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【p005】 「住宅だからサービス分離が原則」という素人発想

高齢者住宅は、一つの商品・システムだという視点が不可欠

高齢者住宅プランニングに不可欠な5つの視点とは


 

高齢者住宅という商品は、身体機能の低下する高齢者に合わせたバリアフリーなどの住宅サービスと、食事や介護、看護、生活相談などの生活支援サービスの複合サービスです。
高齢者住宅の商品設計・プランニングは、「サ高住か有料老人ホームか」「介護付か住宅型か」という制度選択ではなく、どのような高齢者を対象に、どのようなサービスを提供するのかを検討し、組み合わせ、それを形にしていくことです。


~施設でないから「サービス契約分離が原則」という素人発想~

プランニングで最も重要なことは、高齢者住宅は一つの商品・システムだという意識を持つことです。
「サ高住は施設ではないのだから、サービスの分離が原則だ」「介護付は施設的だから良くない」「住宅サービスと生活支援サービスは別契約にすべきだ」と言う人がいますが、それは大きな間違いです。
「施設的か住宅的か」という議論をしている人は、それぞれの住宅や施設という言葉に対するイメージを語っているだけで、高齢者や家族にとっては、まったく関係のないことです。サービスごとに契約が分離すれば、商品としてはそれだけ使いにくく、不安定なものになります。

これは家を建てるときに、工務店に工事を一括して任せるのではなく、その下に属する大工や左官、電気業者、水道業者などにバラバラに発注するというのと同じです(分離発注といいます)。昔、工務店に勤めていた一級建築士など、よほど経験とノウハウ、そして時間的余裕を持つ人であれば可能ですが、業者間の調整、スケジュールの検討、トラブル対応など素人にできるはずがありません。

高齢者住宅も同様です。
それぞれのサービスが分離すれば、「風邪をひいたのでデイサービスを休むが、食事や介護などの代替サービスが手配できない」「食事はでているが、ホームヘルパーが遅れているので食べられない」といったトラブルや契約上の課題が発生しますし、訪問介護の事業者が倒産したり、食中毒で給食業者が数日間の業務停止になった場合にどうするのか、という問題もでてきます。
家族の中にも、関連制度や介護業界に詳しい人もいるかもしれませんが、一緒に住んでいないのですから、「風邪をひいた」「代替サービスの依頼」など、毎日の変化に合わせて、ケアマネジャーや介護サービス事業者、食事業者に連絡をして、依頼・変更することなどできるはずがありません。
また、「サービス分離だと、契約は分離だ」と言いながら、ほとんどのサ高住で、併設の給食業者や訪問介護、通所介護を利用する以外に、ほとんど道がないというのが実態です。形だけの契約分離は、事業者のご都合主義で、入居者からみれば「百害あって一利になし」の酷いシステムなのです。

「契約上だけ分離」という高齢者住宅は、一体的な商品としての価値がありません。
高齢者住宅事業者は、すべてのサービスを内包する必要はありませんが、「住宅建設の元請工務店」と同じように、入居者の安全、快適な生活のために、住宅サービスと生活支援サービスを一体的に検討し、高齢者が質の高い生活を過ごせる、高齢者住宅商品をつくらなければならないのです。

高齢者住宅のプランニングに不可欠な5つの指針を挙げます。

 

~安全性・可変性・汎用性・安定性・効率性~

まず一つは安全性です。
高齢者は、加齢によって身体機能が低下します。孤独死の急増を見ても分かるように、高齢者の自宅内での死亡事故は、交通死亡事故よりも多いことが知られています。住み慣れた自宅を離れて、高齢者が高齢者住宅への入居を希望する最大の理由は、「安全に安心して暮らせること」です。この入居者の安全な生活に配慮することは、高齢者住宅を経営する事業者の義務です。
サ高住の事業者の中には、「高齢者住宅は自宅だから事故が起こってもサ高住の事業者には責任はない」と軽く考えている人がいますが、これは全くの間違いです。事業者が入居者・家族から法的に求められる「安全配慮義務」は、特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームと、ほとんど変わりません。
それは事故だけでなく、感染症や食中毒、災害などの対策も同じです。
「介護が必要になっても安心・快適」とセールスしておいて、「介護サービスは関係ない」「事故や感染症が発生すれば関係ない」という言い訳が通るはずがありません。この「安全」を商品設計の段階で、どこまで真剣に深く考えているのかが、高齢者住宅の質・サービスレベルを示す一つの指標です。

二つ目は、可変性です。
高齢者住宅の基本機能は「重度要介護高齢者になっても生活できる」ということです。
この要介護変化(重度化変化)への対応力を可変性と言います。
高齢者住宅のプランニングにおける「可変性」には二つの意味があります。
一つは、「個別の要介護変化への対応」です。
要介護1で入居した高齢者が、要介護3、要介護5と重度要介護状態になっても、安全、快適に生活できるシステム、商品を設計しなければならないということです。

もう一つは、「重度要介護度割合の変化への対応」です。
開所当初は、自立歩行・自立排泄できる高齢者が多く「平均要介護1.5」であっても、3年、5年と経つうちに、車いす利用、排泄介助が必要な高齢者が増え、「平均要介護2.0、2.5、3.5」と重度要介護高齢者の割合が多くなっていきます。
「介護が必要になっても安心」を標榜するのであれば、この「個別・全体」の二つの基準をクリアする必要があります。

三つ目は、汎用性です。
「要介護3」といっても、その要介護状態は一人一人違います。半身麻痺でも右麻痺、左麻痺で開けやすいドアの方向は違ってきますし、トイレのしやすい向きも変わります。認知症や糖尿病などの疾病、耳が遠い、目が悪いなど高齢者住宅には様々な要介護状態の高齢者住宅が入居します。可変性が、「サービス量変化への対応力」だとすれば、汎用性は「多様化するニーズへの対応力」の強化です。

ただし、これは「どのような要介護状態、ニーズを持つ高齢者でも受け入れよう」ということではありません。例えば、暴力、暴言などのBPSDを持つ認知症高齢者や感染症の高齢者は、他の入居者の生活や生命を脅かす恐れがあり、民間の高齢者住宅での受け入れは容易ではありません。可能な限り汎用性を高めるとともに、商品設計の段階で、どこまで対応できるのかをしっかりと検討しておく必要があります。

四つ目は、安定性です。
高齢者住宅事業は、高齢者・要介護高齢者の生活の土台となる住宅事業です。
また不動産事業ですから、建物の償却には30年40年という安定経営が不可欠です。それに耐えうる商品設計、プランニングを行う必要があります。

また、一般の賃貸住宅と違い「入居率が高ければ経営が安定する」というものではありません。
今後、有料老人ホーム経営を不安定にする大きな要因としてクローズアップされるのが、入居一時金の長期入居リスクです。有料老人ホームの入居一時金は、当初のキャッシュフローが潤沢になるというメリットがある反面、償却期間を超えて長生きする高齢者が増えると、経営が不安定になるというデメリット(長期入居リスク)があります。
大規模修繕費用も経営を不安定にする要因の一つです。
高齢者住宅事業は、減価償却、大規模修繕などによって、およそ5年ごとに収支は大きく変動し、20年、30年といった大きな流れで一回りします。前期、今期と利益が出ているからと言って、安定的に運営されているとは言えません。毎期、黒字が続いていても、大規模修繕によって、一気に赤字になる可能性もあります。制度変更、報酬改定、介護人材の減少など、様々なリスクを想定して、長期安定経営が可能な商品を設計する必要があります。

最後の一つは、効率性です。
効率性は、少ない介護看護スタッフ数で、より手厚い介護サービスを提供するためには、どのような建物配置がふさわしいか、どのような介護システムが最も効率的なのかを検討することです。
しかし、高齢者介護はそれまで老人福祉を土台としていたことから、「効率性・合理性」というのは、反福祉的な考え方として認められてきませんでした。もちろん、事業者都合のみの効率性によって、個別ケアが後退し、個人の生活が脅かされることはあってはありません。
ただ、重度要介護高齢者が増えてくると、介護サービスを効率的・効果的に提供するという視点は、より重要になっていきます。それは視点を変えれば、給与など介護職員の労働条件を上げることもできますし、「介護のしやすさ」を高めることによってスタッフが働きやすい労働環境をつくることにもつながっていきます。当然、総人件費を抑えることができますから、価格設定の上でも、競争力を持つことができます。

介護は「労働集約的な事業」ですが、同じユニットケアでも、ユニット単位の入居者数、浴室・食堂等の配置、ユニット間の連携などによって、必要スタッフ数は大きく変わってくることが、これまでの検討でわかっています。効率性検討は、「リスクに強い高齢者住宅」「競争力の高い高齢者住宅」を作るうえでも、高齢者住宅のプランニング・商品設計に不可欠な視点なのです。

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