この「囲い込み」は、介護報酬の矛盾をついた貧困ビジネスだ。
もちろん、「住宅型有料老人ホームやサ高住で介護サービスを提供してはいけない」と言っているのではない。ただ、繰り返し述べている通り、区分支給限度額方式の高齢者住宅では、介護看護サービスとは高齢者住宅とは無関係で、かつ安否確認、生活相談なども別途契約になるため高額になるはずだ。
しかし、これらを一体化し、区分支給限度額全額を関連サービスで消費させることを前提に、事業者の収入は高いが、入居者負担が安いというビジネスモデルを構築しているのだ。
低価格・高収入のビジネスモデルがどうして可能なのか
囲い込み型高齢者住宅が、単独型・自律型の住宅型有料老人ホームやサ高住よりも、どうして低価格にできるのか。そのからくりを図式化したものが次のものだ。

単独型のサ高住の場合、住宅サービス(家賃)、食事サービス(食費)に加え、生活相談サービス、安否確認サービスが提供され、そのすべては介護保険とは無関係となるため、全額自費となる。これを月額18万円と仮定する。しかし、囲い込み型では、この費用を13万円に圧縮し、「低価格を売りにして入居者を集める。もちろんそれだけでは、適正な利益が出ないため、入居者に、限度額いっぱいまで介護看護サービスを利用させることで高い利益を上げているのだ。
この囲い込み高齢者住宅の経営者は、「入居者・家族も低価格で喜んでいるし、事業者も高い利益が得られるからウィン・ウィンの関係だ」とうそぶいている。その陰で、不必要な介護報酬を搾取されているのは保険料や税金を負担している国民だ。また、このような付け替えが認められるのであれば、特定施設入居者生活介護は必要なく、介護付有料老人ホームは価格競争力がなくなるため、事業として成り立たない。

しかし、経営者だけでなく、介護業界にはそうは考えない識者が多い。
「高齢者住宅は施設ではないから、住宅サービスと介護サービスの分離が原則だ」
「併設の訪問介護や系列の通所介護を使うことは不正ではない」
「実際に訪問介護や通所介護を利用しているのだから不正ではない」
「家族や入居者は同意してサインしているのだから不正ではない」
実際、このような囲い込み型高齢者住宅を、「低価格高収益の高齢者住宅ビジネスモデル」として推奨・指南した書籍がたくさん出版され、それをもとに全国で「高齢者住宅開設セミナー」がおこなわれていた。それをNHKや大手新聞をはじめ多くのマスコミが、「特養ホームにかわる最新の要介護向け住宅」と持てはやした。
「囲い込み高齢者住宅」はケアマネジメントの破綻
ただ、この囲い込みが、社会保険の使い方として制度上、正しいのか問題があるのか否かは、医療保険(健康保険)と比較をするとわかる。
例えば乳ガンの治療には、「手術療法」「化学療法」「放射線療法」がある。医師が検査によってそのガンの状態、部位、ステージを診断し、本人の希望や既往歴を聞いて、年齢や再発リスク、費用なども説明しながら、複数の治療方法を組み合わせ、治療計画を立てていく。
しかし、検査データや医師の専門性を無視し、「放射線の高い機械を買ったから、がん患者は全員放射線治療をさせろ」「化学療法対象でも全摘手術を勧めろ」という経営者の指示に基づいて、治療計画や患者への説明が行われていたとすればどうだろう。それは医療倫理上問題があるというレベルの話ではなく、医療制度の根幹に関わる犯罪的な不法行為だ。「放射線治療はしており、不正ではない」「診療報酬請求上は問題ない」「家族や患者も同意している」という話ではない。
これは、介護保険も同じだ。
訪問介護や通所介護を併設することや、入居者にそれを利用してもらうことが不正なわけではない。同一法人・系列法人の訪問介護を利用してもらうと、連携がうまくいくというメリットもある。本人が希望したサービスを組み合わせ、それが限度額に達するのであれば問題ない。

ただ、医療の検査や診察と同じく、提供する介護サービスの土台となるのは、「ケアマネジメント」だ。身体機能や認知機能、家族・本人の希望などを適切に聞き取り(インテーク)、生活上どのような課題があるのか、どのようなリスクがあるのかを詳細に検討し(アセスメント)、その生活を改善するためにどのような介護サービスが必要になるのかを検討する(ケアプランの作成)。そして、介護サービスがケアプラン通りに適切に提供されているか、生活改善の効果があったのかを確認(モニタリング)する。その専門職種がケアマネジャーだ。
確かに、高齢者・家族は最終的にケアプランに同意のサインをしているだろう。それは高齢者も家族も「介護のプロのケアマネジャーさんだから、最適な介護サービスを提案・提供してくれる」と信じているからだ。しかし、「囲い込み」で提供されるのは、生活改善には役に立たない、専門性も科学的根拠もない、事業者の営利目的の押し売り介護サービスだ。「本人が介護サービスを選択した」と言っても、それ以外に選択肢は示されていない。

「部屋で寝ていたいが『デイサービスに行って寝ろ』と言われる」
「訪問看護を使いたいけれど、あれこれ理由をつけて系列の訪問介護しか使えない」
それは「法的に問題ない」「グレーゾーン」などという生易しいものではない。入居者を騙すだけでなく、その専門性や信頼を隠れ蓑にした、介護保険制度の根幹にかかわる反社会的で卑劣な詐欺行為という以外に言葉はみつからない。
この記事へのコメントはありません。