高齢者の住まいの問題は、これからますます深刻になっていく。
住みなれた自宅であっても、「駅からバスで20分+徒歩15分」 「坂道もあり車がないと買い物にも病院にも行けない」 「子供が巣立った後、使わない部屋が多く、掃除だけで大変」 という不安の声は大きい。高齢者は、一般の賃貸マンションへの入居は断られるケースも多いことから、サービス付き高齢者向け住宅が整備されたのだが、いつの間にか、その多くは「囲い込み型の要介護高齢者住宅」に変貌しているため、対象にならない。そのニーズを取り込む形で、「高齢者向け分譲マンション」が増えているのだが、残念ながら、近い将来、「管理不全」「資産価値ゼロ」となる可能性が極めて高い。
前回、「分譲マンションで起きている管理トラブル」について述べたが、今回はそれを踏まえて、マンション管理士の視点から、「高齢者向け分譲マンションで想定されるリスク」について、述べたい。
① 管理費 ・ 修繕積立金の未納の増加
一つは、管理費・修繕積立金未納額の増加だ。
賃貸マンションの賃貸契約には「保証人」が必要であり、契約者が家賃を支払わなかった場合や、本人が亡くなった場合の家財の整理後の引き渡しまで、保証人にその義務の履行を求めることができる。
しかし、分譲マンションの管理費・修繕積立金にはそのような規定はない。
本人が管理費・修繕積立金を支払わない場合、管理組合が支払いを求めて法的手段に訴えるしかない。それでも本人が支払わない・また支払えない場合、裁判でその物件を競売にかける必要がでてくるが、それには手間と労力だけでなく、相当の費用がかかる。
競売による売却も成功するとは限らない。管理費・修繕積立金の未納額が500万円、600万円となっている場合、その債権の支払い義務が新しい区分所有者(特定継承者という)に引き継がれるため、少なくともそれ以上の資産価値がなければ、誰も買わないからだ。
いま、バブル期に建築された数千万円、数億円のリゾートマンションが、タダ同然の値段で売りに出されているが、その背景には、数百万円の管理費・修繕費未納があるからだ。例えば、売り出し価格が20万円であっても、管理費・修繕積立金の未納が500万円ある場合、支払総額520万円になる。
特に、「高齢者専用分譲マンション」は、バリアフリーなど共用部分が広いため、分譲時の価格は一般マンションよりも高額だが、中古となると対象マーケットが限定されるため資産価値は低くなる。購入者が見つからなければ、そのマンションの管理費・修繕積立金の未納は、積み重なるだけで永久に支払われないということになってしまうのだ。
未納のまま本人が亡くなって、相続人が不明の場合、更に大変なことになる。
管理組合が弁護士や裁判所に依頼して相続人を探しだし、所有権移転や片付けを依頼することになるが、相続人が複数の場合、その全員の同意を取る必要があり、その間は家財を片付けることもできず、未納額と弁護士費用ばかりが増えていく。あげくに、「資産価値がゼロで、債務しか残らない」と相続人全員が放棄すれば、債権(未納額)はチャラ、弁護士費用さえ戻らず、数百万円規模の損失だけが残るのだ。そしてそのマンションは宙ぶらりんとなり、その先、管理費も修繕積立金も徴収できなくなる。
実は、一般の分譲マンションでも、建築後30年40年という築年数の古いマンションでは、このような事例が多数でてきている。特に、「高齢者専用分譲マンション」の場合、入居時に70代という人が多いため、10年内に、「管理費・修繕積立金の未納の激増」「死亡後の相続人不明問題」がでてくることが、容易に想像できる。それは、すべて残った居住者(区分所有者)が負担することになるのだ。
② 認知症トラブルの増加
二つ目の問題は、近隣トラブルの増加だ。
一般のファミリータイプのマンションでも、「階上の子供の足音がうるさい」「ピアノの音がうるさい」といった近隣トラブルは発生している。前回述べたように、上下階・左右など個別のトラブルは、管理会社・管理組合は関与せず、居住者同士で話し合って解決してもらうというのが原則だ。
ただ、これから問題となってくるのが、従来の近隣トラブルとは一線を画す「認知症による生活トラブル」だ。認知症高齢者は失見当識によって時間の場所の感覚が低下していく。昼夜逆転で真夜中に大きな音をたてたり、曜日を間違えてゴミを出したり、間違えて夜中に階下の住宅のドアを開けようとする。その他、ごみ屋敷や火の不始末による失火なども発生している。
この認知症によるトラブルに有効な解決策はあるのかといえば、残念ながらない。
話し合いにも意味はないからだ。ごみ屋敷で廊下までゴミが溢れていても、夜中に混乱して奇声を発するような状態になっても、夜中にどんどんと戸を叩かれても、本人が納得しない限り、本人の所有する部屋(専有部という)から出て行ってもらうことはできない。
この認知症トラブルの対応の難しさは、一般の住居でも、分譲マンションでも同じだが、入居者がはじめから60代~70代の高齢者に限定されている「高齢者向け分譲マンション」では、短期間のうちに、そのリスクは格段に高くなるのだ。有料老人ホームの利用権は、法律に担保されない曖昧な権利であり、その運用に課題があることは間違いないが、この強すぎる所有権は、認知症リスクの高い高齢者の集合住宅には適さないということがわかるだろう。
この認知症によるトラブルは、上下左右といったマンションの一部だけでなく、全戸の資産価値に及ぶ。共用部である廊下に生ごみが放置されたり、半裸で歩き回ったり、頻繁に火災報知器がなるような状態になると、そこに越してきたいと考える人はいないだろう。
③ 管理費 ・ 修繕積立金の大幅値上げ
三つ目の問題は、管理費・修繕積立金の大幅値上げだ。
管理費と修繕積立金は、その役割が違う。管理費は、清掃・メンテナンスほか管理人の人件費など、日々の管理に使うお金であり、修繕積立金は将来の大規模修繕に向けて管理組合で積み立てていくお金だ。本来、「修繕積立金」は、30年単位で長期修繕計画を作成し、二回以上の大規模修繕が賄えるように積立額を設定するのが原則だが、実際はほとんどのマンションでそうはなっていない。それは、新築マンションの分譲時に、毎月支払う「管理費+修繕積立金」が高額になると、マンションの売れ行きに関わるため、必要額の半額以下に抑えられているからだ。
しかし、管理会社はそれに言及しない。それどころか、自分たちの目先の利益のために、なんとか自前の修繕によって、安易に吐き出させようとしてしまう。その結果、壁のひび割れや崩落などが目につくようになり、「いざ、大規模修繕が必要」というときに、「大規模修繕費用が全く足りない」ということが判明し、大騒ぎになるのだ。
一般の分譲マンションでも、そんな管理不全の管理組合がたくさんある。
本来、「管理会社が適切にアドバイスをしているのか」「修繕積立金は必要な額が確保されているか」をチェックするのは、委託している「管理組合」の責任なのだが、一般のマンションでもそれを理解している区分所有者は少ない。特に、高齢者向け分譲マンションでは、10年後には、ほぼすべての区分所有者が70代、80代となるため、管理組合を作って、管理会社の業務内容をチェックし、自発的に理事会・総会を行うことは難しくなる。
そうなると、より管理会社の言いなりにならざるを得なくなるのだ。
「レストラン・介護サービス・医療機関併設、提携で安心・快適」
「コンシェルジュなど専門の相談員を配置」
管理費だけでなく、レストラン・コンシェルジュなどさまざまな提携サービス費用も、当たり前のように値上げされ、未収金ばかりが増え最低限必要な修繕もできなくなる。管理会社から「管理費が月額2万円、3万円値上げ」「修繕積立金が4万円、5万円値上げ」を求められても、それが適性な金額かどうかも判断できず、「ダメなら手を引く」と言われると、承諾するしかないのだ。
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