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「だまされた!!」 放り出されるサ高住の個人経営者と入居者


全サービス分離型の個人経営サ高住の最大の問題は、「私たちには責任はない」という素人事業者、無責任事業者の集まりになっていること。「経営ノウハウ、リスク管理ノウハウ」が乏しいのではなく、「経営者・事業者としての責任感が皆無」という現実

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 022 (全 29回)


私のところには、高齢者住宅に関する様々な相談が持ち込まれます。
住んでいる京都まで来られる方には、時間の許す限り無料で相談に応じています。
高齢者住宅の経営悪化や倒産の大半は経営の失敗ではなく、事業計画の失敗です。事業計画を見た段階で、「確実に成功する」と断言できるわけではありませんが、事業計画の段階で、またパンフレットを見ただけで、「確実に失敗する」ということはわかります。それは、ここまで、サービス付き高齢者向け住宅が直面する三重苦🔗低価格の介護付が直面する介護スタッフ不足🔗で述べてきた通り、経営の失敗以前に商品設計に瑕疵があるからです。

有料老人ホームでも、サ高住でも、事業計画が甘くなる最大の原因は、「過剰な期待」です。
介護付有料老人ホームでも、足し算も合っていないような、いい加減な事業計画はたくさんあります。
しかし、有料老人ホームと比較すると、サ高住の方が、素人事業者が多いと言われています。
その理由は単純なノウハウ不足、経験不足ではありません。サ高住の最大の問題は、当の事業者本人が、「高齢者住宅を経営する」「事業者には経営責任がある」という意識がまったくない人が、あまりにも多いのです。

誰も責任を取らない素人・無責任事業者の集まり

有料老人ホーム、サ高住に関わらず、高齢者住宅という商品は、「生活支援サービス付き高齢者専用住宅」です。ただ、その提供体制、提供責任の範囲はそれぞれに違います。

介護付有料老人ホームは、住宅サービス、食事サービス、介護サービスなどが一体的に提供されている「食事・介護一体型」です。住宅型有料老人ホームでは、住宅サービスと食事サービスが有料老人ホームから提供され、介護サービスは別契約となる「介護分離型」です。
これに対して、サ高住は、住宅、食事、介護などすべてのサービスが分離し、サ高住の事業者が提供するのは住宅サービスの賃貸契約だけです。食事・介護などのサービスは入居者が個々にそれぞれのサービス事業者と契約し、サービスを受ける「全サービス分離型」という形態をとっています。

なぜ、サ高住がこのようなことになったのかと言えば、一部の大学教授や識者と呼ばれる人たちが、サ高住を推進するために、「食事・介護一体型は特養ホームと同じだから、施設的だ」「サ高住は住宅だから、全サービス分離型が原則だ」「介護や食事サービスは、個別に選択できるのが原則だ」と言い始め、サ高住という商品が、「生活支援サービスは個別契約」を前提として整備されてきたからです。

ただ、サ高住でも、大手事業者になると形式的には分離していますが、同一法人、関連法人によって、各種サービスが一体的に提供されているというのが実態です。そのため、「実質的に選択できないのは本来の趣旨とは違う・・」「訪問介護や通所介護併設はダメだ・・」という人もいます。
しかし、一棟、二棟程度しか行っていない個人事業者では、本来の趣旨、原則通り、介護サービスは訪問介護サービス事業者、食事は給食事業者やレストランと、それぞれに経営が分離しています。

「補助金がでます」「高齢者住宅の需要が高まります」と、建築デベロッパーや一部のコンサルタントの猛烈な営業によって、この「不動産投資型」「土地の有効活用型」のサ高住が全国で増加しているのですが、今後、確実に倒産リスクが高まるのが、この「全サービス分離型」の個人経営のサ高住です。
それは、誰もプロがいない、誰も責任を取らない素人集団の集まりだからです。

個人経営のサービス付き高齢者向け住宅の特徴

■ 遊休土地の有効利用、不動産投資目的で参入
■「補助金がでる」「高齢者住宅が足りない」とコンサルタントやデベロッパーに言われ参入
■ 実際の運営は、すべてコンサルタントや併設されている介護事業者にお任せ
■ 「自分は単なる家主・オーナー」であり、サ高住の事業者だという意識はない。

個人経営のサ高住の特徴は、次の二つに集約されます。
一つは、「今なら、補助金がでますよ」と、コンサルタントやデベロッパーに言われ、土地の有効利用や不動産投資目的でサ高住事業に参入しているということ。
そして、もう一つは、入居者募集や入居時の説明など、実際の運営を行っているのは、すべてコンサルタントや併設の訪問介護などの介護サービス事業者であり、サ高住の事業者には、自身が責任ある事業者だという認識がない(もしく相当、稀薄)ということです。

高齢者住宅のサービス管理、経営管理という視点から見た場合、それぞれのサービス供給体制が分離すれば、商品性は不安定になります。それは「サービスはそれぞれに個別契約」としても、対象は要介護高齢者ですから、「訪問介護が撤退」「食中毒で業務停止」など食事や介護など何か一つでもサービスが止まれば、入居者は生活できなくなるからです。「借家権だから、居住する権利は確保される」といっても食事も介護もないところで生活できるはずがありません。
そうなれば、当然、事業は継続できなくなります。
しかし、この手のサ高住は、「各種サービス契約は個別契約」「高齢者住宅は無関係」ということが前提となっているため、「食中毒で食事が提供できなければどうなるか」「訪問介護が不正請求で業務停止となればどうなるか」「介護スタッフが確保できなければどうなるか」というリスクが、まったく想定されていないのです。

サ高住のビジネスモデルが成り立つには、介護サービス、食事サービスなど、すべての事業者が安定的な経営が可能な優良なそれぞれのプロフェッショナルの事業者であることが前提です。
しかし、サービス付き高齢者向け住宅が直面する三重苦🔗で述べたように、実際は、このような事業計画を安易に立てるのは、高齢者住宅の事業特性や介護保険制度を知らないコンサルタントやデベロッパーですし、同様に入ってくる訪問介護サービス事業者も、同様にケアマネジメントも介護保険制度も知らない人たちばかりです。

入居者や介護スタッフが十分に集まらなければ、コンサルタントや訪問介護サービス事業者、食事サービス事業者は、さっさと逃げ出してしまいます。また、その多くは不正な「囲い込み」が目的ですから、これが規制されれば、間違いなくその訪問介護事業者は、倒産・撤退します。残されるのは、他に利用価値のない建物設備と、莫大な借金を抱える個人事業者、そして行き場のない要介護高齢者です。当然、投入された数千万円の補助金も返ってはきません。

これまで、260件を超えるサ高住が、事業停止や倒産をしたと報道されていますが、その大半はこの個人経営タイプです。
もちろん、投入された莫大な金額の補助金も全く返還されないままです。
今後、このような個人経営のサ高住は、総倒れになるでしょう。
この個人経営のサ高住事業者は、なんとサ高住の全事業者の約半数に上ります。そのリスクがどれだけ大きいか、現在のサ高住の制度設計や制度運用がいかに杜撰なものか、わかるでしょう。

もちろん、その金銭的な責任は、サ高住の事業者が負うことになりますし、入居者にも「選択責任」がありますから、倒産すれば次の生活場所は、本人・家族が探さなければなりません。
ただ、高齢者住宅のリスクや事業特性を知らないまま、利権、補助金目的に「サ高住は住宅だ」「土地の有効利用だ」と安易な参入を煽った国交省の制度設計上の責任や、それに連なる識者や介護ジャーナリスト、コンサルタントたちの道義的な責任も、そう軽くはありません。




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