「車がないと不便だが、いつまで運転できるかわからない」
「トクリュウによる強盗犯罪も増えており、夫婦のみの生活が不安」
複合的な理由から郊外の自宅を売って、セキュリティが高い、便利な都市型のマンションに住み替えたいという高齢者は増えています。そのニーズに対応する商品として都市部を中心に増加しているのが、「高齢者向け分譲マンション(シニア向け分譲マンション)」です。
「有料老人ホームの利用権と違い、所有権として法的に確立された権利」
「有料老人ホームの利用権と違い、マンションが相続資産として残る」
「レストラン・訪問介護・医療機関併設で、要介護になっても安心・快適」
「共用部全面バリアフリー、居室内車いす対応」
「コンシェルジュなど専門の相談員を配置」
これらのセールスポイントは、どれも一定の金融資産を持つ高齢者夫婦には刺さるものとなっていますが、この「区分所有権」と言う権利にはメリットだけでなく、極めて大きなリスクがあることを理解しなければなりません。それは、自分たちで居住者が自分たちで管理しなければならないからです。
この高齢者分譲マンションで想定される、管理上のリスクを三つ挙げます。
シニア分譲マンションで想定される三つのリスク
① 管理費・修繕積立金の未納の大量発生
一つは、管理費や修繕積立金の未納の増加です。
本人が管理費・修繕積立金を支払わない場合、管理組合が支払いを求めて法的手段に訴えるし科方法はありません。しかし、それでも本人が支払わない・また支払えない場合、裁判でその物件を競売にかける必要がでてきますが、それには手間と労力だけでなく、相当の費用がかかります。
未納のまま本人が亡くなって、相続人が不明の場合、更に大変なことになります。
弁護士や裁判所に依頼して相続人を探しだし、所有権移転や片付けを依頼することになりますが、その相続人が相続放棄すれば、債権(未納額)は無効となり、弁護士費用さえ戻らず、数百万円規模の損失だけが残ります。そのまま、その部屋の所有者は宙ぶらりんとなり、それ以降の管理費も修繕積立金も徴収できなくなります。
一般の分譲マンションでも、建築後三〇年四〇年という築年数の古いマンションでは、同様の問題が多数でてきています。特に、「高齢者専用分譲マンション」の場合、入居時に七〇代という人が多いため、一〇年内に、「管理費・修繕積立金の未納の激増」「死亡後の相続人不明問題」がでてくることが、容易に想像できます。それは、残った居住者(区分所有者)の負担が重くなるということです。
② 認知症によるトラブル、失火リスク
一般のファミリータイプのマンションでも、「階上の子供の足音がうるさい」「ピアノの音がうるさい」といった近隣トラブルは発生しています。ただ、「シニア分譲マンション」で問題となるのが、従来の近隣トラブルとは一線を画す「認知症による生活トラブル」です。
この認知症の周辺症状によるトラブルに有効な解決策はあるのかといえば、残念ながらありません。本人との話し合いも、意味はないからです。ごみ屋敷で廊下までゴミが溢れていても、夜中に混乱して奇声を発するような状態になっても、夜中に間違ってどんどんと戸を叩かれても、本人が納得しない限り、本人の所有する部屋(専有部という)から出て行ってもらうことはできません。
認知症が進むと、失火のリスクも高くなるため、上下左右と言った隣接する住戸だけでなく、全戸の資産価値に及びます。有料老人ホームの利用権は、法律に担保されない曖昧な権利であり、その運用に課題があることは事実ですが、逆に強すぎる所有権は、認知症リスクの高い高齢者の集合住宅には適さないのです。
③ 管理費・修繕積立金の不足
管理は、清掃・メンテナンスほか管理人の人件費など、日々の管理に使うお金であり、修繕積立金は将来の大規模修繕に向けて管理組合で積み立てていくお金です。
特に問題は、修繕積立金の不足です。一般の分譲マンションでも、修繕積立金の不足によって、必要最低限の修繕さえできないところが増えています。特に、高齢者分譲マンションの場合、一般のマンションよりも共用部の割合が高く、共用設備が特殊なものが多いため、修繕費用は高額なものになりがちです。更に、併設している入居者用の駐車場やレストランや医療機関・介護事業者の賃料も、修繕積立金に組み込まれていますが、レストランが撤退したり、高齢になって車を手放す人が増えれば、計画通りの修繕積立金が集まらず、一気に値上げとなるリスクが高くなります。
一般の分譲マンションでも、毎月、決められた管理費・修繕積立金を支払っていれば、管理会社が上手くやってくれるだろうと安易に考えている居住者(区分所有者)は多いのですが、あくまで管理会社は事務支援だけで、管理責任は区分所有者で構成される「管理組合」にあります。
述べた、「① 管理費等の未納の発生」は、事務的な督促は管理会社がしてくれますが、それでも支払ってもらえない場合、弁護士への委託や競売などは管理組合の責任で行わなければなりません。「② 認知症の対応」は、居住者同士の問題として管理会社は対応しませんし、「③ 管理費・修繕積立金の不足」も、一方的に「値上げしてください」と言ってくるだけです。
管理会社は営利事業です。管理費や修繕積立金が管理会社の良いように吸い取られるだけで、適切な管理ができていない、基本的な修繕さえできない「管理不全」のマンションは、いまもたくさんあります。このマンション管理の不全・不正は、一般マンションでも大きな社会問題となっており、大規模修繕工事を高額な工事会社が受注するように誘導し、紹介料をとっているところも少なくありません。
特に、高齢者向け分譲マンションでは、一〇年後には、ほぼすべての区分所有者が七〇代後半から八〇代となるため、管理組合が、管理会社の業務内容をチェックし、自発的に理事会・総会を行うことは困難になります。結果、管理会社の言いなり、もしくは管理不全によるトラブル・崩壊となる可能性が極めて高いのです。
『シニア分譲マンションは資産』に潜む嘘
これは、管理不全の問題だけではありません。
高齢者分譲マンションの最大のセールスポイントは資産価値です。
ただ、マンションを資産として残すためには、それは「権利」の問題だけでなく、実際に売却して、金銭に換えることができるというのが前提です。
しかし、述べたように、高齢者向け分譲マンションは、いまの分譲マンションで発生している管理不全による様々な課題・リスクが、短期間に数倍、数十倍となって発生する可能性が極めて高いにもかかわらず、その想定や対策が、法的にも実務的にも全く行われていないのです。
シニア分譲マンションは、いまのリゾートマンションと同じように、試算価値がなくなり、タダでも引き取り手がなくなる可能性が高いと考えています。
【高齢者向け中古分譲マンションの売却・賃貸の難しさ】
① 対象者が限られるため、マーケットが小さく、中古市場が活性化していない
② 共用部が広く、専有部の面積・立地だけを比較すると一般マンションよりも高額
③ サービス維持コストが大きく、管理費・修繕積立金共に通常マンションより高額
④ マーケットがないため、分譲貸し(賃貸に出す)ことも難しい
シニア分譲マンションは、分譲時の価格は近隣の同程度の面積の一般分譲マンションよりも高額であるものの、対象者が一部に限定されるため、中古の売却価格は低くなります。そもそも、一般の不動産屋が不動産管理や売却仲介をしてくれるかどうかもわかりませんし、様々な生活支援サービスが付属しているため、管理費・修繕積立金が高額であるため、賃貸に出しても、それをカバーするだけの賃料を取ることは難しいでしょう。
「有料老人ホームの曖昧な利用権と違って、マンションが不動産資産として残る」とは言うのは権利上、虚偽ではありませんが、相続しても売却できなければ、そのまま所有しつづけることになります。売却できなければ、誰も住まず、売ることもできないのに、値上がりし続ける、高額の管理費・修繕積立金だけを、永遠に払い続けなければならないという「負の遺産」になるのです。
実は、あと10年でそうなる可能性は極めて高いのです。



























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