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「地域包括ケアシステム」 構築のための4つの指針 

地域包括ケアの構築には、「公平性」「効率性」「持続性」「透明性」が必要。

限られた財源・人材の中で、最大の果実を得るマネジメントの意識が不可欠。


 

「地域包括ケア」は、高齢者介護を劇的に向上させる「魔法の呪文」でも、財政問題を抜本的に解決に導く「打ち出の小づち」でもありません。高齢者施策が「中央集権システム」から「地域包括ケアシステム」へ移行されることにより、各自治体、市町村長のマネジメント力によって高齢者介護医療サービスの内容、質に大きな差がでるということです。

まずは、「地域包括ケアシステム」の構築の基礎となる、4つの指針を挙げます。

 

【公平・公正なシステム】
まず、大前提となるのが「公平・公正」であることです。
市場経済の大きな歪みとして、「格差社会」が問題となっています。極端な富の集中による教育の不平等、貧困の固定化は、改善すべき世界的な課題です。ただ、市場経済においては、タレントやスポーツ選手ほどでははなくても、給与や待遇は個々人の労働評価によって決まるため、ある程度の格差が生まれることは必然だと言えます。
しかし、社会保障制度はセーフティネットと言われるように、すべての国民が健康で、文化的な最低限度の生活を営むために整備された安全網のことです。「うまく使えた人はラッキー」「お金のない人は使いにくい」と、その利用に格差が生まれるようでは、基本的な役割を果たしているとは言えません。

事業者間の競争も同じことが言えます。
介護サービス事業は、「公的な社会保険制度を収入の柱とする営利事業」という他に類例のない特殊な事業です。無届施設や一部のサ高住のように、低価格を売りに要介護高齢者を集め、介護や医療の押し売りで利益を上げるという囲い込みの貧困ビジネスが増えていますが、このような、「制度矛盾を突いた事業者が高い利益を上げる」「介護保険や医療保険を搾取する事業者が蔓延る」ということでは、システムを安定的に維持することはできません。
「地域包括ケアシステム」の大原則は、市民に公平なサービスの利用環境と、事業者に公正な競争環境を整えることだといって良いでしょう。

 

効率的・効果的なシステム】
二点目は、「効率的・効果的」であることです。
今後、すべての自治体で、重度要介護高齢者、認知症高齢者が激増しますが、介護・医療、住まい、介護予防などのサービス量を、それに比例して増やすということはできません。使える財源は(良くて)横ばい、労働人口は減少していくからです。
地域包括ケアシステムは、「介護需要に合わせて必要なサービス量を整備する」「すべてのサービスをバランスよく配置する」という「あれも・これも」という発想では構築できません。それぞれの自治体ごとに、それぞれの地域性・地域ニーズに合わせて、どうすれば限られた財源や人材を最も効率的、効果的に運用できるかを検討し、社会資源活用の「選択と集中」を進めていかなければなりません。

「介護は労働集約的事業なので、効率化・合理化は難しい」という人がいますが、それは間違いです。
例えば、同じ60名定員の介護付有料老人ホームにおいても、介護スタッフや入居者の効率的な介護動線、生活動線を考えた建物設備か否かによって、同程度のサービスでも、介護スタッフ配置は10名程度変わってきます。
これは、「地域包括ケアシステム」においても、同じことが言えます。
「訪問・通所サービスなどの利用型サービスと、特養・高齢者住宅など住まい型サービスのバランス」
「訪問サービス、通所サービスの種類や規模、エリアごとの配置」
など、効率性を考えて計画的に各種サービスが整備・配置された地域と、事業者の希望によって場当たり的に作られた地域とでは、サービスの効率性は変わってきます。
すでに、一部の市町村で「特養ホームの待機者が増えているのに、入所者不足、スタッフ不足で稼働していない」「デイサービスが飽和状態のエリアと、不足しているエリアに分かれる」といった資源の無駄・ロスが増えていますが、それは効果・効率性の検討ができていないからです。

これは、介護サービスの整備計画だけではありません。
民生委員や町内会、自治会、近隣住民、NPOなどのボランティアやインフォーマルサービスとの連携や協力、緊急時の連絡体制の整備も重要になってきますし、独居高齢者の見守りセンサー、インターネットを使ったIPカメラ、介助リフトなどの介護機器の導入も必要です。
事業者任せにするのではなく、各自治体がイニシアチブをとって、効率的、効果的なグランドデザインを設計しなければなりません。

 

【継続的・安定的なシステム】
三点目は、持続性・安定性です。
現在、介護報酬は3年ごとに改訂されるため、それに合わせて自治体でも介護保険計画を3年ごとに見直しています。しかし、その中身はと言えば、「今後3年で65歳以上高齢者が15%増加する見込み」「それに合わせて現在のすべての種別の介護サービス量を、それぞれ15%増加する予定」「介護保険料も15%増加する見込み」という、小学生の算数の問題のような、とても整備計画とは言えないものです。

それは、人口動態や介護需要の増加を想定した、長期計画を立てていないからです。
今後、日本は、「後後期高齢化」と「人口減少」という二つの大波がやってきます。
地域包括ケアシステムは、「この3年間の事業計画をつくる」「2025年に合わせてシステムを作る」というものではありません。少なくとも10年後、15年後にどのような人口構成になっているか、どの程度まで介護需要が高まるかを想定し、それに耐えうるように長期計画を作成し、その目的に向かって、3年ごとの中期計画、毎年の年度計画を立て、実行していくのです。
20年後には、「介護需要が2倍になるので、保険料が2倍」ということは、「都道府県・市町村の介護医療の財政負担も2倍」ということです。そんなことができるはずがありません。

 

【透明性の高いシステム】
最後の一つは、透明性です。
「特養ホームが足りない」「デイサービスだ」「サ高住だ」と、右肩上がりであらゆるサービスが増加してきましたが、その勢いは多くの自治体で減速しています。今後、介護人材不足、利用者不足によって倒産事業者が増加すると、民間事業者の新規参入事業者の意欲はさらに低下するでしょう。
今後は、自治体が整備計画を作っても、参入業者がなく計画が進まないという地域が増えてきます。
漠然と「訪問介護サービス事業者が足りない」「特養ホーム、高齢者住宅の運営事業者を募集します」ではなく、需要の将来推計、介護スタッフ確保の見込みなどの基本情報を公開するとともに、人材確保のための自治体からの支援策、事業者間連携についても、積極的に検討を進めていかなければなりません。

市民・町民に対する情報開示・広報も重要です。
これからは「あれも必要、これも必要」「すべて社会保障で」という時代ではなく、公助、共助、自助の役割分担を含めた、市民の意識変革が必要です。そのためには、「要介護高齢者の増加」「社会保障費の増加」「介護人材不足」について各自治体で情報公開を徹底し、各自治体で地域包括ケアシステムの指針、方向性を、丁寧に説明する必要があります。
将来の見通しや、人口動態、財政から見た地域包括ケアシステム推進の指針、方向性など、それぞれの自治体できちんと情報公開し、批判に耐えうる計画・理論をつくらなければ、事業者や市民から信頼されるシステムを作ることはできません。

 

以上、4つの指針を挙げました。
これら全てに共通するのが、限られた財源・人材の中で、最大の果実(サービス量、サービスの質の向上)を得るというマネジメントの意識とそのノウハウの蓄積です。それは、財政問題が本格化し、急速に人口が減少していく、日本の試金石だといっても良いでしょう。
人口減少によって、2040年には自治体の約半数が消滅の危機に陥るという予測もあります。
自治体は、自らの存在意義をかけて、これまでブヨブヨに膨らんだ社会保障制度、高齢者施策を見直し、地域の要介護高齢者の生命や生活維持のために、歳をとっても安心して暮らせる街になるように、抜本的に地域の介護医療システムを作りなおす必要があるのです。

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