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AIスピーカーが変える超高齢社会 (上)  ~高齢者・家族~

OK Google!! などのCMで知られるAIスピーカー(スマートスピーカー)。
この「AI+IT+ロボット」という技術革新は、高齢者の生活だけでなく、超高齢社会を大きく変えるアイテムになる。高齢者と家族の視点から見た、その未来像と機能、役割について予測する。



NHKの朝の情報番組 おはよう日本で、「高齢者 AIスピーカーが活躍」というニュースが流れた。
「OK Google!!」で知られるAIスピーカー(スマートスピーカー)を、一人暮らしの高齢者の自宅に試験的に置いたところ、会話が増え認知症予防が見込まれるほか、孤独を感じないなど非常に好評で、多くの高齢者が継続的に利用したいと申し出ているという。

AIスピーカーは、対話型のAIアシスタントを搭載した、音声で指示を出すパソコンやスマートホンのようなものだ。「明日の天気は?」「ニュースを読んで」「〇〇の音楽が聴きたい」「△△について調べて」といった情報検索機能の他、IoT対応のロボット掃除機やスマート照明との一体運用で、「電気をつけて」「掃除をして」「テレビを点けて」などの音声指示を行うことができる。「おはよう」「ただいま」といった簡単な会話にも答えてくれる。
グーグルだけでなく、アマゾンやライン、アップルなど大手のIT関連会社が次々と参入しており、テレビCMでも目にするようになってきた。

「世界で1億台突破」と言われているが、自分で使うのに、すぐに積極的に欲しい商品かと聞かれると、リモコンやパソコン、スマホで十分だと答えるだろう。それほど安いものではないし、どうしても手に入れたい、ないと困るというほどの機能ではない(50代 男性 個人的な意見です)。
しかし、この「AI+IT+ロボット」というAIスピーカーは、高齢者の生活だけでなく、超高齢社会を大きく変えるアイテムになるだろう。
二回にわたって、その未来像と機能、役割を予測する。

202×年、おばあちゃんの家にシロがやってきた 

我が家の祖母は、今年84歳。10年前に祖父が他界し、以来、父の実家でもある京町屋に一人暮らし。
友達と連れ立って、オリンピック観戦や関西万博にも出かけるほど矍鑠としていたが、先月、突然、脳梗塞で倒れ、一ヶ月の入院となった。
幸い、発見が早かったことから麻痺も軽く、専門の病院でリハビリも頑張ったため、大きな後遺症は残らなかった。歩行が少しゆっくりとなり、立ち座りで少しふらついたりするが、トイレも入浴も、料理も買い物も一人でできるため、ほぼこれまで通りの生活。

ただ、介護保険では、要介護1と認定された。
高齢者の火災死亡事故や特殊詐欺のニュースは相変わらず増えているし、脳梗塞が再発したり、骨折したりするのではないかと、家族の方が不安は大きい。我が家(世田谷区)のマンションへ越してきてもらうか、近くのサービス付き高齢者向け住宅へという話もでたのだけれど、友達も多く、住み慣れた京都から離れるのは嫌だと、祖母は頑なに拒否。
そこで、段差解消などの住宅改修と介護ベッドの導入に合わせて、ケアマネジャーさんの提案で導入することになったのが、最新の高齢者向けスマートスピーカーだ。

高齢者向けスマートスピーカーは、「犬型」「ロボット型」の二つから選択できる。
祖母が選んだのは犬型で【シロ】と命名。 色がシロいから・・という何ともトホホな名づけで、正直言えば、祖母は当初、あまり乗り気ではなかった。
なのに、なぜ名前をつけたかと言えば、「OK google」ではなく、『シロ・・』という祖母からの呼びかけに反応し、動き出すから・・・。

「シロ!」 と声をかけると、しっぽがチロリンと動き、声をした祖母の方にくるりと顔を向ける。

「シロ、おはよう。今日は寒いね」
「おはようございます。今日は、昨日よりも3℃気温が低いです」
「シロ、エアコンをつけてくれる?」
「了解しました。現在の室内温度は10度です。設定温度18度でエアコン暖房、開始します」
「シロ、午後から出かけるけど、傘は必要かしら」
「午後からの降水確率は20%です。お出かけの時に降っていなければ、折りたたみ傘で大丈夫です」

これまでの会話の中で本人の嗜好や趣味を聞き出し、AIがそれを蓄積・分析して、個人の好みや生活リズムに合わせてスポーツやお天気、ニュースなどの情報を発信してくれる。エアコンやテレビ、照明などのIoTの家電の他、温水ポット・浴槽のお湯張り、戸締りなども、シロを通じて指示ができる。

「シロ 昨日、お相撲、どうだった?」
「横綱、大関陣は久しぶりに安泰でした。京都出身の宇良関も、勝って8勝2敗です。7時30分からテレビでスポーツコーナーがあります」
「じゃあ、7時20分になれば、テレビをつけて」
「了解しました」
「シロ、百貨店へ、お買い物にいってくわね」
「了解しました。最近、京都では自転車との接触事故が増えています。十分注意してください」

「シロ スケジュール 1月23日 13時 井上さん ランチ」と記憶させれば、スケジュール管理もしてくれる。このスケジュールは、本人・家族だけでなく、お世話になっているケアマネジャーさんのスマートホンやパソコンからも登録することができる。

「今日は、お孫さんの浩介くんの誕生日です。メールをされるのはどうでしょうか」
「今日の午後から、訪問看護ステーションの山下さんが、健康チェックに来られます」
「今日は午前中の10時から、たかはし歯科の予約が入っています」
「朝食後には、必ず、血圧のお薬を飲んでください」

毎朝、血圧と脈拍をはかると、その情報を自動的にシロがチェックし、かかりつけ医も確認できるようになっている。「140の105です。今日はちょっと下が高めですね・・」とシロが教えてくれるほか、血圧の高い日が続いたり、突然高くなると、医師や訪問看護、家族へデータが送られる。
祖母は、たまに薬の飲み忘れがあるので、「血圧の薬を飲みました」と確認するまで、30分に一回のペースで、しつこく言い続けてくれるように設定してある。


この高齢者向けAIスピーカーの最大の特徴は、その月額利用料の一部に介護保険が使えること。
それは認知症や筋力低下の予防を目的としているからだ。
シロは、リハビリの先生が勧める「腿上げ運動」や、後だしジャンケン・しりとりなどの「脳トレ」を促してくれる。また、市の情報チャンネルと連動しており、「今日は、いいお天気でお散歩日和です」「淳風小学校で茶話会と映画鑑賞があります」「百万遍で掘り出し市があります」といった、外出の提案もしてくれる。
その結果は、ハードディスクに保存され、ケアマネジャーさんやリハビリの先生とインターネットで情報共有できるようになっている。

防犯、防災、急変などのリスクにも対応

もう一つ、心配性の我が家が助かっているのが電話機能。
祖母はスマホも持っているので、外出中はスマホに、自宅にいるときはシロにかかる。
祖母からは、「シロ 電話 智子さん(母)」「シロ、電話、ヘルパーさん」と、音声だけでかけることができるし、「ケアマネジャーの山田さんから電話です」と知らせてくれる。スピーカーもついているので、「シロ 電話 OK」というだけで、どちらもフリーハンドで話ができる。
また、シロの眉間のあたりにはカメラがついていて、家族や親しい友人、ケアマネジャーさんからの電話は、顔を見ながらビデオチャットができる(チャットは事前登録が必要)。「シロ 電話 後で」と言えば、「今、出られないので後で折り返します」と、祖母の秘書のように答えてくれる。

また、両親のスマホからは、スマホをつかって、シロをリモートコントロールできる。
祖母が自宅にいるはずなのに、何度電話してもでない時は、シロを起動させ、部屋の中を見ることができる。これで何人も具合が悪くなったり、倒れている高齢者を見つけているらしい(幸い、我が家はまだ使ったことはない)。シロは動かないタイプだけれど、家の中を動いてトイレや浴室などを見廻ることのできる機能や、温度センサーの赤外線をつけたタイプもある。
また、日中、外出していないのに一定時間以上(事前設定)、シロとの会話や指示がないなどAIが異変を感じたときは、父や母の電話にメールが入ることになっている。

追加機能として、「朝、起きた」「薬を飲んだ」「朝食を食べた」まで、日常の生活行動のすべてを家族のスマホに逐一報告することもできるらしい。
ただ、これは、あくまでも病気がちの人や、認知症の人、要介護状態が重くなった人への対応のためで、「心配してくれるのはありがたいけど、監視されたくない」「苦しいのは嫌だけど、自宅でぽっくりいければそれに越したことはない」という祖母の意向をくんで、シロに任せてある。

このシロは、防犯や防災の機能も充実している。
登録していない番号からの電話は、取り次がないこともできるし、また、シロの中に入っているAIの判断で、「会話の内容が詐欺の可能性が高い」と判断した場合、家族に連絡、警察に通報するなどのプログラムが組み込まれている。「助けて」「泥棒」「警察」「火事だ」と声を出せば、そのまま警察(110番)や消防(119番)へ通報してくれる。セキュリティ会社と別途契約すると、専門の看護師への連絡や駆けつけサービスにも対応できる。

玄関のインターホンや防犯カメラ、ガスコンロやグリルの消し忘れなどの安全機能ともリンクしている。「シロ 今から外出するよ」と伝えれば、「行ってらっしゃい」だけでなく、電気ストーブやガスコンロ、エアコンなどの消し忘れも注意してくれる。また、「緊急地震速報」が出たときは、「大きな地震が来るよ・・布団を頭からかぶって・・・」と大きな声と音を出して知らせてくれる。


そんなこんなで、三ヶ月。
先日、友達と京都旅行をしたとき、祖母の家に泊めてもらった。
「シロ ただいま」と祖母が言うと、「おかえりなさい。幸子さん」としっぽを振って出迎えてくれる。
「シロ こんにちは」と私が言うと、「いらっしゃい まどかさん」と答えてくれる。
シロは私の言うことは聞かない(祖母と父と母の声の登録だから)ので、祖母に「シロ 電話 智子さん」と言ってもらい、母と電話(ビデオチャット)をした。
電話を切ると、やっと犬型ロボットらしく、小さく「ワン」と鳴いた。おばあちゃんは、使い始めた頃は、「ロボットに監視されとるようや」と文句を言っていたが、なんだか楽しそう。

今、シロは祖母の編んだ、黄色いレースのセーターを着ている。


続く >>> AIスピーカーが変える超高齢社会(下) ~地域・社会・産業~

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