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知っておきたい 入居一時金の特性とリスク


 有料老人ホームの特徴の一つは、「入居一時金」です。
 一般の賃貸マンションの場合、一時金として支払うのは、家賃の数か月分の「敷金/保証金」だけです。これは、「家賃の未払い」「借主の過失で壁を壊した」など、入居中の借主の債務を担保するために貸主が預かる金銭であり、賃貸借契約が終了し賃借物件を貸主に明け渡す時に借主に返還されます。
 住宅賃借の対価として支払うのは家賃のみです。
 サービス付き高齢者向け住宅でも同じです。

 これに対し、有料老人ホームの入居一時金は、一般的に数百万円~数千万円、中には一億円を超えるところもあり分譲マンション並みです。
 どうして、それほど高額なのかといえば、その中に「権利金・保証金」「利用料(家賃)の前払い」「終身利用権」が一体となって含まれているからです。

有料老人ホームの入居一時金の仕組み

 下図の[入居一時金1800万円][初期償却20%][償却期間6年]という有料老人ホームを例に、、ごく簡単にその仕組みを説明します。


 入居一時金1800万円の内、初期償却の20%分、360万円(1800万円×20%)が敷金・保証金となります。これは一般の賃貸マンションの「敷金/保証金」と同じで、原則として、退居時に返還されます。

 残りの1440万円が、償却期間6年間の家賃相当(施設利用料)の前払いです。
 一年間の利用料が240万円、月に直すと20万円です。償却期間6年のうち、2年半(30ヶ月)で退居した場合、残りの3半年(42ケ月)の未利用分840万円(1440万円―(20万円×30ヶ月))と初期償却(360万円)を合わせて1200万円が返金されます。この「償却期間」と「入居一時金の金額」は相関関係にあり、償却期間が長くなれば、それだけ入居一時金が高額になります。

 問題は、償却期間の6年以上入居した場合です。
 前払いをしたのは6年分だけなので、常識的には7年目以降は毎月20万円の利用料を支払わなければなりません。しかし、「入居一時金を支払えば、償却期間を超えて入居しても、追加の利用料は必要ありません」というのが、もう一つの「終身利用権」です。つまり、入居一時金は、「敷金・保証金」「利用料(家賃)の前払い」だけでなく、合わせて終身利用できる権利(終身利用権)を購入するという性格を持っているのです。

有料老人ホームが倒産すれば、お金はほとんど戻ってこない


「入居一時金を支払えば、終身利用できるから安心だ」
そう思っている人が多いのですが、その選択においては、いくつかの注意が必要です。

① 入居一時金は建物設備に対する費用である
 「入居一時金が一千万円もするのだから、高級老人ホームに違いない」
 「介護サービスやその他サービスも充実にしているに違いない」
 そう思っている人が多いのですが、この入居一時金は、あくまでも「建物設備」に対する費用です。住宅型有料老人ホームでも、入居一時金が数千万円というところもありますが、重度要介護や認知症になれば、十分な介護を受けることはできません。
 「建物や共用設備が豪華」と言っても、重度要介護や認知症になれば、カラオケルームや大浴場は利用できませんし、居室内の浴室も一人で入浴できなくなれば使用しません。要介護高齢者が、同じ費用をかけるのであれば、建物設備の豪華よりも介護システムの手厚さを選ぶべきです。月額費用と合わせて、費用対効果をきちんと理解して選択する必要があります。

② 利用権は法的な権利ではない
 入居一時金の土台となっている利用権は、民法で定められた「所有権・借地権」とは違い、事業者と利用者との契約上の権利でしかありません。
 そのため、認知症の周辺症状や入居者間のトラブルで、老人ホームでの生活が難しいと事業者が判断した場合、入居一時金を支払っていも、退居が求められる旨の契約になっているのが一般的です。つまり「終身できる利用権」と言っても、それは確定されたものではないということです。
 また、最近は老人ホーム事業が譲渡され、経営者が変更になるケースが増えていますが、この利用権契約は法律上、当然に新事業者に引き継がれるわけではありません。そのため、新事業者から入居一時金の追加やサービス費の値上げ、退居を求められても、抗弁することはできません。

③ 倒産すれば入居一時金は戻って来ない
 この入居一時金という「利用料の前払い」という特殊な価格システムは、
   「入居者から見れば、償却期間を超えて長期入居した方がお得」
   「事業者から見れば、償却期間を超えて長期入居する人が増えると収支が悪化」
 と、相反する二面性を持っているため、経営が不安定になりがちです。
 高額の入居一時金を支払っていても、事業者が倒産・閉鎖となれば、介護、食事などのサービスはすべてストップとなります。退居せざるを得ないだけでなく、契約上、未償却部分が残っていても、返還される可能性は極めて低い(ほとんどない)というのが現実です。また、本来、運営資金とは別に保全して毎年償却すべき入居一時金を、運営費などに流用している事業者も多いとされており、その経営実態は不明瞭で、ある日突然、破綻・閉鎖するというリスクもあります。

 ここまで、有料老人ホームの入居一時金のリスクを三つ挙げました。
 「高額な入居一時金の有料老人ホームに入居してはいけない」と言っているのではありません。
 入居一時金を取っている有料老人ホームでも、きちんとしたところもたくさんあります。
 ただ、その入居にあたっては、そのリスクを十分に理解することが必要だということです。

 「一人暮らしになったので退職金を取り崩して、元気な時に五千万払って有料老人ホームに入った」
 「一人暮らしが不安になってきたので、マンションを売って有料老人ホームに入ることにした」

 いまでも、そんな人は多いのですが、高齢者の住まいの特性、入居一時金のリスクを考えると、10年、15年の長期の高額な利用料の前払いをして、「元気な時に有料老人ホームに入る」「自宅を売って入居一時金に充てる」のは、極めてリスクが高いということがわかるでしょう。
 実際、有料老人ホームの中には、「倒産までカウントダウン」と言われているところが少なくありません。15年分の前払い金を支払って、一年後に倒産と言うケースもあります。
 この入居一時金と言う価格システムは、「資産大・収入小」という高齢者に魅力的な価格設定であり、「長生きリスクへの保険」というメリットがあることは事実ですが、「経営悪化」「事業者変更」「倒産」という、それ以上のリスクがあるのです。

そのリスクを軽減するには、
「重度要介護になってから、介護システムの手厚い介護付有料老人ホームを選ぶ」
「できるだけ償却期間の短い(入居一時金が低い)介護付有料老人ホームを選ぶ」

そして、万一、倒産したことを考え、余裕資金は残しておくというのが基本なのです。


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