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介護コンサルタントは「経営代行サービス」ではない


「うちも、そろそろ将来に向けてコンサルを入れたい」
「いい、介護コンサルタントを探している」
そんな相談を受けることが増えてきました。そのタイプは三つに分かれます。

① 「ヨキニハカラエ」 殿様タイプ

一つは、「自分はよくわからないので、コンサルタントにお願いする」という丸投げタイプです。これを「ヨキニハカラエ」という殿様タイプとよんでいますが、「需要が高まるから参入したい」「儲かりそうだ」というだけで、自分で経営するという意識や事業に対する責任感の乏しい人です。
特に、高齢者住宅業界は、「賃貸不動産経営」と勘違いしている人が多く、「わたしは家主、オーナーです」「家賃収入を受け取るだけです」という、サ高住を経営するという意識さえない人が、相当数に上ります。「入居者やスタッフの確保はどうするのは?」「死亡事故や利用者や家族からのトラブル対応は誰がするの?」と聞いても、「コンサルタントがやってくれるはず」「それは私が考えないといけないことですか?」と逆に質問されてしまいます。
異業種他業種たくさんありますが、こんな「わたしが経営者ですか?」と聞くような経営者がいる業界は介護業界以外にありません。悪徳コンサルタントの餌になるタイプの経営者です。

② 「助けてドラえもん」 のび太タイプ

二つ目は、困った時にだけ何とかしてほしいと言ってくるタイプです。「介護スタッフが集まらない」「介護スタッフがどんどん辞めてしまう」「入居者が全然集まらない」「入居者や家族からのクレームやトラブルが多発している・・・」、困った困った~、ドラえもん助けて~という、のび太タイプです。
介護経営というのは、これから50年後、60年後まで確実に需要が高まる、他に類例のない特殊な事業です。他の製造業やIT産業、サービス業、飲食業、のように「勝ち組・負け組」に分かれるのではなく、事業特性を理解し、想定されるリスクを適切に管理して、大きな失敗しなければ成功します。
逆に言えば、事業特性も理解せず、経営上当たり前に想定される「スタッフ不足」「利用者不足」「入居者の生活上の事故」「家族とのトラブル」というリスクや、その対応策さえ基本的に知らない、考えていないという時点で、経営者としては失格なのです。
「一気に入居率がアップする対策・秘策をお伝えします」
「介護経営者なら知っておきたい介護人材確保のポイント」
「介護人材が飛びつく求人広告の作り方」
介護コンサルタントの広告をみると、「すごいなぁ~、一度聞いてみたいなぁ」とわたしも思いますが、経営コンサルタントは、ドラえもんでもアラジンに出てくるランプの精でもありません。
残念ながら、これもお断りをせざるを得ません。

③ 「未来を見据える」 優秀な経営者タイプ

もう一つは、今すぐに困っていることはないけれど、それなりに安定して経営をしているけれど、漠然とこのままでいけないと考えている人です。
「介護・高齢者住宅の需要は確実に高まる」「介護経営は公的介護保険が収入の土台となる安定した事業」であることは間違いありません。その一方で、介護人材の確保はどんどん難しくなっていきますし、社会保障制度の財政悪化によって、介護保険制度や介護報酬は経営者にとって不利益となる「制度変更リスク」は高くなっています。更に、指導監査を含め、不正や不透明な運営、グレーゾーンに対する締め付けが厳しくなっていきますから、現行の制度で、「ビジネスモデル、経営収支」が安定しているからといって、それが続くとは限りません。「需要が増えるから…」という一言で成功が約束されるほど簡単なものではないのです。
介護経営は、訪問・通所などの在宅サービスにしろ、有料老人ホーム・サ高住などの高齢者住宅にしろ、特養ホームや老健などの介護保険施設にしろ、利用者やスタッフが限定されるため、どうしても閉鎖的になりがちです。これは個人経営でも大手でも同じです。
「2025年の地域包括ケアシステムの実施で何が変わるのか知りたい・・・」
「介護人材の育成、リスクマネジメントに力を入れたいので、知恵を貸してほしい・・・」
「自分たちの介護経営やビジネスモデルに課題がないか、外から見てほしい」
「2040年に向けた長期戦略を作ったが、それについての意見がほしい」
今の自分たちの事業、その未来を長期的・客観的にみるためには、自分たちの介護経営・サービス商品を第三者の目で見てもらうということは、とても重要なことなのです。
介護経営者のコンサルティングをしていると、「弱点を知りたい」を知りたいという人が多いのですが、本人たちが気付いていなかった「長所・優位点」が見つかることもあります。第三者から指摘を受け、その長所を伸ばしていくというのも、経営の重要な気づきです。

ただ、ここで一つ注意点があります。それは、経営コンサルタントは、あくまでも経営のアドバイザーであって、「経営代行サービス」ではないということです。
例えば、リスクマネジメントの職員教育(コーチング)を依頼されることがありますが、どのような職員を育てるのか、どのような職員が優秀なのかを決めるのは経営者の仕事です。そうでなければ、経営者の認識、経営指針と、コンサルタントが行ったコーチングの内容が違うということに、なりかねないからです。
同様に、コンサルタント契約において、「介護人材を10人増やす」「利益を10%上げる」などというインセンティブ(成功報酬)をつけているところもありますが、これもお勧めできません。「連れてこられた介護スタッフが使い物にならず、現場でトラブルのお荷物になっている」「コンサルティングが切れた時点で、全スタッフが退職し元の状態より悪くなった」「利益を上げるために強烈なコストカットを行って、現場が大混乱している」ということになるのが落ちです。

第三者的な視点で、様々なアドバイスを受けることは重要なことです。
ただ、コンサルタントはアドバイザーでしかありません。
経営の失敗はとりませんし、またとれません。
もちろん、経営上の不安や悩みを聞くことも仕事の一つですし、愚痴を聞くこともあります。ただ、最終的な判断、総合的な判断は、すべて経営者が行わなければならないのです。それがわからない人は、コンサルタントに依頼するべきではありません。




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