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介護人材育成の究極の目標はなにか Ⅰ ~一流・二流・三流経営者の違い~


 介護職員の不足が、叫ばれて久しい。「介護報酬を上げてほしい」と、介護業界が声を上げているが、実際に介護経営者、社会福祉法人の理事長と話をすると、それは大きく二つのタイプに分かれる。
 一つは、「頑張っている介護スタッフの給与を上げてやりたい」と願う経営者。
 もう一つは、「優秀な介護人材が集まらないのは、介護報酬が低いからだ」と訴える経営者。
 どちらも同じだと思うかもしれないが、経営者の質という視点でみれば全く違う。

 介護報酬は公定価格であり、同一サービス、同一地域内であれば単価はまったく同じ。「介護報酬があがる」と言っても、業界内の給与水準が平均的に底上げされるだけで、事業者間に大きな給与格差は生まれない。介護報酬が上がっても、いま働いている職員の給与を平均的に上げることはできるだけで、それが人材確保には直結するわけではない。
 「介護報酬が上がれば、介護の人が戻ってくる」と反論する識者がいるが、そう思うなら、介護報酬が何パーセント上がれば、賃金がいくら上がるのか、その程度で本当に介護の仕事をしたいと考える人がたくさん戻ってくるのか計算してみればいい。
 確かに、若干は増えるかもしれない。ただ、その多くは「他に仕事がないから介護でも…」「リストラされたから仕方なく…」という人たちだ。それでもいい(背に腹は代えられない)と思うかもしれないが、この腰掛介護の人材は、サービスの向上どころか、事故やトラブルの原因にしかならない。

 介護は労働集約的、かつ高度に専門的なサービスであり、高い倫理観やチームケアを基礎とした協調性も求められる。利用希望者、入居希望者がどれだけ増えても、質・量ともに優秀な介護人材が確保できなければ、事業は継続できない。しかし、「高齢者介護のプロになりたい」という有為な介護人材の絶対数は限られており、その数は労働人口の減少に比例して減り続ける。これからの社会を考えると、「利用者確保」「介護人材確保」のどちらが難しいか、言うまでもないだろう。「経営は人なり(企業は人なり)」と言ったのは松下幸之助だが、介護人材の安定的な確保は、介護報酬云々ではなく、それぞれの事業者が、みずから育成することでしか達成できないのだ。

 言い換えれば、この「人材育成への取り組み」こそが、介護サービス事業者、介護経営者の質を測るバロメーターなのだ。経営コンサルタントの上から目線で恐縮だが、介護人材の育成という視点から見た、一流と三流の介護経営者の違いを述べておきたい。

介護人材育成から見る一流と三流の介護経営者の違い

 まずは、三流経営者。
 彼らにどんな人材が欲しいかと聞くと、異口同音に「即戦力」だと答える。
 それは傍目から見れば、介護人材を育成するノウハウもなければ、意欲もないということをさらけ出しているようなもので、経営者みずからが介護経営を放棄しているに等しい。それは「介護なんて、誰がやっても、どこでやっても同じ」「数が集まればよい」とその専門性を軽視しているからだ。紹介事業者に高額な費用を支払って、経験者、即戦力として入ってくるのは、一定の経験はあるが「俺様介護」でチームケアの輪を乱す「マイナス戦力」でしかない。
 求人広告でよく見る「未経験歓迎、先輩スタッフが丁寧に教えます」という事業者もここに含まれる。事業者、法人としての独自の育成プログラムがなく、すべてが現場任せだからだ。新人職員からすれば、先輩スタッフによって言うことが違うため、どれが正しいのかわからない。それも教わるのは、単なる業務手順でしかないため、10年働いても基礎的な介護の知識・技術さえ得られない。
 「介護のプロになりたい、一生の仕事にしたい」と考える意欲のある介護スタッフは、このような経営者のもとでは働かない。「給与安いから…、大変だから…、飽きたから…、他にいい仕事が見つかったから…」と、二年、三年で次々とスタッフは変わっていく。職員の入れ替わりは激しく、採用面接においても「来るもの拒まず」となり、回転率の高い高額の人材派遣、人材紹介や、「タイミー」などのマッチングアプリに頼らざるを得なくなる。
 中小だけでなく、大手事業者、社会福祉法人でも、このレベルの事業者は多い。日本には数千種類もの業種・業態があるとされているが、事業規模、法人種別に関わらず、このような「知識・ノウハウ・経験ゼロ」「すべて現場任せ」という経営者が闊歩している業界は、介護業界以外にはない。

 次は、二流経営者。
 一定の介護マニュアル、業務手順が整えられ、組織的な人材育成が行われている。介護福祉士、ケアマネジャーなど資格支援に対するサポート体制、入所者・利用者選定、事故やトラブルへの対応マニュアルなども整えられ、介護サービス事業者としては、一応の合格点だと言ってよいだろう。

 そして、一流経営者。
 一流の経営者とは、介護のマネジメントができる人材が育成できる経営者のことだ。
 一流と二流の決定的な違いは、介護現場の管理者を育てられるノウハウがあるかどうかだ。
 介護サービス事業は、「経営マネジメント」「リスクマネジメント」「ケアマネジメント」という三つのマネジメントできている。経営マネジメントは、収支管理だけでなく、介護医療などの制度変更リスクや地域特性の理解、他事業者との連携なども含む。リスクマネジメントは、介護現場を守るための事故やトラブル対応、感染症や災害対策、入所者・利用者選定、家族との信頼関係の醸成など多岐にわたる。個別のケアマネジメントは、ケアマネジャーの仕事だが、ここでいう管理者のケアマネジメントは、サービス向上や介護スタッフの過不足の見極めなどを含めた全体のサービス管理を含む概念だ。
 下図のように、これらは個別のものではなく、それぞれに連関している。
 それらを総合的にマネジメントするのが、管理者の職務である。


「介護スタッフが足りない」と言われているが、絶対的に不足しているのは、この3つのマネジメントを実践できる、事業所の中核となる管理者だ。特に、大手を含め急成長した事業者は、それを深く理解し、経営・リスク・ケアの3つの視点から総合的にマネジメントできる管理スタッフが育成できていない。その結果、介護現場と経営陣との意識が乖離し、使えないマニュアルが押し付けられるばかりで、「介護の仕事はブラック」「管理者なんかになりたくない」と、中核スタッフがどんどん抜けるという悪循環が生じているのだ。




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