診療報酬の不正請求で揺れるパーキンソン病専門の有料老人ホーム「PDハウス」。運営する「サンウェルズ」がオンラインで決算説明会を開いた。苗代亮達社長は、全社員向けに法令研修を行う方針を示し、「再発防止に向けてコンプライアンス強化を徹底する」と強調した。
このパーキンソン病専用の住宅型有料老人ホームの課題について述べる。
介護保険と医療保険の訪問看護がダブルカウントできる疾病
サンウェルズの「PDハウス」が、問題となったのは、要介護高齢者を対象とした医療保険の「訪問看護の不正」である。その背景にある高収益の「パーキンソン病専用の住宅型有料老人ホーム」とは何か、そのからくりから見ておこう。
要介護高齢者の訪問看護は、原則として介護保険制度に統一されているが、例外として20種類の疾病が「厚生労働大臣が定める疾病一覧」として示されている。

この疾病をもつ要介護高齢者は、自宅で生活する場合、介護保険の区分支給限度額だけでなく、別途、医療保険を使って訪問看護を受けることができる。見てもわかるように、それは「進行性の疾病(難病)」もしくは「常時医療監視が必要」とされるものばかりだ。
ただ、「PDハウス」を含め、ナーシングホームと言われる多くの住宅型有料老人ホームが、厚労大臣が定める難病高齢者全般を対象としているのではなく、「パーキンソン病専用」としている。それは、他の19の疾病と比べて、要介護状態・.進行度の差が大きく、常時の医療監視・看護監視が必要のない人も多いからだ。他の19疾病の場合、特養ホームや通常の看護体制の介護付有料老人ホームで受けることは難しいが、「パーキンソン病だから…」と断られることはない。パーキンソンであっても、必要な介護・看護は、通常の要介護高齢者とほとんど変わらないためだ。実際、わたしが介護を行っていた特養ホームにもパーキンソン病の人は複数人いた。
もちろん、すべてがそうではない。パーキンソン病でも重度になれば、自宅で生活を望む場合、介護保険の訪問看護だけでは対応できず、医療保険の訪問看護を使わなければ、在宅生活が維持できない人も一部いる。
そのため、このパーキンソン病には、別途、その対象が示されている。
① ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上
② 生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る
ただ、これも相当範囲が広い。
①の重症度分類がステージ3以上というのは、「小刻みに歩く、方向転換の時に転びやすい」などの症状であり、生活機能障害度 Ⅱ度、Ⅲ度というのは、「通院時に部分的な介助が必要」というレベルだ。つまり、要介護だけでなく要支援高齢者の、ほぼすべてが含まれることになる。
これが「おかしい」と言っているのではない。重症度判断を一律に厳しくすれば、必要な支援・看護を受けられない人がでてくるからだ。ただ、言うまでもないことだが、その趣旨を考えれば、それは医師が「このパーキンソン患者は、介護保険以外に、常時の医療監視、医療の訪問介護がなければ、最低限度の生活も維持されない」と判断した患者に限られる。だから、一定の範囲で判断が医師に委ねられているのだ。
しかし、「PDハウス」やその取り巻きの医師たちは、そうは考えない。「パーキンソン病の重症度判断は緩いから狙い目だ」「パーキンソン患者は、囲い込めば医療介護でダブルカウントできるからおいしい」という発想になるのだ。
「介護看護スタッフの法令研修・コンプライアンス徹底」の意味
この不正が発覚する前の2024年3月の決算を見ると、この会社の規模は、売上高が200億円、経常利益168億円、当期利益は78億円となっている。
この中で「入居者が眠っているのを看護師が数秒確認しただけで約30分訪問したように記録」「実際には2人で訪問していないのに複数人で訪問したことにして加算報酬」などの明らかな不正だけで28.5億円になるという。
それはそうだろう。制度の緩さを狙われただけで、有料老人ホームの入居者の多くは、パーキンソン病ではあるものの、「厚生労働大臣が定める疾病一覧」の趣旨に示された常時医療・看護監視が必要な患者ではない。つまり、「医療保険での追加の訪問看護」は必要ないからだ。
もともとが、「制度の隙」をついた、ビジネスモデルだ。摘発された訪問看護の不正も、書類上矛盾があった医療保険の訪問看護の一部にすぎず、住宅型有料老人ホームで提供されている介護保険やその他制度(障害福祉等)については、含まれていない。このような経営形態では、経営者だけでなく現場の管理者、スタッフも「適切なサービス」ではなく「最大の報酬算定」が目的化されるため、実際の不正は、指摘された額の二倍~三倍、それ以上になるだろう。
「やりすぎた…」と、バレた分だけ返還して済む話ではない。
今回の問題で、問われているのは法人・経営陣の体質だ。
決算説明会で、社長は、全社員向けに法令研修を行う方針を示し、「再発防止に向けてコンプライアンス強化を徹底する」としている。これは「法人ぐるみの不正」ではなく、「各現場の介護看護スタッフが勝手にやったこと」というアピールにすぎない。
しかし、常識的に考えて、定額給与のサラリーマンの看護師や介護福祉士が、誰にも指示されないのに「会社の利益があがるように不正をしよう」と考えるはずがない。「不正で稼いだ巨額の利益は経営者のもの」「不正が見つかればその責任は現場の看護師がとれ」というのは、あまりに卑劣だろう。
ただ、わたしは、「このような経営者のもとで働く訪問看護師がかわいそう」とは思わない。
コンプライアンスや職業倫理が低いのは経営者だけではない。このような企業・事業所ではたらいている看護師は、訪問看護が不正だということがわかってやっている専門職種としての倫理観が欠けた人達が多いからだ。
続く ≪≪≪サンウェルズの「PDハウス問題」 囲い込みのパンドラの箱はいつ開く(下)
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