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地域包括ケアは「打ち出の小づち」「魔法の呪文」ではない

地域包括ケアシステムは、高齢者介護医療対策は「自治体が責任を持つ」ということ。

「要介護高齢者が住みやすい街か」「要介護状態になると住めない街か」に二極化する


 

「地域包括ケアシステム」という用語が初めて登場したのは、2005年の介護保険法の改正です。
2025年をめどに、その体制を構築することになっています。
しかし、予定期間の半ばを超えたのですが、「地域包括ケアの推進で、業界全体が大きく変わったか」と言えば、疑問符??がつきます。「地域包括ケアシステムを推進して・・」と声高に叫ぶのは厚労省やその取り巻きの識者ばかりで、現場からは、「やっていることは、以前と全く変わらない」「『これからは地域包括ケアだ!!』って10年後も、20年後も言ってそう・・(笑)」という声もちらほら聞かれます。

ここでは、「実務的に何が変わるのか」「誰が地域包括ケアシステムを構築するのか」「なぜ今なのか、システム構築を急ぐのか」の3点について整理します。

 

~実務的に、何が変わるのか~

これまで、特養ホームや老健施設などの施設整備数だけでなく、デイサービスや訪問介護、訪問看護の数も、国が要介護高齢者の数に合わせてその数の基準(参酌標準)を示し、その基準に沿って、各都道府県・市町村が介護保険の事業計画を作成してきました。
これは、現在の介護保険制度が、それまでの老人福祉から分離した制度であることも関係しています。社会保障制度はセーフティネットなので、自治体によって厚薄、優劣がないように、全国どこの都道府県、市町村でも、同一基準・同水準のサービスを供給するという考え方です。

しかし、大都市部と地方の農村部とでは、必要な介護サービスの種類・規模は変わります。
利用者の密集が激しい都市部では「通所系サービス」が隣り合わせにあるなど、乱立しているところもありますが、山間部や農村部など、集落が点在しているところは、全体として要介護高齢者が多くても、事業効率が低く、民間企業が参入しないところもあります。逆に、東京都心部では、地価が高騰し、特養ホームなどの施設整備が難しいという難点もあります。
また、同一市内であっても「高齢化の激しい旧ニュータウン」「若い家族の多い新興住宅地」などそれぞれの地域特性に合わせて、必要なサービスの内容、規模は変わりますし、それは要介護高齢者の数だけでなく資産階層や家族同居率などによっても変化します。

そのため「これからは介護保険の事業計画は国が基準を定めるのではなく、地域特性に合わせて、それぞれの市町村がプランニング・マネジメントしよう」ということになったのです。
つまり、「地域包括ケアシステム」の根幹は、これまで国の主導で、ほぼ全国一律で行ってきた高齢者の介護・医療・住宅対策を、これからは基礎自治体である市町村が中心となり、それぞれの地域ニーズに沿って計画・推進していく、という国・都道府県・市町村の役割の変化なのです。


~誰が地域包括ケアシステムを構築するのか~

これで、二つ目の「誰がシステム構築の主体なのか」も明確になりました。
地域包括ケアシステムは、「保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要だ」としています。これを補完するように、2014年の介護保険法の法改正で、条文に「自治体が地域包括ケアシステム推進の義務を担う」と明記されました。
この「地域」というのは、「概ね30分以内に必要なサービスが提供される生活圏域(中学校区を単位として想定)」とされていますから、システム構築の中心となるのは市町村で、その策定支援を行うのが都道府県です。

 

~なぜ、いま「地域包括ケアシステム」を急ぐのか~

最後の疑問は、なぜ国は、これまで死守してきた中央集権システムを転換し、「これからは地域包括ケアの時代だ」と言い始めたのか・・です。
その答えは単純です。「お金も人も絶対的に足りないから・・」です。
それが本当の理由だといっても良いでしょう。

現在、団塊世代が後期高齢者になる「2025年」に焦点が集まっていますが、2025年は日本の高齢化のピークではありませんし、団塊世代の高齢化の波を乗り越えればよいというものでもありません。
日本の介護問題の本丸は、85歳以上の後後期高齢者の増加です(🔗 超ハイパー高齢社会の衝撃)。
日本の後後期高齢者は、2015年は500万人ですが、2035年にはその2倍の1000万人に達します。特に、都市部で激増し、その3人に2人は独居高齢者、高齢者夫婦世帯、4人に1人は要介護3以上の重度要介護高齢者となります。そして、この「85歳以上、1000万人時代」は、それから2065年年頃まで30年以上続くことがわかっています。

一方、それを支える生産年齢人口は、少子化によって現在の7700万人から、2035年には6500万人、2065年には4500万人と激減します。財政も逼迫しており、社会保障関係費が一般会計に占める割合は55%を超え、毎年10兆円をこえる赤字国債の追加発行で賄っています。
これまでの「全国一律の高齢者施策」は、すでに限界を大きく超えているのです。
地域包括ケアシステム構築の目的は、各自治体が、それぞれのマネジメント力を強化し、その地域ごとに限られた財源や人材を最大限に効率的・効果的に運用することによって、『社会保障費の増大を抑制すること』なのです。

耳当たりの良い言葉で「本当の目的がうやむやにされている・・」という批判があるとしても、「中央集権型・全国一律」の高齢者施策から、地域特性に沿った高齢者の介護医療予防システムの構築という「地域包括ケア」への変化は、目指すべき方向性として正しいことは間違いありません。

しかし、その一方で、それは諸刃の剣でもあります。
高齢者介護や医療の事業計画の主体が、国から自治体に移ったところで、使える財源や人材が増えるわけではありません。また、間違いなく、それぞれの市町村の財政状況や市長などトップのマネジメント力の優劣によって、「要介護高齢者になっても住みやすい街」と「高齢者・家族が介護地獄に陥る街」に分かれることになります。間違いなく、「財政健全化団体」「財政再建団体」に転落する自治体も激増します

「地域包括ケア」は、高齢者介護を劇的に向上させる「魔法の呪文」でも、財政問題を抜本的に解決に導く「打ち出の小づち」でもないのです。

 

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