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介護人材育成の究極の目標はなにか 2  ~人材確保競争に打ち勝つ~


 前回、介護人材育成にみる一流事業者~三流経営者の違いを述べた。
 これは、「人材育成」という視点から見た事業者の格の違いだと言ってもよい。
  ◆ 一流介護事業者 ・・・ 介護の3つのマネジメントの知識・技術・ノウハウが見につく
  ◆ 二流介護事業者 ・・・ 介護の専門職としての基礎的な知識・技術が身につく
  ◆ 三流介護事業者 ・・・ どれだけ働いても、基礎的な知識・技術さえ身につかない

 ただ、残念ながらそれ以下、論外というところもある。
  ◆ 四流事業者 ・・・ 基礎的な介護機能が整っていない
  ◆ 論  外 ・・・ 介護現場に「囲い込み」などの不正を強いる

 四流事業者は、「要介護対応」を標ぼうしながら、必要な介護機能が整っていない事業者だ。
 ヤフーなどのネットニュースには、「介護職経験あり、いまも介護の仕事をしている」という人達からの「介護の仕事はブラックだ」という声が溢れているが、それは、彼らは四流以下の事業者でしか働いたことがないからだ。確かに、介護業界は、公的な介護保険を土台としているため給与に差がつきにくい。ただ、同時に介護業界ほど、給与以外の労働環境、働きやすさに格差のある業界もない。素人経営者と同じで「介護なんて仕事はどこでやっても同じ」「介護はどこでもブラック」と思っているからだ。
 十年ほど前、牛丼チェーンの「すき家」の深夜帯でワンオペ(従業員が一人体制)が社会問題となったことがあった。同じ席数の深夜の飲食バイトをするとしても、ワンオペの「すき家」で働くのと、「二人体制」の「吉野家」で働くのとは、忙しさや労働環境は全く違うということはイメージできるだろう。
 介護業界は、事業者によって、働きやすさ、労働環境は、その飲食業の二倍、三倍、それ以上に違う。 同じ入居者定員60人の介護付有料老人ホームでも、夜勤一人、二人というところもあれば、三人というところもある。二人体制と三人体制を比較すると、単純計算で一人当たりの業務量は1.5倍となるが、一人が休憩に入ると、60人を一人で介護しなければならないため、センサー・コール対応など、実際の業務量、ストレスは2倍~3倍に膨れ上がる。
 これは入浴介助や食事介助も同じ。「もともとの特定施設入居者生活介護の人員配置がおかしい」と責任転嫁をする経営者もいるが、要介護状態によって介護の業務量は大きく変動するため、それに合わせて必要な人材を確保する責任は経営者にある。介護付有料老人ホームで重度要介護、認知症高齢者を対象としているのであれば、【3:1配置】では基本的な介護もできない。そこで急変や死亡事故が起きれば、「介助ミス」としてスタッフ個人が刑事罰に問われる可能性もある。

 さらにその下、この四流事業者以下、論外なのは、「囲い込み」など、ケアマネジャーや介護スタッフに不正を強いる事業所だ。この問題については、【サンウェルズの「PDハウス問題」 囲い込みのパンドラの箱はいつ開く(上)】でも詳しく述べいるが、これはサンウェルズだけでなく、「認定調査の改竄」「ケアマネジメントの不正」「介護報酬の不正請求」は、大手を中心に、多くの住宅型有料老人ホーム、サ高住に蔓延している。
 こんなところで働いていて、死亡事故が発生したり、不正が発覚したりすれば、ケアマネジャーや介護福祉士の資格ははく奪となり、業務上過失致死や詐欺罪に問われる可能性もある(事業者は管理責任だけで、不正を行ったのはスタッフ個人だから)。また、同業他社に転職したくても、「不正の片棒を担いでいました」「手抜き介護をしていました」とアピールするようなもので、『あぁ~、あそこにいたの…』言うだけで、二流以上の事業者では雇ってもらえない。このような事業所は、労働者にとっては「ブラック企業」というよりも「暗黒企業」だといってもいい。
 この四流、論外の事業者は、依頼があってもコンサルティングは受けられない。経営ノウハウの問題ではなく、最初からビジネスモデルが崩壊、もしくは違法行為に立脚しており、またその不正や手抜き介護に大半のスタッフが慣れてしまっているため、事業として立て直せないのだ。大手の中にも、このタイプの事業者は多く、隠蔽しているだけで骨折などの重大事故が多発していると言われている。今後、不正による監視・規制が強化されれば、スタッフが逃げ出し、事業崩壊は避けられないだろう。

~二流事業者と一流事業者の違いは大きい~

 まともな事業者の話に戻そう。
 注目してほしいのが、一流事業者と二流事業者の違いだ。
 二流事業者以上は合格だといったが、事業者サイドの「中長期的かつ安定的な人材確保」だけでなく、介護人材から見た「介護のプロとして得られる知識・ノウハウ」という両者の視点で見ても、三流事業者と二流事業者の差よりも、一流事業者と二流事業者の格差の方が大きい。
 「介護」と言う仕事は、高度な知識・技術に基づく専門職種であるが、二流事業者で得られるのは、専門学校や大学に行けば、誰でも得ることのできるオープンな基礎知識、基礎技術でしかないからだ。介護福祉士、社会福祉士などの資格を持っていれば、学校で学んだ以上の知識・技術を得ることはできない。また、そこで五年、十年働いても、目に見えない、漠然とした経験値だけで、組織論に基づいたマネジメントや管理のノウハウは得られない。転職すれば、多少の経験値は加算されるかもしれないが、新人介護福祉士とさほど給与水準はかわらないだろう。
 これに対して、一流事業者では、専門学校や介護系短大、他の介護事業所では、学ぶことのできないリスクマネジメントや全体的なケアマネジメント、経営管理の実務・考え方など、より高い、深い実践的なノウハウを得ることができる。なぜなら、三つのマネジメント能力は、それぞれの事業者の独自の知識・技術・ノウハウの蓄積であり、その事業者で働かなければ、得られないものだからだ。

【専門学校新卒 介護福祉士の10年後の知識・技術・ノウハウ】
  ◆ 三流事業者 ・・・ 10年後も変わらない (劣化するリスクもあり)
  ◆ 二流事業者 ・・・ 10年後も変わらない
  ◆ 一流事業者 ・・・ 3つのマネジメント実務の知識技術・ノウハウが身につく

 「介護スタッフが二年、三年くらいで辞めてしまう」という介護経営者の悩みは多いが、それは「このまま、この事業所で働いても、2年後も3年後も、10年後も20年後も、毎日、代り映えのしない仕事・生活」ということが見えているからだ。
 一方で、この3つのマネジメント能力は、現在、介護業界で最も欠けている、言い換えれば、これから介護業界で、最も市場価値の高いノウハウだ。どこへ行っても、有能な管理者として引く手あまたになる。このマネジメントの実務のノウハウの習得は、介護福祉士やケアマネジャーなどの資格をもった中堅スタッフが中心となり、そこから更に3年、5年といった研修、研鑽が必要となる。「いま、自分に足りていないもの」「この先、この事業所で得られるノウハウの価値」という、より高い目標が見えていれば、またそれがこの事業所でしか得られないノウハウだということが伝えられれば、2年、3年でマンネリ化して退職していくスタッフは少ないだろう。

超一流の事業者になるために必要なもの

 一流、二流と失礼な言い回しをしたが、それは一朝一夕で達成できるものではない。
 三流事業者は、まずは二流事業者を目指し、二流事業者は一流を目指すことになるだろう。
 介護報酬の増減に関わらず、介護人材の取り合いは、これからより厳しくなる。どこまでいっても、経営というものは、社会の変化や他事業者との競争でしかない。介護業界の競争は、他の産業のような「お客様獲得競争」ではなく「介護人材の育成競争」だ。働く介護スタッフにより高い目標を持たせ、市場価値の高いマネジメント能力をもつ人材育成ができなければ、同一域内での、優秀な「人材確保競争」を勝ち抜くことはできないのだ。

 特に、いまの介護人材不足の問題は、「紹介業・派遣業への登録増加」と密接にリンクしている。介護職員が集まらないのは、「プロパーで募集しても集まらない」というだけで、「派遣業・紹介業者を通せば集まる」という、制度の歪みが大きく影響している。ただ、この派遣業や紹介業に登録するのは、「責任を負いたくない」「嫌なことはしたくない」「機械的に言われたことしかやらない」「いつでも辞められる」という安直な考えをもつ人が多く、向上心・責任感もないため、チームケアが崩壊するリスクをはらんでいる。
 派遣・紹介に頼る労働者にとっても、介護現場で10年働いても、20年働いても、知識・技術・ノウハウどころか、最低限の経験値も得られないため、この先「低賃金の三流・四流の派遣先でしか働けない」「きちんとノウハウを得られるところで働けばよかった…」と後悔することは目に見えている。「介護のマネジメントができる人材を育成できる」ということは、事業者だけでなく、働いている介護人材・スタッフにも大きな付加価値を与えられるということがわかるだろう。

 最後に、この一流事業者を超える、「超一流」の話をしておきたい。
 それは、ここまで述べてきた条件をすべてクリアしたうえで、働いている介護スタッフに「愛着・帰属意識」を持たせることができる事業者・経営者だ。
 繰り返し述べているように、介護という仕事は、高度に専門性が求められる職種である。それが故に、知識・技術が高いスタッフほど、医師や看護師と同じように、「介護福祉士だ」「主任ケアマネだ」という専門性に寄るため、事業者への帰属意識が低下する傾向にある。「入所者、利用者のために…」というのは専門性倫理としては正しいのだが、かえってそれがチームケアや経営陣との歪みを産むリスクもはらむ。
 この愛着や帰属意識を持たせるために何をすべきか…。
 これは知識・技術・ノウハウではないため、その答えをコンサルタントは持っていない。それこそが経営者の人生観、懐の深さだと言ってよいだろう。目先のあぶく銭よりも、一緒に働いている仲間に「この事業所で介護の仕事をして良かった」「この経営者のもとで介護の仕事をしてよかった」と思ってもらえることが、経営者にとっても最上の喜びではないだろうか。




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