企業の組織論は、経営学の一つの分野として研究が進められている。
それは「こうあるべき」というひとつの解を導くものではない。その事業の目的・役割によって、また、組織の規模、醸成度合い、周辺環境の変化によっても変わってくるからだ。
介護経営においても、新施設開設などプロジェクトを推進するときに適した組織体系と、各老人ホームの管理運営における組織形態は違う。また、介護保険当初のように、介護業界全体に追い風が吹いているときと、冷たい逆風が吹き荒れるこれからの組織形態は、おのずと変わってくるだろう。
この組織論を「事業をどう管理するか」だと考えている経営者は多いが、その役割はもっと広い。「事業の目標をどう達成するか」であり、「その達成ために各スタッフが最も高いパフォーマンス発揮するにはどうすればよいか」である。
組織論は事業の成否を決める、経営上、重要なエレメントの一つなのだ。
ここでは、二回にわたって、介護経営の組織形態のこれからについて、考察したい。
介護経営にビラミット型が適さない理由
組織論とは、その組織が目的を達成するための意志決定過程、責任の所在、役割を定めることだといってよい。経営環境の変化によって、また経営者が何を目的とするかによって、組織、求める人材、適材は変わってくる。一般企業でも社長が変われば、組織の再編・再構築が行われるのはそのためだ。昭和のロボットアニメのように合体したり、必要なパーツを組み合わせて変身するイメージだろうか。
ただ、その土台となる組織にはいくつかの形がある。
◇ ピラミッド型
社長を頂点として、部長・課長・係長などの管理階層が重層的に積み重なり、上意下達で統制する組織形態。一般企業では最も多い組織形態。責任の所在や役割が明快で、大規模な組織でも、統制や標準化を維持しやすい。その一方で、意思決定に時間がかかりやすく、現場の意見が、経営層に届きにくいというデメリットもある。
◇ フラット型
中間管理職をなくすか最小限に抑え、役職構造を平面的に組織形態。社長と現場との距離が近く、迅速な意思決定や自由なコミュニケーションがとりやすい。一方で、明確な指揮命令系統がないため、責任の所在が曖昧になりやすい、数少ない管理者の負担が重いなどのデメリットもある。
◇ 逆ピラミッド型
顧客や現場の最前線に立つメンバーを最上位に置き、経営陣やマネジャーはそれを支える土台として機能させる組織形態。現場の意見、ニーズがダイレクトにサービスへ反映されるため、スピーディな判断、実行が可能となる。一方で、統制やルールが曖昧になると機能せず、逆に共通の理念やミッションがなければ、組織として機能しないというデメリットがある。
これ以外にも、「マトリックス型」「ネットワーク型」などと呼ばれるものがあるが、それぞれに適正が違い、メリットデメリット、一長一短がある。
介護業界でも、一般企業と同じピラミッド型のところが多いが、わたしは、この組織形態は介護企業のシステムに適しているとは思っていない。
それは、ビラミット型はワンイッシューの組織に適した組織構造だからだ。
一般企業の目的・目標は「営利」であり、その責任、達成度、評価基準を数値であらわすことが可能だ。経営者が、各部門にデータとして目標を設定し、部下はその指示が達成できるように粛々とこなしていくことになる。
しかし、介護事業は、より高い営利を追求すればよいというものではない。
介護は、公的な介護保険制度に基づく事業であり、高い倫理観や社会貢献性が求められる。それは「人にやさしい経営、社会に貢献できる介護会社になれ」ときれいごとを言っているのではなく、それが事業特性であり、長期安定経営に不可欠な視点だからだ。
残念ながら、いま、多くの介護事業者は、反対の道を進んでいる。各現場では、利益率の高い高齢者のみを対象とし、いかに安い人件費で介護させるかに腐心している。不都合な自己やトラブルを隠蔽し、囲い込みや認定調査の改竄、不正請求によって巨額の利益を上げる一方で、人件費を抑えられた介護現場は過重労働となり、「介護はブラック」と多くの介護スタッフが逃げ出している。この手の企業は、短期的には成功したようにみえるだろうが、この先、生き残っていくことは難しい。つまり、利益というワンイッシューを目的としてビラミット型組織にすると、介護経営は失敗するのだ。
わたしは、「訪問介護のみ数か所」「デイサービスのみ数か所」といった小規模の介護サービス事業所や、特養ホーム一か所、デイサービス、訪問介護一か所程度の社会福祉法人であれば、無理に役職を作ってピラミッド型にする必要はなく、フラット型で十分だと考えている。経営者が、日々、御用聞きのように各事業所を回って、各管理者やスタッフから「困っていることはないか」「課題になっていることはないか」と、聞いて回ればよい。起きている問題に対する意思決定も迅速になり、働いているスタッフも社長の顔が直接見えれば、やりがいも生まれるだろう。
もちろん、そのためには、経営者が現場をよく知っていて、一定の経営手腕、課題対応能力があるということが前提にはなるが…。
介護経営に適切な組織形態とはなにか
たた、このフラット型には、二つの限界がある。
一つは、規模の限界だ。単一サービスの運営事業所が数か所程度であれば、一人の経営者がすべての事業所を管理することは可能だが、これが数種類、事業所が十か所を超えれば、そのキャパを超える。
もう一つは、経営上の限界だ。
介護産業全体を見た場合、その根本的な課題は、日本の農業とよく似ている。
その多くが小規模事業者だということだ。農業の場合も九割以上は家族経営などの小規模な個人経営体であり、訪問介護も九割以上は、職員が10人以下だ。「半数以上の農家の経営が悪化している」「四割の訪問介護が赤字に陥っている」とマスコミは報じているが、それは当たり前のことで、生産性が低いため経営環境の変化に対応できないからだ。 今後、社会福祉法人をはじめ、小規模の介護サービス事業者が単独で運営を続けることは困難で、合併による大規模化を余儀なくされるだろう。
この二つの理由から、フラット型もこれからの介護経営には適さないということになる。
事業規模が一定以上のものとなった場合、必ず階層的な組織体系が必要となる。
しかし、述べたように、介護経営はワンイッシューではないため、ピラミッド型の組織はなじまない。そこで、候補として挙がってくるのが、顧客や現場の最前線に立つスタッフを最上位に置き、経営陣やマネジャーはそれを支える土台として機能させる「逆ビラミット型」だ。
この逆ピラミッド型の組織は、「現場が一番偉い」と言った短絡的な話ではない。以前も、介護経営には「逆ピラミッド型が望ましい」というコラムを書いたが、上下さかさまになるだけでは、役割や責任が曖昧になり、ピラミッドはぐるぐると回転を始め、遠心力で崩壊することになる。
介護経営における逆ピラミッド型理解のポイントは三つある。
① 中間管理職から部門経営者へ
ビラミット型との最大の違いは、これまでの中間管理職が、部門経営者になるということだ。
ビラミット型の場合、係長、課長、部長といった各部門の責任者は、中間管理職と呼ばれている。明確な成果を求める上司から指示と、現場からの突き上げに苦労しているというイメージだろうか。
これに対して、逆ピラミッドは、上司は現場のマネジメントを支援するという体制にかわる。ユニットケア型の特養ホームの場合、そのユニットをマネジメントするのはユニットリーダーだ。これがマネジメントの最小単位、最前線となる。
ユニットリーダーは、自分のユニット内のスタッフやサービスを適切にマネジメントする責任を負う。そのユニット経営の責任者なのだ。そのユニット単位では対応できない問題や、ユニットリーダーの手に余る課題について、フロア経営の責任者であるフロアリーダーが支援を行い、フロアリーダーでは対応できない場合、その上の介護看護課長、施設長が支援することになる。つまり、逆ビラミット型は、管理ではなく、各部門の長が責任を持って経営するシステムなのだ。
では、経営者は何をするのか。
下からずんずん上がってきた課題への支援を、最後にすると思っている人が多いが、そうではない。
経営者は、話し合ったり、部門間の調整したりという実務的なマネジメントの支援はしない。全体的な方針や目的、目標の設定と、上がってきた課題について最終的な判断を下すだけだ。マネジメントを行うのは、現場のユニットリーダーからナンバー2までということになる。そこまでの調整で解決できない問題について、決断をくだすのが経営者の役割だ
② 責任・マネジメントを伴わない役職は不要
この経営構造は、「介護現場を支援する」と言う曖昧なものではなく、その最先端にいるユニットリーダーなどの部門経営者のマネジメントを、組織的に支援することにある。
そのためには、まず「あなたは、A部門のマネジメントの責任者(経営者)だ」と明確にしなければならない。そこには一定の権限と予算を与える必要があるし、もちろん、経営責任者なのだから、これまでの中間管理職よりも高い待遇を用意しなければならない。
ビラミット型の一般企業の場合、「課長補佐」「部長代理」など、名詞に書くだけの役職が多いが、逆ピラミッドの場合、マネジメントをしない役職者、責任部門を持たない役職者は不要だ。経営責任の範囲を明確にして、組織全体がシンプルであれば、シンプルであるほど、うまく行く。
③ 本部機能の在り方
この逆ビラミット構造の、もう一つのカギを握るのが「本部機能」だ。
一定規模以上の介護企業には、必ず本部機能というものがある。
どこでも本部には、たくさんの人、特に偉い人があつまっているのだが、傍目には「この人は、普段、何をしているんだろう」と思うことが多い。介護以外の企業が介護業界に参入している場合、本社から送られてきた、余剰人員の巣窟にようになっているところもある。
それは、役割や責任というものが、明確になっていないからだ。
ただ、逆ピラミッド型の組織では、本部機能が不要、もしくは縮小できるかといえばそうではない。逆ピラミッド構造の組織形態には、本部機能が極めて重要になる。それは、逆ビラミット構造の組織形態は、日々の介護サービス事業としての経営管理機能はあるが、それ以外の機能がないからだ。
この本部機能の問題については、長くなるので、次のコラムに書きたい
以上、三つのポイントを挙げた。
述べたように、ビラミット型と逆ビラミット型の違いは、単に三角形がひっくり返るだけではなく、最小単位の部門、その責任者を組織としてバックアップすることにある。
そこには、いくつかの効果が期待できる。
一つは、部門間での競争だ。
ビラミット型の競争は、ワンイッシューであるため、「営業一課一係」と「営業二課二係」の競争は、収益競争にしかならない。一方、逆ピラミッドの場合、マネジメントの競争は「サービス競争」「働きやすさ」の競争となる。部門経営者の考える重点項目、創意工夫によって、レクレーションやトラブル対応、家族との関係強化など、それぞれに特色がでて、互いに良いところを取り入れながら、高めていくことができる。
二つ目は、経営の透明化だ。
ピラミッド型組織構造の最大の課題は、必要な情報が滞ってしまうことだ。
それは、部下が叱られないために、上司に真実を伝えなかったり、責任を問われるのが嫌で、トラブルやリスクを過小に報告してしまうからだ。
逆ピラミッドの場合も、「ゼロ」とは言えないが、その可能性は小さくなる。なぜなら、上司はその部下の困ったことやミス、直面しているトラブルが解決できるように支援するのが仕事だからだ。
介護の仕事は、毎日、当たり前のように事故やトラブルが発生する。そのほとんどは部門経営者の責任ではない。「困りました」と言う事態が起きるのは当然のことであり、自分の手に余れば、上司や組織に「支援、お願いします」と連絡、報告すればいいのだ。相談された上司は、自分だけで対応できるのなら、解決後に報告すれば良し、手に余るならば、「上に支援を求めよう」となる。それだけのことだ。
では、「ビラミット型組織」を「逆ピラミッド型組織」に変革するにはどうすれば良いだろう。
「組織改革をして、ビラミット型から逆ピラミッド型にします」
「みなさんは、中間管理職ではなく、部門経営者です」
そう宣言して、組織図を逆さにするだけでは、現場は混乱するだけで上手く機能はいない。また、いまでも、多くの事業所で「この法人はビラミット型か、逆ビラミット型か」と意識していなくても、施設長は各ユニットリーダーのサポートや支援を行っている…と思う人いるだろう。
ただ、それは全く違う。この逆ビラミット型の組織において、もっとも重要なことは、「わたしはこの部門の責任者、経営者だ」と、各リーダー、部門長が認識しているかどうかだ。
もう一度言おう。組織論とは、その組織が目的を達成するための意志決定過程、責任の所在、役割を定めることだ。そして、それを全職員がそれを認識していることだ。ビラミット型のままでは、部長クラスでも、その上の幹部クラスでも、「自分が責任者」だという認識がない。中間管理職だからだ。
だから、社長の話を大人しくフムフムときいているだけで、会議で意見も反論もできないし、自分から部門内の経営課題やリスクを探そうともしない。責任や役割の認識が曖昧なままでは、経営課題の解決も成長もないのだ。
「ユニットリーダーはユニットの経営者」という理解が、組織のなかで当たり前になるように意識改革をするのだ。それには、部門経営者としての教育も、そのための時間も必要となる。この組織形態を変えるというのは、「一課と二課を統合しよう」「二つの課を併合して、新しい部門を作ろう」というのとは、まったくレベルの違う話なのだ。
この変革には、混乱や軋轢もあるだろう。
その段を下すのは、経営者の仕事だ。
経営者は、「困った…」といっても、誰にも相談、支援をもとめることなどできないのだから…



























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