後後期高齢者と勤労世代の人口構成のアンバランスが一気に拡大する中で、高齢者医療、介護保険制度を維持するには、抜本的な制度改革は避けられません。
述べた、保険料や自己負担の増加以外で、現在、検討が進んでいるもの、またこの先、検討される可能性が高いものについて、三つ挙げておきましょう。
介護保険の対象者の限定
介護保険制度が始まった当初、介護保険は要支援1・2、要介護1~5と七段階に分かれていましたが、現在、要支援1・2は、市町村が行う総合事業に移行しています。
これから、後後期高齢者の増加によって、要介護3~5の重度要介護高齢者が一気に増えることは確実であることから、現在の要介護1・2も市町村の総合事業に移行しようという検討が行われています。この総合事業のサービス内容やその頻度、その費用負担は、住んでいる市町村によって格差が生まれることになります。低価格でよりきめ細かな介護サービスや補助が受けられる自治体、そうでない自治体に分かれていくということです。
(参照) 地域包括ケアシステムで介護格差が拡大する 🔗
(参照) 暮らしている自治体の医療介護政策に目を向けよう 🔗
② 高齢者施設・高齢者住宅の整理・統合
二つ目は高齢者の施設・住宅の統合です。
現在の「高齢者の住まい」の種類を整理したものが、下の図表です。

「老人ホームや高齢者住宅には、たくさん種類がありすぎてよくわからない」という声をよく聞きますが、それは無理もありません。それぞれの施設・住宅の対象者や役割、機能が同じだからです。
民間の高齢者住宅が「有料老人ホーム」と「サービス付き高齢者向け住宅」に分かれている理由は、一つもありません。介護付有料老人ホーム・住宅型有料老人ホームの対象者も同じです。述べたように、特別養護老人ホームと老人保健施設も、制度発足当時は役割や利用方法が異なりましたが、現在はほとんど変わらなくなっています。
これらは単に、「わかりにくい」というだけでなく、同程度の介護サービスでも、特養ホームと介護付有料老人ホームでは、入居者の負担は二倍になるという矛盾を産んでいます。
更には、制度の混乱で指導監査体制が崩壊したため、低価格で家賃で入居者を集め、医療介護の「囲い込み」によって利益を上げる医療介護費の不正請求が横行しており、この高齢者住宅・高齢者施設の混乱による社会保障の無駄・損失は、年間二兆円~三兆円規模に上ります。指導監査体制も崩壊し、施設内でのスタッフによる虐待や暴行事件が多発していますが、その多くは闇の中です。
この不正・矛盾をなくすためには、「介護保険施設の統合」「高齢者住宅の統合」「介護報酬の一元化」は、不可避です。
後期高齢者医療制度の見直し
介護費用と同じように、これから一気に増えていくのが高齢者の医療費です。
「令和四年 国民医療費の概況」(令和6年10月発表)によると、人口動態では全体の15%である75歳以上の後期高齢者が、国民医療費の四割を占めています。
それは、後期高齢者の医療と若年層の医療とは基本的に違うものだからです。
若者が病院に行くのは、「骨を折った」「熱や下痢が止まらない」といった身体に異変が起きたときだけですが、後期高齢者の場合は、高血圧や糖尿病、腰痛などの慢性的な生活習慣病に起因するものが多く、毎月、「整形外科」「循環器科」「消化器科」など、複数の病院に通っています。
横浜市立大学大学院の金子惇準教授の調査によると、75歳以上の高齢者の一年間の平均受診医療機関数は3.5か所、最大で20箇所の病院にかかる人もいると言います。この複数の医療機関にかかる高齢者は、過剰な検査や薬剤の重複などで救急受診、入院リスクが高くなるという調査結果がでており、元気に暮らしていた85歳、90歳の高齢者にガン手術をして、「ガンは摘出したけれど、寝たきりになった」という課題も指摘されています。
想定される、後期高齢者医療制度の改革の論点は次の通りです。
・ 自己負担の増加 (介護保険と同様に金融資産も算定対象)
・ かかりつけ医の指定 (紹介状がなければ他科・他病院の受診できない)
・ 包括算定制度の導入 (検査・薬剤などの出来高算定ではなく、包括算定方式)
・ 高齢者医療・終末期医療の希望の聞き取りの強化
後期高齢者の医療は「病気を治す」ではなく、「体調の管理」が中心になります。後述しますが認知症の早期発見のためにも、かかりつけ医の指定は有効な手段です。一方で、若年層の医療と後期高齢者の医療に差異につけることは、「命の平等」「憲法違反」という感情的な議論になりやすいものです。
ただ、後後期高齢者の増加によって、伸び続ける医療費に比例して、これ以上消費税や保険料を上げることはできませんし、介護費用を一律に圧縮すると、介護離職が増加し、税収保険料収入が低下、社会保障財政が更に悪化するという負のスパイラルに陥ります。後期高齢者の医療の在り方を見直し、生活支援・介護費用に回すという政策転換は避けられないのです。
ここまで、自己負担に関わる制度改定の論点を四つ、それ以外のものを三つ上げました。
持続可能な社会保障制度にするには、他にも「障害者福祉の介護制度との統一」 「健康保険制度の統合」など、現在の制度を根幹から変えていく必要があります。
「社会保険料が高い」「医療介護保険料が経済悪化の一因」と言われていますが、重い負担を背負っているのは低所得・中間層です。家賃収入や株式の売買などで一億円を稼ぐ人も、国保の保険料の最高額は「年間109万円」です。また、制度が複数に分かれていることにより、二か所以上の事業所から合わせて5000万円の収入がある人でも、保険料計算は合算されないため100万円の収入を得ている事業所の保険に加入すれば、家族四人で月額一万円程度の保険料しか支払わずに済みます。これが、一部政治家で問題となった「国保逃れ」です。
現在の介護保険、健康保険、高齢者の住まいに関する政策やその運用には、縦割り制度の中で生まれた矛盾、無駄、不正があまりに多く、それが利権化し、医療介護制度そのものをむしばんでいます。抜本的にその修正をしなければ、10年先も見通せないものとなっているのです。
今後10年以内に、高齢者を取り巻く医療・介護環境は大きく変わり、より厳しいものになるといった意味がお分かりいただけるかと思います。
そのためにも、きちんとした介護準備が必要、不可欠なものとなっているのです。


























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