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「やまゆり園」の殺人事件は何が間違っているのか(再掲)

 

2016年7月26日、神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」が元施設職員の男に襲撃され、19人が死亡、27人が重軽傷を負う事件が起こった。
それから一年が経つ。時事通信社の記者が植松聖被告とやりとりした手紙には、次のように記されているという。
「障害者は人の幸せを奪い、不幸をばらまく存在」
「面倒な世話に追われる人はたくさんいる」
「意思疎通が取れない人間を安楽死させるべき」
「不幸がまん延している世界を変えることができればと考えた」
2017年7月 Abema Times

 

相模原の障がい者施設での入所者に対する殺人事件。
社会に戦慄が走った事件から、もう2年が経とうとしている。
事件に対する社会的な影響は大きく、「優性思想の危険性」「なぜこのような思想になったのか」など、様々な視点から報道されている。痛ましい、許せない事件であることは言うまでもないが、感情的ではなく、彼の言い分は何が間違っているのかについて、考えを簡単に述べておきたい。

老人ホームで働いていると、重度の認知症や寝たきり高齢者に日々介護を行う。
以前、障がい者施設でボランティアをさせていただいたことがあるが、そこには通常の人がイメージする障害者とは比較にならないほど、「どうして・・」と胸がつぶれそうになるほどの重度の身体障害、知的障害をもつ人々が暮らしている。
ニュースでは、家族の深い愛情につつまれてきた障害者ばかりが報道されるが、現実的にはその正反対の事例もある。働いている友人と話をすると、障害者施設に入所させたきりで、一度も面会に来ない人も珍しくないという。

瞬きなどで微かなコミュニケーションが可能に人もあれば、全くできない人もいる。
強度行動障害など、支援や介助の難しいケースもある。
私は、何の資格もなく銀行員から福祉の世界に転身したため、その重度障害に対する驚きと、「かわいそう・・」「気の毒な・・」と単純な感情から、その生に意味がないということではなく、「この人たちは生きていて幸せなのだろうか」という気持ちになったことがあった。
(もちろんそれは他人が決めるものではない)

ただ、その中で仕事をし、理解を深めていくと、「重度の障害や疾病があっても、その人が幸せに暮らせるように、社会全体で支えよう」という理念が確立されていることが、その社会において、どれほどに重要なことなのかということが、少しずつわかってくる。
その理念は、個々人の思い入れや愛情、優しさの発露ではなく、また、その人の社会的役割や有用性の有無とは切り離されたところにある。

そもそも、社会保障は負担者と受益者という一方的な関係にあるのではない。
私も歳をとれば、恐らく要介護状態、認知症になる。遠い未来ではなく、若年性認知症になったり、明日、交通事故にあって、動けなくなったり、高次脳機能障害になる可能性もある。「それを、同じ国、同じ時を生きるかけがえのない命として、みんなで支え合っていこう」というのが、人権や福祉という言葉で表される日本という国の基本原則である。
「かわいそうな障害者」のために、健常者が支えてている理念・制度ではないのだ。

その原則は一朝一夕にできたものではない。先人たちが、研鑽によって積み重ね、時には戦って勝ち取ってきたものである。
日本でも、ひどい政策が行われてきた時代もある。また民主主義国家、法治国家においても、すべての国でその原則が確立されているわけでもない。今なお、多くの国で「女性だから」「肌の色が違うから」「宗教が違うから」という理由だけで、日々殺人や虐殺が行われている。
もちろん、今の日本の社会保障政策は、まだまだ不十分で脆弱なものである。
小児難病や小児ガンなどの子供、その親に対する政策など、遅れている対策はまだまだ多い。
ただ、それでも日本が民度の高い優しい国民性だと言われ、治安が安定し、安心して暮らしていける国である理由は、この「お互い様」「おかげ様」という原則に立脚しているからだともいえる。

私も、これを読んでいただいているあなたも、そして「重度障がい者は生きている意味がない」と殺人を行った彼も、その原則に守られて育ち、今なお守られて、生きているのだ。
その理念が崩れる社会は、自分もまた同様に「君の生には意味がない」と、いとも簡単に切り捨てられる社会である。

それが根本的にわかっていないのだ。

 

 

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