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欠陥高齢者住宅は経営者が変わっても事業再生は不可能


高齢者住宅倒産の原因は、経営の失敗ではなく、商品設計・事業計画の失敗。飲食業のように価格設定や建物設備、サービスなどのビジネスモデルを変更することはできないため、経営者が変わっても事業の再生は実質的に不可能。

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 023 (全 29回)


サービス付き高齢者向け住宅が直面する三重苦🔗低価格の介護付が直面する介護スタッフ不足🔗で述べたように、今後、経営が困難になる高齢者住宅は、主に低価格路線のものです。
もちろん、低価格の高齢者住宅はすべてダメだというわけではありません。経営努力・企業努力によって、価格を抑え、競争力を高めるのは、市場経済で活動する企業のあるべき姿です。

しかし、その低価格化が経営努力ではなく、介護スタッフの過重労働や介護報酬の不正請求によるものであれば、ビジネスとして継続することはできません。
また、高齢者住宅を探す高齢者・家族の基本ニーズは、「介護が必要になっても安心」です。「安心・快適」とセールスしながら、「重度要介護高齢者になれば生活できない」「介護スタッフが安心して働けない」ということでは、羊頭狗肉であり、高齢者住宅のビジネスモデルとしては失格です。

一方、入居一時金が数千万円の富裕層を対象とした有料老人ホームは大丈夫かと言えば、そう断言できるわけではありません。高齢者住宅はまだ新しい事業ですから、一般の賃貸マンションのような「相場」というものがありません。そのため入居一時金や月額費用が高額なものであっても、建物設備や介護システムが脆弱で、重度要介護高齢者に対応できないものがたくさんあります。また、目先の利益しか見えない素人事業者🔗で述べたように、「長期入居リスク」「返還金や初期償却の流用」などで、実質的にすでに破綻しているようなところもあります。

これらのリスクは、大手事業者、中小事業者を問いません。
毎年、大手高齢者住宅事業者の居室数のトップ20が発表されますが、そのビジネスモデルを見ると、10年後に生き残っているのは半分以下になるでしょう。事業規模が大きいだけで、低価格化路線を基礎とした急速な拡大の影で、人材も育っておらず、そのビジネスモデルもノウハウも脆弱というところが少なくないからです。

高齢者住宅のビジネスモデルは変更できない

高齢者住宅は儲かると勢い込んで参入したものの、「介護スタッフの慢性的な不足」「入居者も定員の半数以下」で、経営悪化に直面する高齢者住宅がたくさんでてきています。
「これからはサ高住だ」「高齢者住宅は儲かる」と、素人事業者、個人事業主に高齢者住宅を作らせてきた介護コンサルタントやデベロッパーは、今また、懲りずに「入居率アップセミナー」「介護スタッフ確保セミナー」を開催しています。

しかし、それらには何の意味も、また効果もありません。
それは、経営悪化の原因が、スタッフ確保や入居者募集などの「経営のノウハウや経験が不足しているから」という表面的なものではなく、商品設計の段階で、要介護高齢者が安全に生活できる、介護労働者が安全に働ける環境に作られていないからです。
それは、夜間の「ワンオペ」などで過重労働や過労死で問題となった一部の大手外食チェーンと同じ構図です。利益を優先して、固定費を削減しようとスタッフ配置を少なくすると、過重労働となり、そこで働く人がいなくなってしまいます。

ただ、高齢者住宅の人材不足、過重労働は、外食チェーンとは比較にならないほど深刻です。
外食チェーンの場合、一人で行っていた夜勤業務を二人に増やす場合、それだけコストが上がりますが、牛丼一杯三〇円値上げなど「価格」に転嫁したり、新商品の開発などでカバーすることができます。それで採算が取れない店舗は、統合したり、閉鎖するという対策をとります。

しかし、高齢者住宅の値上げは、そう簡単ではありません。
高齢者住宅の値上げは、現在の入居者との契約変更が必要になるからです。
例えば50名定員の介護付有料老人ホームで、夜勤帯の人員配置を一人増やすだけでも、常勤換算で3人の介護スタッフの増員が必要になります。そのコストを賄うには入居者一人当たり、毎月3万円程度の値上げとなります。それは一時的なものではなく、年間36万円、5年間では180万円の負担増となります。「介護スタッフが大変なので・・・」と言われても、すべての入居者にとって、そう簡単に受け入れられる金額ではありません。

「囲い込み」を行っている、サ高住や住宅型は、さらに深刻です。
2018年度の改定でも、「集合住宅への減算」が行われていますが、今後、高齢者住宅に対する区分支給限度額方式は、より厳しく規制されることになるでしょう。金額的にも財政的にも、またサービスの質的にも、「少々の不正は目をつぶろう」ということにはならないからです。
報酬が改正されなくても、自治体は指導監査体制を強化します。「適切なケアマネジメントをしてください」「時間管理を徹底してください」「見守りや声かけは別途介護スタッフを確保してください」と、指導や監査が徹底されれば、その多くは経営できなくなります。

24時間365日、緊急介助や間接介助のために、2人の介護スタッフを確保しようとすれば、8人~9人の増員が必要となります。また、特定施設入居者生活介護の指定をうけ、介護付に移行すれば、介護報酬は月額一人当たり8万円~13万円減りますし、管理者やケアマネジャー、相談員も介護報酬内で配置しなければなりません。少なくとも、10万円以上、月額費用を上げなければやっていけません。
これらは当然のことです。受ける介護サービス内容が同じであれば、入居者の自己負担も同じだからです。現在の制度矛盾や不正請求に基づいた商品設計、価格設定が間違っているのです。

しかし、「低価格だから…」とサ高住を選んだ高齢者・家族にはとても対応できる金額ではありません。現在の月額18万円、20万円自体も高額なものですし、それで「介護が必要になっても安心・快適」を請け負ったのは事業者です。「計画間違ってました。値上げします」と商品設計や経営の失敗を押し付けられても、「はいそうですか…」と納得できないでしょう。

加えて、値上げを受け入れない人、特に支払い能力のない人はどうするのか、という問題もてできます。自己責任だ、選択責任だと突き放すことは簡単ですが、実質的に行き場のない、選択権のない高齢者や家族に、不正や事業の失敗をすべて押し付けるというのは、あまりにも理不尽です。
また、月額15万円と低価格が売りだったものが、同じサービス内容で25万円になれば、その対象となる高齢者・マーケットは一気に縮小します。高齢者や家族も賢くなっていきますから、その支払い能力のある人は、介護機能の整った介護付有料老人ホームに入るでしょう。

ポイントは重度化対応にシステムチェンジできるか

値上げなどによって、介護システムや価格設定などのソフトを変えることができても、最後の壁は建物設備です。

サ高住に多いタイプとして上記のような「居室フロア・食堂浴室フロア分離タイプ」を挙げましたが、低価格の介護付有料老人ホームでもこの分離型の建物のものは増えていますし、入居一時金が数千万円という高級有料老人ホームでも、このタイプのものはたくさんあります。
それは、このタイプの方が、居室スペースをたくさん確保でき、かつ建築コストが下がるからです。
しかし、この分離タイプは、車いす利用などの重度要介護高齢者にとっては生活しにくく、かつ介護スタッフにとって介護しにくくなります。エレベーターを使った移動介助に、たくさんの時間と手間がかかり、建築コストの軽減とは比較にならないほどの運営コストがかかるのです。

高齢者住宅は飲食業と違い住宅商品ですから、値上げも商品・サービス内容の変更も容易ではなく、入居者が生活している場合、大幅な改築もできません。もちろん、「入居率が50%未満で低迷しているから、撤退して、閉鎖しよう」ということもできません。
つまり、どれほど高いノウハウのある事業者であっても、資金力があっても、現在の「自立~軽度要介護高齢者住宅」を、「重度要介護高齢者住宅」として再生させることは難しいのではなく、不可能なのです。




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