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地域ケアネットワークの不備が、地域にもたらす多大な損失


高齢者介護の基本は「チームケア」。それは一人一人の高齢者を支える視点だけでなく、地域全体を支える介護システム、地域包括ケアシステムの視点でもある。地域ケアネットワークが整備されていないことで、どれだけ大きな損失が発生しているか、3つのポイントから整理する

【特 集】 地域包括ケアの土台となる地域ケアネットワークを構築する 002   (全9回)


高齢者介護は、チームケアです。
それは施設、在宅で暮らす要介護高齢者一人ひとりを支えるミクロの視点だけでなく、その地域全体を支えるマクロな介護システム、地域包括ケアシステムの基本でもあります。訪問介護だけ、通所介護だけでは要介護高齢者の生活を支えることができないように、質の高い地域包括ケアシステムを構築するには、法人・業種・事業所の垣根を超えた包括的・有機的な情報ルールと、それを支える地域ケアネットワークが必要です。
「現状でも、特段の問題は発生していない」「個別の連携、ネットワークはできているから不自由はしていない」という人がいますが、それは問題があることから目を背けているか、気づいていないだけです。地域ケアネットワークが整備されていないことで、実務的にどのような問題・トラブルが発生しているのか、それがどれだけ地域全体の大きな損失につながっているか、3つのポイントから整理します。


【課題Ⅰ】 サービスマッチングの失敗

まず目につくのが、高齢者とサービス事業者をつなぐサービスマッチングの課題です。
地域包括ケアシステムの基本は、限りある域内の財源・人材・サービスを最大限に効率的・効果的に運用することです。しかし、ケアマネジャーやサービス担当者の個人的な人間関係に依存したアナログな連携・調整だけでは、「利用したい人」と「サービス」との適切なマッチングができません。

例えば、ショートステイ。
短期入所系サービスは、本人の要介護状態に合わせて・・というよりも、家族の介護負担軽減の側面が強いサービスです。家族の怪我や病気、親族の葬儀などで「緊急利用」のニーズも多く、中にはデイサービスの利用中に家族が倒れ、「今日からすぐにショートステイを確保しなければならない」という緊急依頼もあります。しかし、一部地域ではショートステイが慢性的に不足しており、「明日から一週間、二週間」と言っても、そう簡単に見つけられるものではありません。

マッチングの不備は、ショートステイの事業者にとっても大きなデメリットです。「一杯ですぐに入れない」というイメージがある一方で、対象が要介護高齢者であるため、入院などで突然、キャンセルとなることも少なくありません。その場合、そのまま利用率・収入が減るということになります。

これは、通所系サービスや訪問系サービスでも同じです。包括的なネットワークがなければ、「来週の月曜日からデイサービスを利用したい」「鼻腔栄養でも対応可能なところを」という利用者の希望と、「区をまたぐが〇〇地域であれば送迎可能」「医療依存度の高い利用者でも対応可」という事業者のニーズを上手くつなぐことができないのです。域内の介護サービスの効率的・効果的なマッチングができないことは、利用者にとっても事業者にとっても、地域全体にとっても大きな損失です。


【課題Ⅱ】 ケアマネジメント・連絡業務の煩雑化

マッチングの不備は、ケアマネジメントや連絡業務の手間・煩雑化の原因にもなっています。
家族から緊急ショートの依頼があった場合、ケアマネジャーは周辺の事業者に電話をして空き状況を確認します。しかし、家族が希望する日数を確保することは難しく、またすぐに担当者がつかまるわけではありません。最悪の場合、その地域すべての事業者に連絡して調整することになります。

また、訪問介護・通所介護の利用変更を連絡しようと思っても、A事業所は電話連絡、B事業所はFAX、C事業所メールと、連絡方法はバラバラで、特に訪問診療の医師への連絡は「診察時間外に連絡」「連絡はメールのみ」と指定されることもあります。FAXやメールの場合、返信がなければ、その情報が届いているのかどうかさえわかりません。結局、恐縮しながら「メールしたのですが届いたますか・・・」と電話することになり、更に業務・手間が増えていきます。これは、ケアマネジャーだけでなく、介護サービス事業者間の連絡も同じです。

行政や各種団体から各サービス事業者への事務連絡も煩雑で、手間がかかります。
自治体の行う介護報酬改定の研修会、新規サービス事業募集への説明会の実施について、FAXやメールで連絡しても、期限内までに返答のない事業者も多く、適切に伝わっているのかさえわかりません。催促の電話をしても、留守電や担当者不在であれば二度手間、三度手間となります。行政からの「〇〇ホームで疥癬の発生、新規ショートステイ利用見合わせ」「△△高齢者住宅が倒産」「〇〇デイサービスで食中毒が発生」といった緊急性の高い重要情報も迅速に周知することができません。


【課題Ⅲ】 ルール未整備によるチームケア意識の低下

連絡業務の煩雑化は、情報ルールの未整備によって更に拡大し、情報の錯綜・混乱を招きます。
各サービス事業者を見ると、行政やケアマネジャー、他の介護サービス事業者から送られてきた情報を事務職員が整理・管理し、各担当者に伝達しているところもあれば、FAX複合機の上に、どこからのものともわからない数十枚のFAXが重ねて放置されていたり、一週間前に終了した研修案内がホワイトボードに貼られたまま・・・など、情報管理の質は事業所によって大きな差があります。
特にメールやFAXは介護機器メーカーや高齢者住宅からの営業目的のものも多く含まれ、居宅支援事業所、訪問介護などの小さな事業所では「忙しくて整理できない」「事務担当者が休みなのでわからない」という声も多く聞かれます。

情報ルールの未整備は、「サービスマッチングの失敗」「業務の煩雑化」にも関係しています。
緊急ショートステイが使いづらい理由は、「空所のマッチング」だけではありません。ショートステイ事業所からすれば、認知症や周辺症状の有無など要介護状態の詳細が十分に把握できないまま受け入れることになるため、転倒事故や他利用者とのトラブルなどのリスクが高くなります。過去に利用したことのある高齢者や、信頼関係・人間関係が醸成できているケアマネジャーからの紹介であれば受け入れることは可能ですが、まったく新規の利用者、よくしらないケアマネジャーからの依頼は、現場の負担を考えると担当者は躊躇してしまいます。
同様に依頼する側のケアマネジャーも大変です。「新規利用者の緊急ショートステイ」で受け入れ先が見つかっても、福祉系事業者、老健系事業者などによって、内容や書類はそれぞれに違い、資料作成や詳細な説明が必要になるからです。


実際、ケアマネジャーと話をしていても、「自分のよく使うデイサービスのことしか知らない」「訪問介護の依頼があった場合、依頼するところは決まっている」という声は少なくありません。「どのようなサービスが適切・必要か…ではなく、調整可能なサービスしか勧めない」という人もいます。
その結果、同一法人内、関連法人内だけの紹介・連携ありきとなり、それが「不適切な囲い込み」につながっていきます。更には、ケアマネジメントの原則を無視した「押し売り介護」や、ケアマネと訪問介護サービス事業者のすり合わせによる「介護報酬の不正請求」などが発生する温床にもなります。

地域包括ケアシステムに求められるのは、「個別の連携」ではなく、「地域全体の包括的・有機的な連携」です。情報ルール・ケアネットワークの未整備は、サービスマッチングの不備、非効率で煩雑な業務の増加という目に見える損失だけでなく、結果として地域のブロック化、対立を招き、全体の「チームケア」の一体感・意識を大きく低下させているのです。

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