もう一つ、いま、高齢者住宅業界で大きな問題となっているのが「囲い込み」不正です。
住宅型有料老人ホームやサ高住は、「サービス分離契約」「区分支給限度額方式」であることから、「要介護向け住宅」には適さないと述べましたが、実際は、住宅型有料老人ホームにもサ高住にも、多くの要介護・重度要介護・認知症高齢者が入居しています。
また、区分支給限度額方式では、全額自己負担で「臨時のケア」「間接介護」に対応する介護スタッフを確保しなければならないため高額になるはずですが、重度要介護に特化した住宅型・サ高住の多くは、逆に介護付有料老人ホームよりも10万円以上安く設定されています。
なぜそのようなことが可能なのか。その背景にあるのが「囲い込み」と呼ばれる、介護付有料老人ホームに適用される「特定施設入居者生活介護」と、住宅型・サ高住に適用される「区分支給限度額」の違いに目を付けた不正です。
住宅型有料老人ホーム、サ高住が低価格にできるカラクリ
本来、同程度のサービス内容であれば、同程度の価格設定となるのが当然です。
しかし、なぜ住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が、介護付有料老人ホームよりも圧倒的に低価格にできるのか。そこには、介護保険制度の制度矛盾をついたカラクリがあります。
それは、介護付有料老人ホームのに適用される『特定施設入居者生活介護』の介護報酬と、住宅型有料老人ホームに適用される『区分支給限度額方式』の介護報酬には、大きな差があるからです。

図のように、同じ要介護3の場合、受け取れる介護報酬は、介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)が20万円程度であるのに対し、区分支給限度額では27万円と七万円の差となります。要介護5になると、その差額は12万円にふくれあがります。
もちろん、それには理由があります。
本来、区分支給限度額方式は、集合住宅ではなく、通常の在宅介護に適用される介護報酬です。一軒一軒の離れた自宅に訪問するため、その移動や手待ち時間などの非効率性や、限度額まで利用しない人も多いこと、また訪問介護や通所介護など複数の事業者に分散して利用されることなどから、集合住宅の介護付有料老人ホームよりも高い報酬体系となっています。
これを集合住宅である住宅型・サ高住に、区分支給限度額を適用させるのは問題があるのですが、これを厚労省が規制しなかったため、低価格で入居者を集めて、同一法人・系列法人で運営する訪問介護や通所介護を、事業者の都合で限度額いっぱいまで利用させることで、収益を上げる高齢者住宅が激増したのです。これを「囲い込み」と言います。
区分支給限度額方式には介護看護サービスだけでなく、ケアマネジメントや生活相談サービス、管理サービスなども含まれているため、その人件費を引いた営業収支の差額は、月額10~17万円になります。つまり、住居費や食費を介護保険に付け替えることで利益を上げる貧困ビジネスです。
いまでも、「併設・系列の介護サービスを利用させてはいけないというものではない」と抗弁する人がいますが、この「囲い込み」には介護保険制度の根幹にかかわる三つの不正が隠れています。
低価格住宅型・サ高住で蔓延する不正
① 認定調査の不正
この囲い込みは、要介護度が重くなればなるほど多くの介護報酬が得られるため、ケアマネジャーやかかりつけ医が結託して、自宅では自立・要支援だった人が「要介護3」になるなど、実態よりも重く要介護認定が行われるように訪問調査や意見書が改竄されています。
② ケアマネジメントの不正
介護保険は、その要介護状態や希望に合わせて、訪問介護や訪問看護、通所介護などの特徴の違うサービスを組み合わせて利用するというのが基本です。
しかし、このような「囲い込み高齢者住宅」では、医療介護サービスは、事業者が最も利益が出るサービスのみしか利用させてもらえません。「自分の部屋にいたいのに、毎日デイサービスに行かされる」「夜間に排泄が失敗しても朝までそのまま放置される」と言うのが現実です。それは、医療で言えば、「保険点数の高い関係のない検査をたくさんさせよう」「服薬で治るけど手術をしよう」「お腹痛いといってるけど、面倒だからほっとこう」と言うのと同じです。
③ 介護報酬の不正請求
この囲い込み高齢者住宅では、表面的には別契約の「高齢者住宅事業者」「ケアマネジャー」「介護サービス事業者」が結託し、サービス実施記録を改竄、偽装し、報酬請求が行われています。
本来、訪問介護は契約に基づいて、「Aさん12時~12時半までの食事介助」「Bさん13時半~14時の排泄介助」と、マンツーマンで提供されるのが基本となるため、臨機応変な対応かできる介護付有料老人ホームよりも、たくさんの訪問介護員が必要となります。
しかし、指導監査が杜撰なのをいいことに、「契約に基づく書類上の介護」と「実際に行われる介護」が全く違うという、介護保険法上の詐欺行為が横行しています。実際、大手の住宅型有料老人ホームでも、七人の入居者を三人の介護スタッフで入浴させ、手が回らず放置されて溺水で死亡するという悲惨な事故まで発生しています。
この「囲い込み」は、介護保険だけでなく、医療保険にも拡大しています。
要介護高齢者一人に対する介護付有料老人ホームの医療介護費は、年間300万円~400万円であるのに対し、住宅型・サ高住では600万円以上、最近増えている「パーキンソン病専門」などの住宅型有料老人ホームでは1000万円以上にのぼります。そして、その多くは「書類上の介護・医療」であり、実際には提供されていないのです。
この制度矛盾による報酬差は年間1兆円規模に、ここに認定調査などの不正を含めると3兆円に及ぶとされています。二〇二四年度の介護費用の総額が11兆円なので、その大きさがわかるでしょぅ。
大手の住宅型有料老人ホーム、サ高住でも、その多くで「囲い込み」が行われています。そうしなければ、20万円以下の低価格で要介護高齢者を受け要られるはずがないからです。
コンプライアンスを遵守して、真面目に運営している介護サービス事業者が、低い介護報酬の中で経営悪化に苦しむ中でも、この囲い込み高齢者住宅は、短期間で株式上場を果たし、毎年のように最高売り上げ、最高収益を更新し、その数をどんどん増やしています。
『社会的には問題だろうが、利用者・入居者にとっては安い方がありがたい』
そう思う人もいるでしょう。
しかし、このような「囲い込み高齢者住宅」のサービスの質は最悪です。
手抜き介護や不正、虐待が横行し、まともな介護スタッフは一人も働いていないと言ってもよいでしょう。それは、自分が不正をしているということがわかって働いている人だからです。
「介護のプロ」としてのプライドや専門性もなく、発覚すれば、介護福祉士やケアマネジャーなどの資格がはく奪になり、詐欺罪や業務上過失致死で刑事罰を受ける可能性もあります。だから、他で働けないような介護スタッフ、看護師しかいないのです。「介護の仕事はブラックだ」と言う声が大きいのは、このような不正請求や虐待を、「介護は大変だ」と言い訳にして不正とも思わないような劣悪な事業者や介護スタッフが増えているからです。
問題はそれだけではありません。
今後、「囲い込み」が禁止され、指導や監査が厳しくなれば、月額一〇万円以上の値上げをもとめられ、あっという間に倒産することになります。このような「囲い込み型」の住宅型やサ高住に入居するのであれば、自宅で介護を受けるほうが、よほど安全・安心・快適です。



























この記事へのコメントはありません。