NEWS & MEDIA

ビッグモーターにみる日本の保険システムの闇 ~後~


最大手のビッグモーター不正の報道が止まらない
見積もりの改竄、預かった車を傷つける、修理の手抜きなど不正・違法行為のオンパレードだと言ってよい。

中でも最大の問題は、自動車販売・修理業と損害保険会社との癒着だ。
私はもともと、都市銀行の銀行員だったので、ファイナンシャルプランナーと生命保険・証券などの金融商品を販売できる証券外務員資格を(一応)持っている。特段難しい資格ではないが、少しは勉強しないと取れない。一方の自動車保険の販売にも「損害保険募集人」という民間試験があり、合格率が90%を超えるもので、勉強しなくても誰でも取れる。
本来、保険は金融商品であり、自動車保険であっても、保険商品の理解や顧客にあった商品の選定などの知識、リスクの丁寧な説明などの倫理観も求められる。ただ、実際には「自動車保険を売ってもらわんがため」の形式的な民間資格で、実際は誰でも販売できるシステムにされていること、不正を行っても罰せられないことが、この問題の根幹にある。

いまでも、ビッグモーターだけでなく、新車・中古車に関わらず多くの自動車販売業、自動車修理業(車検を含む)で、不随して当たり前のように自動車保険の販売が行われている。
ただこれは、結託による不正が発生するリスクが極めて高い慣例・システムだ。私たちの業界でいえば、病院の医師が患者に生命保険を勧めている、ケアマネジャーが民間の介護保険を高齢者にセールスしているのと同じだからだ。医師が、診療そっちのけで患者にがん保険を必死でセールスしているのを想像するとゾッとするだろう。

損保会社と自動車業界で行われていることを、生命保険(がん保険)に置きなおしてみる。
最大手の病院グルーブであるA病院は、医師の平均給与は3000万円以上と高額だが、所属するそれぞれの医師に対して、一か月内に達成すべき診療点数や保険セールスの厳しいノルマを課している。それをクリアするため医師は、軽い熱発でも精密検査を行い、そのデータを改ざんして「初期の肝臓ガンだった」と診断する。不必要な検査や投薬、手術の費用を健康保険に請求するだけでなく、ガン保険に加入している患者には、広い個室に入院させるなどアメニティを使わせている。

表面的に問題は発生しない。患者本人は、医師が嘘をつくなどとは考えもしないため、初期のがんを早期に見つけてもらったと不正を行った医師に感謝している。同時に進められた民間保険に入っているため、病室の個室費用も無料になり、入院一時金、ガン一時金などが支払わるため金銭的な負担はない。

しかし、実際は健康なのに不必要な検査や放射線治療、投薬、手術が無理やり行われれば、身体に重い負担がかかる。また、一度「がん」と診断されると、本当に「がん」になった時にはがん保険は使えないし、その他の生命保険にも入れない。また、その不正に搾取される医療費は、がん保険の保険料に転嫁され、更には健康保険料の値上げにもつながっているため、その被害者は全国民に拡大する。

今回の事件で、保険会社も不必要な保険支払いをさせられた被害者かのようにふるまっているがそうではない。ビッグモーターのような大手企業と結託すれば、その支払額よりも、保険を売ってもらう利益の方が高いからだ。そのため、小さな修理工場で車両保険(修理)を利用しようとすれば、損保の担当者が飛んできて、目を皿のようにして、少しでも保険を使わせないように重箱の隅をつつくが、今回のような大手ではフリーパスなのだ。
また、一つの損保会社が突出すれば保険料の値上げになって保険商品の価格競争力が低下するが、今回のように複数の大手事業者がタッグを組んで関与しているため、一斉に保険料を上げれば済むことなので痛みを感じない。逆に被害者は、その損保会社の保険を購入している保険加入者だけでなく、自賠責にも関わるためすべての自動車ドライバーにまで拡大する。

これは一企業、一部の自動車販売・修理業者だけではない。自動車保険という金融商品を絡めた取り込み詐欺、金融商品詐欺、経済犯罪だ。全国民をターゲットにした詐欺が、広く業界全体でシステム化され行われてきたと言ってよいだろう。
損保会社は「知らなかった・・・」としているが、そんなことがあるはずがない。
同様に、金融庁も知らないはずがない。それは警察庁の幹部が「パチンコが三点方式で換金されているとは知らなかった…」というのと同じレベルの話だ。

これは自賠責保険を含めた保険金詐欺であり、「不正が見つかった分だけ返金すればよい」という話ではない。ただ、ここまで詐欺的な不正が明らかになっても、前の社長や副社長、現在の経営陣、また個別の担当者が警察に話を聞かれているという報道はない。個別の個人、会社が行った詐欺事件・犯罪に対しては警察による操作の手が入るが、このような官民一体となったシステマチックな保険金詐欺は立件されないからだ。

金融庁は本腰を入れて調査を行うとしているが、これはあくまで行政罰(行政処分)の調査であり、保険金詐欺に対する刑事責任を問うものではない。海外であれば、このような不正を行った企業に対しては、保険会社も含めて会社や社長には、数百億、数千億円という超高額の罰金が科せられるが、日本では一定期間の販売禁止や業務停止など、損保会社に対する責任はごくごく軽微なものにとどまる。言い換えれば、会社(ビッグモーター)はつぶされるが、あとは継続されるということだ。それだけ旨味のあるシステムなのだ。

マスコミでは、ビッグモーターに損保ジャパンなどの社員が多数出向していたことが問題視されているが、同様に損保ジャパンなど大手損保会社が財務省・金融庁をはじめ、毎年、多数のキャリア官僚の天下りを受け入れていることは報道されない。テレビやマスコミも、スポンサーが逃げると困るため、除草剤の散布によって街路樹が枯れたなど、本論とはかけ離れた、「ビッグモーターだけの不正」ということを印象付けるような、どうでもいいことばかりを報道している。
ネタが尽きた時点で、報道はされなくなり、社長も社員も誰一人、罪に問われることもなく、半年、一年後に「えっ?」というような軽い行政罰を損保会社が受け、それをさも厳罰かのようにマスコミは報道し、そのまま幕引きが行われるだろう。

今回のビッグモーターの事件は、「一企業、経営者の不正」というよりも、その前提として「業界全体のからくり」に大きな問題がある。
ただ、これは、損保会社だけの話ではなく、私たちの世界でも同じだ。
もちろん、医療や介護業界で、医師やケアマネが民間の生命保険や介護保険を売ることはない。しかし、「囲い込み」など、不必要な医療介護の押し売り、やっていない介護の不正請求ともいうべき、保険金詐欺は医療介護業界でも当たり前に行われており、それが大手を含め高齢者住宅業界の一般的なビジネスモデルとなっている。日本の保険システムは、社会保険も損害保険も、不正・詐欺の温床になっているのだ。

業界団体や大手事業者には、大量の天下りが発生しており、それが制度を歪めている。
数兆円規模の不正、不適切な運用が行われていても、国は見て見ぬふりを続けている。
日本の闇の深さは、底なしなのかもしれない。
その官民一体となった癒着の泥沼に、日本社会が沈んでいく。
本当にひどい話だ・・。

ちなみに、この損保ジャパンは高齢者住宅業界の最大手でもある。
どうなることやら・・・・



リンク 【ビッグモーターにみる日本の保険システムの闇 ~前~】より




関連記事

  1. 未来倶楽部に見る入居一時金の脆弱性(下) ~長期入居リスク~
  2. 介護事故「集計・要因分析せず」 自治体三割 ~厚労省のリスクマネ…
  3. 【動 画】 介護事故の判例を読み解く Ⅱ ~自己決定の尊重とは何…
  4. 【動 画】 介護事故報告書 Ⅲ ~報告の鍵は検証にあり~
  5. 【動 画】 親が突然要介護になったとき Ⅰ ~少しずつ身体機能が…
  6. 【動 画】 高齢者住宅の混乱による損害額は一兆円以上
  7. 安易な老人ホームの証券化はJリートの根幹を揺るがす (下)
  8. 【高齢者住宅バブルが崩壊する】 ~新しい本が発売になります~

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


TOPIX

NEWS & MEDIA

WARNING

FAMILY

RISK-MANAGE

PLANNING

PAGE TOP