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2023年 敬老の日にあたって ~後後期高齢社会へ~



高齢化に関わる諸問題は、簡単に言えば「支えられる側の高齢者」と「支える側の勤労者」のアンバランスが拡大する中で、「社会保障費」と「経済成長」のバランスをどのように取っていくのかという話に尽きる。敬老の日にあたって、「社会保障」と「経済」のバランスという視点から、人口動態の変化を検証し、未来を予想する。


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今の日本で前期高齢者(65歳~74歳)は高齢者ではない。2人~3人に一人は働いており、要介護発生率は5%未満、重度要介護は75人に一人と小さく、まだまだ社会を支える側にいてもらわなければならない年齢だ。
後期高齢者の75歳~84歳になれば、働いている人は10%程度になる。ただ、要支援要介護になる人は2割程度、重度要介護発生率も5%程度で、介護の視点でみると「支える側」と「支えられる側」の中間にいる年代だと言ってよい。
これが85歳以上の後後期高齢者になると、要介護発生率は6割に、重度要介護も4人に一人と跳ね上がる。これは骨折や脳梗塞などの病気や怪我ではなく、加齢による身体機能の自然低下によって要介護になる人が増えるからだ。認知症発症率も顕著に高くなることがわかっている。

これから高齢者が増えるといっても、このすべての年代が平均的に増えるわけではない。
実は、65歳~84歳までの高齢者のピークは2020年で、今後なだらかに減っていく。増えていくのは、要介護発生率が顕著に高くなる85歳以上の後後期高齢者だけだ。
介護保険がスタートした2000年には220万人程度だったものが、2020年には600万人を突破、そのまま5年毎に100万人のスピードで直線的に増加を続け、2035年には980万人、2040年には1000万人を突破する。
その中核になるのが、ご存知の「団塊世代」だ。団塊世代が75歳になる、「2025年問題」と言われているが、医療介護問題の本丸は「2035年」から始まる。
ただ、これは「団塊世代がピークアウトすれば後後期高齢者人口は減少に生じる」という話ではない。85歳以上の後後期高齢者人口は、そのまま2080年頃まで、950万人~1200万人という高い水準で高止まりを続ける。つまり、いま50代に差し掛かった団塊世代も、30歳の人が85歳になった時も、後後期高齢者1000万人時代はつづいているということだ。

もう一つ、日本社会は、この後後期高齢化と合わせて、人口構造上、大きな課題を抱えている。
それは、急速に進む少子化だ。令和4年(令和5年6月発表)の人口動態調査によれば、出生数は7年連続で減少、77万人と初めて80万人を下回り、特殊合計出生率も1.26と過去最低を更新している。「人口減少が悪いことではない」「人口が少なくても豊かな国はたくさんある」という人がいるが、問題は総人口の減少ではなく、「支える側」と「支えられる側」のバランスが崩れていくことだ。

2020年、支えられる側の85歳以上の後後期高齢者人口は613万人、それを支える20歳~64歳までの勤労世代の人口は6938万人。これが2040年には後後期高齢者は400万人増の1006万人、逆に、勤労世代は1100万人減の5808万人に、更に、2060年には後後期高齢者1170万人に対し、勤労世代は4726万人になることがわかっている。
つまり、2020年には後後期高齢者一人当たり11.3人の勤労世代で支えていたものが、2040年にはその半分の5.77人に、2060年には4.03人とおよそ、1/3にまで減少するのだ。マルクス経済の時代ではないので「労働力人口の減少=労働価値の減少」ではないが、「社会保障」と「経済成長」のバランスが、これから更に大きく、一気に崩れていくことは間違いない。

これを金額に直すと、より現実が見えてくる。
高齢者は、年齢が上がるにしたがって、医療介護費が高くなることが知られている。2018年に内閣府、財務省、厚労省が共同で「2040年を見据えた社会保障の見通し」という財務シミュレーションを出しているが、それによると日本の社会保障費の総額は、2018年に122兆円規模だったものが、2040年には1.5倍の188兆円になると試算している。

「将来は年金がもらえなくなる」という人がいるがこれは間違っている。支える側と支えられる側のアンバランスによって、「保険料の値上げ」「受給開始年齢の引き下げ」などは行われるだろうが、年金は長期保険であるため、年金積立金などを活用しながら長期的・段階的に見直しが行われるため、「年金が破綻する」「年金がもらえない」などということはあり得ない。

しかし、健康保険・介護保険は短期保険だ。現行制度が続けば、医療介護費用だけで2040年には93兆円となり、いまより43兆円増えることがわかっている。防衛増税で揉めているのが年間3.5兆円だが、2040年には年間その12倍の追加の医療介護費が必要になるということだ。
それを八割の勤労世代中心で賄うとすると、単純計算で消費税は20%、住民税・固定資産税は2倍~3倍に、高齢者の介護保険料・健康保険料はいまの1.5倍~2倍に、現役世代の保険料は2倍以上になる。

しかし、そんな荒唐無稽なことは、誰が考えても不可能だ。
増税の是非というよりも、今の日本には、増税や保険料値上げに耐えうるだけの経済成長のポテンシャルがないため、消費税率や保険料率を上げても、税収保険料収入増にはつながらないからだ。逆に、中小企業の経営破綻、リストラによって失業率や非正規雇用が増加、景気減速に拍車がかかり、デフレスパイラルで確実に税収も保険料収入も減るという逆効果になる。
「赤字国債は、政府の借金であって国民の借金ではない」「バランスシート上は、日本の財政は健全だ」というのが流行っているが、赤字国債の発行を含めた金融政策はカンフル剤としては有効でも、この先も60年70年続く、後後期高齢社会の社会保障費の穴埋めに、赤字国債を使うことはできないのだ。

介護コンサルタントとして、このようなことは言いたくないが、世界の中で、この30年、日本だけ経済成長が止まっている理由は、「財務省が~」でも「財政規律派が~」でもない。社会保障費にお金がかりすぎて、経済成長に回すお金がないからだ。
そう考えると、医療介護費用の抑制は不可避なのだが、これも単純に減らせばよい…という話ではない。特に高齢者介護は、「要介護高齢者の生活支援」ではなく、高齢者の親を抱える「介護家族の支援」という側面が強い。介護を一律に抑制すれば、結果、家族が介護するしかなくなり、介護離職やヤングケアラーが増加、それは税収減、保険料収入減だけでなく、将来的に生活保護受給者が増えるなど負のスパイラルにつながっていく。「社会保障費」と「経済成長」の両輪のバランスを取っていくのは、極めて難しい課題だということがわかるだろう。

こうなることは10年も20年も前からわかっていた。「国は何をやっているのか・・・」と思うだろう。2024年の介護報酬改定の案が少しずつ見えてきているが、いつも通りの微調整で、とても2040年に向けた社会保障費削減、介護保険の抜本改革からは程遠い。
しかし、国はすでに、水面下で着々と社会保障の抜本的改革、高齢者医療介護費用の強制抑制策の準備を進めている。それが、「地域包括ケアシステム」と「マイナンバー制度」だ。

マイナンバー制度は、すべての社会保障システムの抜本的改革の柱となるものだ。
今の社会保障の制度は、あまりに複雑で、無駄や矛盾が多い。
「組合健保・協会けんぽ・共済健保など、健康保険の保険者が輻輳している」
「国民年金払わずに生活保護もらった方が得」
「同じケガ・障害でも仕事中か否かによって労働保険と社会保険に分かれる」
「同じ障害でも障害者福祉と介護保険で手厚さが違う」
それは、誰がどの程度の社会保障を受けているのか、どのように運用されているのかを、誰も管理できていないということだ。

「全世代型社会保障」という言葉が飛び交っているが、向かうべき方向性は、この複雑に入り組んだ社会保障制度の統合・スリム化であり、自己負担の「応能負担強化」を含め、その柱になるのがこの「マイナンバー制度」だ。
現行制度の無駄や矛盾が明らかになるにつれ、「前年度収入だけでなく、金融資産を含めた応能負担の強化」「健康保険制度の統合」「健康保険と介護保険の統合」「介護保険と障害福祉の統合」「社会保険と労働保険の統合」などが行われることになるだろう。現在、子育て対策、少子化対策の財源を社会保険に求めるという検討が行われている。明らかな目的外使用であるが、制度統合の方向性を考えているのであれば、そう突飛なものではないのかもしれない。
「マイナンバーカードが健康保険証になります」という目先の話に目を奪われてしまうと、その本質を見失うことになる。

 マイナンバーによって、「健康保険の不正利用」だけでなくなど、健康保険と介護保険が紐づけされ「高齢者住宅や無届施設の囲い込み」などもすべてが明らかになる。前年度収入だけでなく、金融資産も明らかになるため、低収入高資産の高齢者への自己負担は一気に上がることになる。その他、「老人福祉と介護保険」の関係の明確化や、「かかりつけ医の指定強化」「在宅版DPC」など、老人医療の削減も強制的に行われるだろう。
 この「マイナンバー制度」の本質や方向性を理解できない介護事業者、医療事業者、高齢者住宅は、社会福祉法人、大手企業に関わらず、これからつぶれていく。10年後には、今の介護業界は様変わりし、20年後には大学病院は半分以下になるだろう。

もう一つが、地域包括ケアシステムだ。
述べたように、勤労世代と後後期高齢者の人口比率は、今の11.3人から2040年には半分の5.77人に、2060年には4.03人にまで減少する。
ただ、これは都道府県や市町村によって大きくかわる。秋田県では2020年の段階ですでに6.3人となっており、2040年にはその半分以下の2.9人と少子後後期高齢化が更に進む。同様に青森や高知、北海道、長崎、島根などでも、3人~4人という厳しい数字が並ぶ。
市町村単位でみると、2040年には、全国で2.0人を切るのは167市町村、勤労世代よりも85歳以上人口の方が多い1.0人を切る市町村も六つある。

秋田や青森、高知と比べると、東京や神奈川、埼玉、愛知、京都といった都市部はまだ少し余裕があるようにみえるが、東京23区内でもそのばらつきは大きい。2040年においても中央区は18.5人と全国平均の3倍以上だが、練馬区は6.7といまの秋田とほとんど変わらなくなる。青梅市、福生市、多摩市など都心から離れると、その数値は3~4人となり東北や四国と同じレベルになる。自分の住む市町村、親の暮らす市町村の2040年の人口バランスを調べてくることをお勧めする。介護崩壊は間違いなく、地方都市よりもこの都市部近郊から始まることになる。

もちろん、これは人の問題だけではない。
介護保険制度の財政は、その52%は国や勤労世代(第二号被保険者)が全国で分担して負担しているが、48%は地方自治体(都道府県・市町村)とその地域の高齢者(第一号被保険者)が負担している。つまり、人口のアンバランスが拡大するということは、国より先に自治体の負担が重くなるのだ。
高齢者の医療介護費用の増加で、介護保険や国の財政が破綻するという人がいるが、これは全くの間違い。ただ、その理由は「MMT理論」や「バランスシート上は云々…」といった小難しい金融論や財政論ではない。国や介護保険制度が財政破綻しない、消費税が20%、保険料が2倍3倍にならないのは、そうなる前に自治体が破綻(財政再生団体に転落)するからだ。
「医療介護費の削減ができない自治体は潰れてよし」
それが国の目指す地域包括ケアシステムの本質であり、目的だと言ってよい。

地域包括ケアは、高齢者施策の地方分権であり、年金を除く高齢者施策全般に自治体が責任を持つということ、人材確保も財源確保の責任を持つということだ。言い換えれば、高齢者の医療介護費の抑制の責任を市町村が負うということで、それができない市町村は財政破綻し、国の管理のもとで、強制的に、最高の保険料で最低の介護サービスの自治体に転落することになる。そして、誰も住めなくなり、その自治体は消滅していく。
その事例は、夕張をみればわかるだろう。
2040年には自治体の半数が消滅危機に陥ると言われているが、この医療介護費用の増加による自治体破綻は、東北や中国地方などの小さな市町村だけではなく、政令指定都市・中核都市でも起きる。その先鞭をつけるのが、2025年からスタートする「地域包括ケアシステム」だ。

少なくとも今世紀中は、日本の人口バランスがもとに戻ることはない。
「2007年 超高齢社会に突入しました・・・」などと言っていたのは、2040年の人口動態をみれば、滑稽な笑い話でしかない。「人生100年時代」というのは、65歳以上の高齢者人口と20~64歳人口の比率がほぼ同じ、85歳以上の後後期高齢者人口比は3.2~3.4というのが固定化する社会なのだ。

この話は、積極財政派か財政規律派というレベルの話ではなく、小手先の財政論や金融論で解決できるものでもない。SDGS(持続可能な開発目標)という言葉があるが、これから日本は社会保障制度だけでなく、市町村や都道府県の形、行政機構、社会システムなど、不透明や利権や癒着、グレーゾーンなど不合理で非効率なものをすべて排し、この「後後期高齢社会」に合わせて持続可能なものへと根本から作り変えていかなければならない。
それができなければ、日本社会はわずか10年先も見通せないまでになっているのだ。





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