています。厳しい話ですが、数年前まで「プロフェッショナル」として高く評価されていた知識・技術・ノウハウであっても、それがどれだけ難しい国家資格であっても、AIやロボットができることは、もう評価の対象にはならないのです。
 高齢者介護は、保育や看護と同じようにAIやロボットには代替ではない専門職種であり、50年後、100年後もその労働価値、市場価値が下がることはありません。ただ同じ努力をするのであれば、「より市場価値が高まる方法・ベクトル」について理解し、その方向に向かって努力しなければなりません。
 そのルート、方向性は大きくわけて3つあります。

① 専門性を高める
 まず、一つは介護そのものの専門性を高めることです。
 業界外の人は「介護福祉士=介護のプロ」と思っていますが、より高い評価を求められる「介護のプロの介護労働市場」においては、それはあくまで専門性の基礎でしかありません。
 また、実際にケアマネジャーの仕事をするかどうかは別にして、「ケアマネ資格(居宅介護支援専門員)」も必須です。排泄介助、入浴介助、相談援助という日々行っている個別のケアではなく、栄養や医療、生活環境も含めてその人の介護を、総合的な「ケアプラン」としてとらえられるかどうかは介護のプロの一里塚、最初の通過点だと行って良いでしょう。つまり、「介護福祉士+ケアマネ」「社会福祉士+ケアマネ」はスタートラインです。市場価値の高い介護のプロになりたいのであれば、石にかじりついても、そこはクリアをしましょう。
 そこから更に先には、「介護福祉士 ⇒ 認定介護福祉士」 「社会福祉士 ⇒ 認定社会福祉士」 「ケアマネ⇒主任ケアマネ」などの上位資格があります。これらは国家資格ではありませんが、それぞれの分野で、より専門性が高いと認められるものです。特に、主任ケアマネは居宅介護支援事業所においては、必置となっており、かつ絶対的に不足しているため、これから給与・待遇は大きく上がります。「ケアマネを持っている」と「主任ケアマネを持っている」は、全く違います。
 これ以外にも、「福祉用具専門相談員」「福祉住環境コーディネーター」「認知症介護基礎研修」などたくさんあります。中には名前だけの怪しいものもありますが、民間資格の中にも業界内で評価されているものもありますし、「業務独占」「必置資格」といってその資格がなければその仕事ができない、報酬加算の対象となのものもあります。

② 介護以外の柱を見つける
 二つ目は、介護以外の柱を見つけるということです。
 高齢者介護という仕事は生活支援ですから、「栄養・家政」「建築・不動産」「金融」「法律」・・・他、あらゆる職種・資格と繋がっています。これからは「IT、AI、ロボット」なども関わってきます。
 わたしは、高齢者の住まいの経営コンサルタントですから、「社会福祉士+ケアマネジャー」を基礎とした複数の介護資格の他に、「ファイナンシャルプランナー」「宅地建物取引士」「マンション管理士」などの不動産や金融に関わる資格を複数持っています。いまは、空いた時間に法律関係の勉強をしています。
 ほかにもやりたいことはたくさんあります。例えば、栄養学を学べば、高齢者の日々の食事についての知識・理解が深まりますし、建築士やインテリアプランナーの資格をとれば、より専門的な見地から高齢者の生活環境(建物や設備)の課題を発見することができます。また、これからは「独居高齢者、認知症高齢者の資産管理」が大きな社会問題になりますから、社会保険労務士、行政書士・司法書士などの法律関係の理解も重要となり、その活躍の場は広がります。
 介護や生活支援に直接的に関係ないものでもかまいません。何でもよいので資格、できれば国家資格を目指しましょう。資格は、その知識・技術を証明する公的なパスポートというだけでなく、最も効率的・効果的にその知識・技術を得ることができる最適の手段です。
 「勉強はキライ」という人もいるかもしれませんが、「数学は苦手だったけど、英語は好きだった」「世界史はダメだったけど、日本史、特に平安・鎌倉時代は好きだった」などはあるはずです。全科目の「大学入学共通テスト」を受けるのではなく、誰かに命じられたわけでもありませんから、自分の好きな分野、興味のあることを勉強すればよいのです。このもう一つの柱ができると、介護のプロの世界は「介護プラス1」ではなく、その価値は十倍、二十倍にも大きく広がっていきます。

③ 介護のマネジメントを学ぶ
 もう一つは、介護のマネジメントを学ぶことです。
 介護業界で、給与を上げる一つの方法は昇進することだと言いました。
 それは定理の一つだと言っても良いでしょう。介護というのは労務集約的な仕事です。ひとりが一日に提供できるサービスの量はきまっていますから、認定介護福祉士や主任ケアマネジャーなどの資格を持っていても、「昇進したくない」「平の介護スタッフのままでよい」という人の給与・待遇は上がりません。
 一方で、「介護職員の給与は、その専門性に対して低すぎる」と文句を言っている人も、「介護リーダーになれば3万円手取りが増える」「管理職になれば10万円給与が増える」とわかっていても、「昇進したくない」「リーダーや管理者にはなりたくない」と言う人は少なくありません。そこには人それぞれ理由があるでしょうが、他の業界と比較しても「介護リーダーなんてなりたくない」「管理者なんてとんでもない」という声が大きいのは、介護のマネジメントをきちんと学んでいない、教わっていないからです。

 介護のマネジメントは大きく分けて三つあります。
 一つは、ケアマネジメントです。
 個別利用者のケアプラン、ケアマネジメント(狭義のケアマネジメント)ではなく、その事業体全体の介護システムや業務シミュレーション(日々の業務の流れや動き)を含めた概念(広義のケアマネジメント)です。介護現場からは、「忙しい」「スタッフが足りない」という声をよく聞きますが、最低限の業務を行うための人材が絶対的に不足しているのであればそれを上司に進言しなければなりませんし、創意工夫によってより効率的・効果的に介護できる方法があるのであれば、それを考え実行に移さなければなりません。
 二つ目はリスクマネジメントです。
 介護という仕事は、対象が認知症・要介護高齢者ですから、転倒や骨折などの事故、利用者・家族からの苦情、火災や自然災害、感染症や食中毒などリスクの宝庫だと言っても過言ではありません。これらの業務上のリスクが適切に管理できなければ、重大事故やトラブルが増えると言うだけでなく、介護職員が安全に安心して働くことができません。言い換えれば、多くの事業所で、適切なリスクマネジメントができていないから、「介護の仕事はブラック」と言われるのです。
 リスクマネジメントは「介護事故ゼロを目指す」と言った精神論ではありません。想定されるリスクの全体像を理解し、発生しうる事故やトラブル、苦情、感染症などの原因となる種をできるだけ減らすとともに、その法的責任やリスクに対する限界を理解し、それに基づいて家族や利用者に対する事前説明や契約を行うなど、業務全般に関わってきます。
 三つ目は、人事・労務などの介護経営実務です。
 介護経営は、「社会保障制度」を土台とした営利事業という他に類例のない極めて特殊なものです。「入居一時金経営」「囲い込み型経営」など、現在、黒字だから、高い収益を得られているからと、それが長期安定的に経営できるとは限りません。介護人材の育成、介護保険制度の未来、高い倫理観やコンプライアンスなど、高い専門性に裏打ちされた特殊な経営管理が求められます。他の業界で成功した多くの「カリスマ経営者」たちが、介護経営に失敗したのはその特殊性を理解しなかったからです。

 これら三つのマネジメントはそれぞれ独立したものではなく、三位一体のものであり、それぞれに経験値ではなく、法律や契約を含め確とした知識・技術・ノウハウに裏付けられるものです。
 一般的には「介護人材が不足する」と言われていますが、中でも絶対的に不足しているのが、この三つのマネジメントを適切に行うことのできる管理者です。その知識・技術・ノウハウのある管理者がいれば、それだけで介護の経営・サービスは安定するからです。
 この先、AI・ロボット産業の進化によって他の業界は人減らしが加速しますから介護業界にも人は戻ってきますが、この介護サービス事業の管理者の育成は一朝一夕にできるわけではありません。この3つのマネジメントが、これから介護業界の中で最も市場価値が高くなる知識・技術・ノウハウだと言っても過言ではありません。

 ここまで、介護のプロへの道とそのポイントについて述べてきました。
「市場価値の高いプロになるには勉強し続けなければならない」という意味がお分かりいただけるかと思います。それは、未来に向けて「ハイリターン確実な自分への投資」なのです。
とはいっても、勉強だけをしていればよい学生ではありませんから、毎日、介護現場で働いて、その上で、それ以外の勉強を続けることは簡単なことではありません。
実は、勉強し続けるために、「やる気」よりも大切なことがあります。
それは、働き続けながら学ぶ環境が作れるかどうかです。市場価値の高い介護のプロになるには「事業所のサポート・支援」が不可欠なのです。
もう一度、述べた3つのルートを見てみましょう。

 ① の認定介護福祉士、認定介護福祉士、主任ケアマネなどの資格を得るためには、それぞれに定められた講習や研修を受ける必要があります。休みの日、または有給休暇をとって受けることになりますが、「忙しくて有給休暇を自由に取れない」「有給申請をすると管理者、経営者がいい顔をしない」となると、やる気もなくなってしまいます。逆に、職員の資格取得に協力的で、「講習日程のうち半分は業務扱いにしてくれる」「講習費用の一部を負担してくれる」というところもあります。
 ② の「もう一つの柱」も同じです。
その多くは短期間の勉強で簡単に取れる資格ではありません。国家資格の中には、受験資格が必要なものがあり、そのために通信大学に通うとなると、お金だけでなくスクーリングなどへの参加も必要となります。これも「業務に関係ない資格なんてとってどうするの」と嫌味を言われるところもあれば、事前に申請することにより、直接、業務に関係のない資格であっても、勉強するための書籍代、講習代費用の一部を負担してくれる事業所もあります(いい意味でも、悪い意味でもプレッシャーにはなりますが・・・)。
 また、③の介護のマネジメントは休暇や講習が必要になるわけではなく、介護の現場で働きながら得ることができますが、そもそも、その法人自体にマネジメント能力がなければ得ることはできません。

 ご存じのように、介護の給与の土台は介護報酬で決められるため、介護付有料老人ホーム、特養ホームで介護職として働くのであれば、A法人とB法人では給与や待遇には大きな差は生じません。
 しかし、この教育に対する支援体制は、事業所によって天地ほどの差があります。市場価値の高い介護のプロになるには、働きながら勉強するには、「勉強できる環境をつくってくれる事業者を選ぶ」「あなたの市場価値を高めてくれる事業者を選ぶ」ということが、何より重要なのです。それは、言い換えれば、「あなたの未来に投資してくれる法人・事業者だ」ということです。
 採用面接においては、必ず「実際に、どのような教育支援体制をとっているのか」を聞きましょう。
いまは、売り手市場です。それは、あなたが無資格であっても介護福祉士であっても、また新卒であっても転職組であっても、また年齢に関わらず同じです。
 どこで働くかによって、5年後は1.5倍、10年後の市場価値は2倍以上変わってくるはずです。
 あなたの価値を最大限に広げてくれる事業者を選ぶことをお勧めします。

関連記事

  1. 特養ホームの空床の謎とその課題 (下) ~地域包括ケアの崩壊~
  2. 介護生活環境整備 事例Ⅱ ~入院から自宅へ戻る~
  3. AIスピーカーが変える超高齢社会 (下) ~地域・社会・産業~
  4. 【動 画】 親が突然要介護になったとき Ⅲ ~入院から施設へ~
  5. メンタリスト DAIGOさん炎上に対する見解  ~人の命は平等か…
  6. 親の介護に向きあい始める時の注意点 (後)
  7. 地域包括ケアの時代 介護人材確保は自治体の責任
  8. NHK クローズアップ現代 ~相次ぐ老人ホームの閉鎖~ について…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


TOPIX

NEWS & MEDIA

WARNING

FAMILY

RISK-MANAGE

PLANNING

PAGE TOP