区分支給限度額方式をとるサ高住・住宅型有料老人ホームは約64万室、うち要介護3以上の重度要介護高齢者の割合もそれぞれ50%、34%となっており、入居者の9割が要支援要介護高齢者である。
この数字は、囲い込みが、すでに「一部の悪徳事業者による不正」ではなく、高齢者住宅業界に広く蔓延していることを示している。意図的な囲い込みが行われている事業者は、大手を含め、その八割、対象となる入居者は50万人規模に上るだろう。
なぜこんなことになってしまったのか、その理由はここまで述べてきた通りだ。
◇ コンプライアンスの意識が低い素人事業者の増加
◇ 「特定施設入居者生活介護」だけをターゲットにした総量規制
◇ 補助金・税制優遇が受けられ、登録だけで簡単に開設できるサ高住の登場
◇ 有料老人ホーム・サ高住の混乱による指導監査体制の崩壊
「お金が特養ホームに入れない」という人に対し、市町村の福祉事務所が、囲い込みのサ高住や住宅型有料老人ホームを斡旋することもあるという。それによって「行政からも認められている」ことを売り言葉に、不正が拡大していく。
ここには、一部の識者やマスコミによるミスリードもある。サ高住がスタートした当初、この「囲い込み型高齢者住宅」の特集を、「特養ホームに代わる要介護向け住宅の最新モデル」として、NHKをはじめとするテレビ局各社、新聞社までが取り上げ、多くの識者が「経営努力による低価格化」「安心・快適」とこぞって推奨した。そのお墨付きを得て「この手法は許されるんだ」「どこでもやっているんだ」という雰囲気が醸成されていったのだ。
この囲い込みの不正は、ケアマネジメントの不正・介護サービスの押し売りだけではない。
【かかりつけ医とケアマネジャー結託による認定調査改竄】
述べたように、囲い込みは要介護状態が重くなればなるほど、介護報酬・利益幅は拡大する。
そのため重度要介護高齢者を多く入居させたいというインセンティブが働く。
現在の認定調査は、初回認定は、行政から委託された認定調査員が行っているが、多くの自治体で、要介護認定の更新・変更申請は担当するケアマネジャーが行っている。これに「かかりつけ医意見書」がつけられ、市町村の運営する介護認定調査会に掛けられる。「認定調査員」と「かかりつけ医」という専門性の違う二つの視点から、客観的に要介護認定をするのかその基本だ。
しかし、ほとんどの「囲い込み高齢者住宅」では、居宅支援事業所(ケアマネジャーの事務所)を同一・系列法人で運営しており、かかりつけ医とも提携している。
この三者が示し合わせて、実際の要介護状態よりも重く認定されるように不正に改竄しているケースが多い。変更時にはケアマネジャーの言う通り、指示通りにかかりつけ医が意見書を作成するため、「二つの視点」ではなく、「要介護改竄ありき」の一方的な視点で判定されるということだ。
この話を当該医師にすると、「医師は常時、要介護高齢者を見ているわけではないので、担当のケアマネジャーや看護師から意見を聞くのは当然」というが、そうであれば、「二つの視点から客観的世要介護認定をする」という前提が崩れる。もちろん、この意見書作成は無料ではなく、一人当たり4000円~5000円の報酬が医師には支払われている。「医師の意見書など必要ない」と言っているのと同じだ。

筆者は以前、介護認定審査会の委員をしていたが、その目で実際に高齢者住宅を見学すると、実態よりも明らかに要介護度が重く判定されているケースが数多く見つかる。
これは個人の主観ではない。数年前、テレビの夕方の情報番組で紹介された、ある大手のサ高住の特集。カメラが入ったのは、七〇代後半とおぼしき上品な女性入居者。テレビに映るからなのか、お化粧も服装もきちんとしている。「キュウリの漬物を作っている」と言い、部屋の中のキッチンでそれを切ってスタッフに配る様子が映っている。
次は、買い物のシーン。女性は一人で買い物かごを下げてスーパーの中を歩きまわり、レポーターと訪問介護員がその後ろを付いて歩く。「重くありませんか?」という言葉で、「そうね。じゃあ持ってもらおうかしら…」と買い物かごを訪問介護員に渡す。「お買い物など日常生活は訪問介護がサポートしてくれる」「自由と安心の両立」とナレーションが流れる。
彼女の要介護度は、「要介護2」だという。
本来の要介護2の状態像とは、「立ち上がりや歩行が自力ではできない場合がある」「排泄や入浴に一部または全介助が必要」「問題行動や理解の低下が見られることがある」などであり、実態と大きくかけ離れていることがわかるだろう。
「自宅では要支援1だったのに有料老人ホームに入居してすぐ要介護3になった」
「ケアマネから次の更新時に、要介護1から要介護3に上げても良いかと相談された」
高齢者住宅に親が入居している家族からは、そんな声を聞くこともある。
しかし、要介護度を決めるのは認定審査会であり、ケアマネジャーが「次は要介護3に上げて良いか」と聞くような話ではない。それは医師が家族に対して、「単なる胃炎だけれど、ガンということにしてよいか?」「開腹手術をしたいので、(本当はステージⅠだけど)胃がんの状態をステージⅢにしてよいか?」と問うようなものだ。改竄が常態化してしまい、不正だという認識さえなくなっているのだ。
それが不正だと言う認識さえない、その暴走の歯止めが利かなくなっているのが現在の介護業界なのだ。
この記事へのコメントはありません。