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いよいよ、行き詰まってきた介護経営・介護業界


 介護経営・介護業界が、いよいよ行き詰まってきたという感が強い。
 この手の話をすると、我が意を得たりと「介護報酬ガ~」「厚労省ガ~、財務省ガ~」と口を尖らす介護経営者、施設長、管理者は多く、スイッチの入ったテレビのコメンテーターように唇を尖らせて喜々として語る人もいる。
 確かに、いまの介護業界に未来が見えないのは厚労省はじめ政治家・官僚の責任は大きい。省庁間の利権争いと天下り先の確保、目先の選挙目的だけで社会保障制度を語り、制度間の矛盾や囲い込みをはじめとするグレーゾーンや巨額の不正を四半世紀もの間、漫然と放置、拡大させてきたからだ。介護看護の人材派遣業、高齢者住宅紹介業への規制の遅れもその一つだろう。
 高齢者医療介護は巨大な利権産業と化し、不正や不適切な運用、グレーゾーンで暴利を貪る悪徳事業者、派遣・紹介などの中間搾取の企業ばかりが羽を伸ばし、介護報酬が適正な運営をしている事業者や現場で汗を流す介護人材に渡らない仕組みになっている。制度の歪み、対応の遅れで生まれた公的資金の流用は年間数兆円に及び、介護業界が抱える闇は金額・内容ともに、ビッグモーター問題で揺れた中古車業界や、プレデンシャル生命で明らかになった保険業界の比ではない。
 その問題については、他のところでも散々述べてきたので、これ以上は語るまい。
 ただ、介護業界が行き詰まっている最大の理由はそこではない。外部環境に責任転嫁するばかりで、介護経営者が必要な努力をしてこなかったからだ。

 いくつかの業界団体で毎年、定例で行ってきた「リスクマネジメント研修」を、次年度からすべてお断りした。
 リスクマネジメントは、転倒骨折事故やトラブル、利用者・家族からの過剰やクレームなどから、介護スタッフを守るための介護経営必須のカリキュラムだ。そのために低価格での講演を引き受け、「リスクマネジメントは、業界・法人上げて取り組むべき課題であり、施設長や管理者、理事長、理事に受けてほしい」と事務局を通じて何度も話をしてきた。しかし、残念ながらその出席はなかった。彼らにとってリスクマネジメントは「介護スタッフを事故やトラブルから守るため」ではなく、微々たる「安全対策体制加算」目的でしかないからだ。
 いつも出席するのは、介護主任や介護リーダーといった現場の中間管理職だけ。法人の理解や組織的なバックアップがないまま「リスクマネジメント担当」「事故対策担当」に任命され、感情的な家族のトラブル対応に忙殺され嫌気がさして、次々と退職してしまう。その結果、「担当スタッフが辞めて加算が取れないから・・・」と毎年のように依頼されるという負のスパイラルが続いていた。「加算点数がもっと上がれば、リスクマネジメントに力をいれる法人は増えてくるだろう」という管理者の声を聞いて、これが介護業界の現状、認識なんだと愕然とした。
 契約やケアプランの説明も不十分なまま、事故やトラブルが起きたときも、法的な整理も家族対応もできず、スタッフも守れず、オタオタするだけの管理者、経営者の下で優秀な人材が働くはずがないだろう。優秀な現場の中間管理職ばかりに負担が集中し、「困った、困った」というだけで工夫も努力もしない管理者・経営者だけが、高額の報酬を受け取って居続けているのが、この業界が行き詰まった最大の理由だ。

 「介護人材が不足している」という声は全国に広がっているが、介護人材確保のために、今どのような経営努力をしているのかと聞けば、「この地域では・・・」「他の法人でも・・・」という言い訳ばかりで、経営的側面からの「独自の工夫」「長期的な対策」といえるものはまったくない。
 「介護の給与はその専門性と比較して低い」と言うことは事実だが、介護よりも給与水準の低い業界はたくさんある。厳しいようだが、「介護報酬が低いから優秀な人材が集まらない」と考えているような人は、介護業界だけでなく、そもそも経営者や管理者には向かない。介護報酬が上がれば、介護の仕事をする人は一定戻ってくるかもしれないが、餌がもらえるのを、ぼんやり口を開けて待っているような経営者、管理者のもとに集まるのは、同じタイプの「言われたことしかやらない・できない」「トラブルや問題が起きれば逃げ出す」という無責任なスタッフだけだ。「スタッフ教育、資格取得支援など、できる限りの経営努力をしている」と反論する人がいるが、それは他のところでもやっている。高校野球ではあるまいし、事業体のトップに立つ経営者・理事長・管理者たるものが成果の伴わない「一生懸命やりました」というだけで認められるはずがないだろう。
 介護ビジネスは、「公的な介護保険制度・介護報酬に収益性が左右される」という他のビジネスモデルにはない特殊性があることは事実だが、一方で、貸し倒れによる連鎖倒産はないし、為替相場の変化、テクノロジーの変化、顧客ニーズの変化、金利の上昇などに直面している他の業界と比較すれば、介護経営の外部環境の変化から受ける影響は小さい。トフラーが『富の未来』で指摘しているように、「法整備・行政対応と市場の変化には大きなタイムラグが生じる」と言うのは当然であり、事業特性から当たり前に想定されるリスクや変化にさえ対応できていないのが、今の介護経営なのだ。

 もう一つの課題は、彼らには、この五年以内に始まる高齢者医療介護制度の大改革が見えていないということだ。「消費税減税」「社会保険料値下げ」と言う波の中で、仮に介護報酬が数%上がってもその数十倍の圧縮策が行われることは間違いない。そうしないと介護保険制度、特に自治体の財政が持たなくなるからだ。また、地方でも都市部でも、「介護報酬が低いから」というより、「人口動態として介護を支える人が不足している」というところもでてている。
 しかし、経営者・管理者に、「五年後、十年後には介護業界はどうなっているか?」「あなたの法人・事業所がある自治体の人口動態はどうなっているか?」と聞いても、「今より厳しくなっているでしょうね」と評論家のように言うだけで、最低限の経営データさえも頭の中にはない。それでは当然、必要な対策もとれない。こんな素人経営者が跋扈しているような業界は介護業界以外にはない。目先の利益だけで自分が描く介護業界や法人の未来を語ることなどないのだろう。
 いま、介護人材の流出が問題となっているが、その次に間違いなく起きるのは「M&A」という経営者の逃散だ。介護サービス事業には、それぞれの事業種別に適正な規模、安定するビジネスモデルというものがある。介護報酬として設定されている介護種別でも、単独ではとても事業性・採算がとれないものも多い。
 これから、小規模事業者の淘汰だけでなく、社会福祉法人や大手事業者も雪崩をうつように譲渡や破綻、解散が続くだろう。すでに「囲い込み」などのグレーゾーンで稼ぎ終わった住宅型・サ高住は、不正が発覚する前の譲渡のタイミングを狙っているとも言われている。不動産バブル崩壊の場合、その尻ぬぐいをさせられたのは銀行だったが、介護バブルの崩壊で、そのツケを最後に払うのは市町村だ。そのぺんぺん草も生えないような荒れ地の後に、地域包括ケアと言う名の、高齢者医療介護の厳格な自治体管理の時代がやってくる。
 そこまで、持ちこたえられる経営者・管理者は、どれだけいるだろうか。

 




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