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これからの高齢者住宅のビジネスモデル設計 視点の転換


これからの高齢者住宅は「困ったことにはなんでも対応します」「安いことは良いことだ」といった表面的・福祉的な概念から転換し、長期安定経営を目的として、ビジネスライクに民間の営利事業として独立することが必要。それが結果的にそれぞれの高齢者・入居者の生活ニーズを満たし、守ることにつながる。

【特 集】 要支援・軽度要介護高齢者住宅の未来・方向性を探る 07
(全 9回)


これまでの高齢者住宅は、自立高齢者と要介護高齢者の建物設備の違い、身体要介護高齢者と認知症高齢者の介護システムの違い、それぞれの想定すべきリスクやトラブルの違いも理解、検討しないまま、「介護が必要になっても安心・快適」という曖昧な商品ばかりが作られてきました。
それは、サ高住、住宅型有料老人ホームだけでなく、介護付有料老人ホームも同じです。
介護付有料老人ホームに適用される特定施設入居者生活介護の日額包括算定方式は、住宅型・サ高住の区分支給限度額方式と違い、認知症高齢者・重度要介護高齢者に適した介護報酬であることは間違いありませんが、「介護付だから重度要介護・認知症OK」というほど簡単なものではありません。「食堂・居室分離型」の建物や、指定基準程度のスタッフ配置では重度要介護高齢者の増加に対応できません。

これからは、「中度~重度要介護高齢者向け住宅」「自立~軽度要介護向け住宅」と、きちんとビジネスモデルを区分し、それぞれのニーズに沿った高齢者住宅を整備していかなければなりません。その方向性を探ることは、社会のニーズに沿った優良な高齢者住宅ビジネスモデルの育成というだけでなく、すでに行き詰りつつある、高齢者住宅のビジネスモデルを再構築し、超高齢社会に役立つ社会資源として、再生を探るための道筋・手順でもあります。
そのために必要なことは、「何でも頑張ります」「困ったことにはなんでも対応します」「安いことは良いことだ」といった表面的・福祉的な概念を転換し、長期安定経営を目的に、ビジネスライクに民間の営利事業として独立することです。それは「事業者の利益重視でやれ」ということではなく、サービス・責任の範囲を明確にし、様々なリスクに対する事業者の権限を強化することです。

コンセプト ~現状の高齢者住宅との違い~

 まず、これまでの高齢者住宅と何かが違うのか、どのようなコンセプトで進めるのかを整理します。

① ターゲットを限定し、可変性・汎用性を狭くする

まず、一つはターゲットを限定し、可変性・汎用性を狭くするということです。
繰り返し述べているように、「自立~軽度要介護向け住宅」と「中度~重度要介護高齢者向け住宅」は全く違う商品です。
これを明確に分類して、商品設計・事業計画を策定することが必要です。「中度~重度要介護高齢者向け」の高齢者住宅は、要介護高齢者に適した建物設備設計と、特定施設入居者生活介護を土台とした介護システムが必要です。ポイント介助が前提となる区分支給限度額方式では、臨機応変な介助が求められる認知症高齢者・重度要介護高齢者への対応はできないからです。「あらゆるニーズに対応する」ということは不可能ではありません。ただ、自立高齢者、身体軽度、認知症軽度、認知症重度、身体重度などの様々な要介護状態、生活ニーズを持つ高齢者に対応するには、それに応じたコストが必要になります。

つまり、これからの高齢者住宅は、
① 多様なニーズに対応できる富裕層をターゲットとした商品
② ターゲット・ニーズを限定した中間層をターゲットとした商品

に分類されることになります。中間層を対象としたものは、ターゲット・対象を限定することによって、可変性・汎用性を狭くし、提供する住宅サービス・生活支援サービスを限定して価格を抑えるという手法を取ります。

② 事業者のリスクマネジメントの強化

二つめは、リスクマネジメントの強化です。
介護リスクマネジメントと言えば、「介護サービス上のミスを減らす」「介護事故の早期発見・対応」など、介護現場の仕事だと考えている人が多いのですが、そうではありません。リスクマネジメントは、想定される事故、苦情・クレーム、火災・災害など、事業上想定される様々なリスクから、事業を守る、働くスタッフを守ることが主たる目的です。「介護ミス・事故を減らす」というのは、その対策実務の一つでしかありません。その責任は介護現場ではなく経営者にあり、サービス管理だけでなく、商品設計や契約を根本的に見直す必要があります。

その対策の土台は、トラブルやリスクの対策に対して、事業者の権限を強めることです。
「高齢者住宅は施設ではないから・・」という理念が錦の御旗のようになり、入居者個々人の生活の自由が最優先になっています。
しかし、高齢者住宅事業者には高い安全配慮義務が課せられており、「自由な生活優先だから、事業者責任はない」というものではありません。火災や感染症、部屋の臭いや騒音、入居者同士の暴言などのトラブルは、他の入居者の財産や生活を脅かすリスクでもあります。入居後に、契約・規約変更を一方的に行うことは問題がありますが、入居相談の段階で、ルール・制限のある高齢者住宅を選択するか否かは、それぞれの入居者・家族の判断です。「高齢者住宅は施設ではない。個々人の自由な生活が重要・・・」という人がいますが、その人は自由度の高い高齢者住宅を選べば良いのです。
事業者に法的責任が及ばないよう、また働く介護スタッフに過度なストレスがかからないよう、禁止事項やトラブル発生時の対応、高齢者住宅事業者の責任の範囲、家族の責任や役割について整理し、リスクを適切に管理・削減できる商品、契約にしなければなりません。

③ 包括サービスと自由選択サービスの分離

三点目は、包括サービスと自由選択サービスの分離です。
「高齢者住宅は施設ではないから、すべての生活支援サービスは個々人の入居者の選択によって提供すべき」という理念も再考が必要です。それは、「内部サービスか、外部サービスか」に関わらず、すべてのサービスを自由選択にすると、経営収支もサービス提供体制も不安定になるからです。

例えば、サ高住では「安否確認サービス」「生活相談サービス」の提供が義務付けられていますが、それは全入居者に対する包括サービスではなく、個々の入居者の選択が前提です。しかし、60名定員のサ高住で、安否確認サービス・生活相談サービスに必要なスタッフを確保しても、半分の入居者しか選択しなければ収入は減ります。また、契約外の高齢者であっても、「食事にでてこない」「新聞が溜まっている」という場合は確認や家族への連絡が必要ですし、入居者同士の喧嘩や、人間関係のトラブルが発生した場合、「サービスを受けている人だけから話を聞く」ということもできないでしょう。
生活相談や安否確認、間接介護、緊急対応など、全入居者に対するサービスは、「選択サービス」ではなく、管理費と同じように全入居者が支払う「包括サービス」とすべきものです。「生活相談や安否確認いらない」という人は、そういう高齢者住宅を選べばよいことで、そこで選択の自由は保障・担保されているのです。

もちろん、これは「囲い込み」とは全く違います。
介護保険サービスは介護保険法という法律に基づいて提供される制度です。その財源には社会保険料や税金などが投入されており、「入居者と事業者の個別契約」のみに基づいて提供されるサービスではありません。それは、個々のアセスメント・ケアマネジメントに基づいて提供されるのが絶対条件であり、「系列の訪問介護・通所介護を使う」という契約も半強制的な押し売りも、明らかな介護保険法違反です。しかし、入居前に十分な説明を行った上であれば、全額自費の生活支援サービスを入居条件にすることは何の問題もありません。


この3つの指針・コンセプトは、「自立~軽度要介護高齢者向け住宅」だけでなく、「中度~重度要介護高齢者向け住宅」も同じです。
大切なことは、いずれも入居者・家族への十分な説明、相互理解によって成り立つものだということです。
例えば、これから検討を始める「自立~軽度要介護高齢者向け住宅」の場合、要介護度が重くなり、その高齢者住宅での生活が難しいと事業者が判断すれば、事業者の判断で退居・転居してもらうことが前提です。ただ、それは事業者が一方的に決めるというものではなく、「公平・公正でわかりやすい基準であること」「入居契約前に退居要件について十分な説明があること」「退居要件に該当した時に十分な支援が行われること」の三要件が必要です。
例えば、「脳梗塞によって入院、退院許可ができたけれど生活全般に介護が必要となった」という場合、「特養ホームへの入所検討を行う」「介護機能の整った系列の介護付有料老人ホームへの入居を行う」などの対策が考えられますが、それはどのように判断するのか、高齢者住宅事業者はどのような支援を行うのか、また系列の介護付有料老人ホームはどのようなサービスを提供し、どの程度の費用がかかるのか・・・などについても、十分に説明をしなければなりません。「重度要介護になれば退居」だけでは、入居者や家族の「将来の介護不安」というニーズに十分に応えられないからです。

それは、リスクマネジメントの強化も同じです。
「生活上のルールや禁止事項」は、一方的に入居者の生活の自由を縛るものではなく、入居者全員の快適な生活、安全な生活のために不可欠なものです。
ルールの必要性だけでなく、禁止事項に抵触した場合の対応、判断を誰がどうするのかについても、十分に説明をしておく必要があります。特に、「部屋で隠れて喫煙をしている」という場合、他の入居者の生命を脅かす火災につながるリスクですから、厳しい対応をとることを説明します。
ここで、合わせて重要になるのが、「入居者・家族の見極め」です。
認知症や要介護状態の軽重に関わらず、自分勝手な行動で他の入居者に不快を与えたり、迷惑を及ぼす高齢者では困ります。
また、民間の高齢者住宅の場合、身元引受人・保証人の役割が重くなります。人間関係トラブルや違反事項が発生した場合、その対応は高齢者住宅事業者だけでなく、家族の協力が不可欠であり、信頼関係を築くことができなければ、トラブルは拡大します。入居相談・入居説明には、説明漏れや対応漏れがないようにマニュアルを整備すると同時に、「入居者・家族を見極める」というノウハウが必要になるのです。
高齢者住宅事業は、まだ新しい事業であり、ほとんどの高齢者・家族にとって、その選択、生活は初めての経験です。入居者・家族の自己選択を支援するということは、「自分で考えて選んでね」ではなく、選択肢の中身・リスクについて十分に説明し、実際の生活をイメージできるようにすることです。このリスクマネジメントの強化は、結果的にそれぞれの高齢者・入居者の生活ニーズを満たし、守ることにつながると私は考えます。

長い前置きになりましたが、ここからは、「新 自立~軽度要介護向け住宅のビジネスモデル」について考えていきます。





【特 集】 要支援・軽度要介護高齢者住宅の未来・方向性を探る 🔜連載更新中

  ♯01  自由選択型 高齢者住宅への回帰の動きが加速する背景
  ♯02  「高齢者住宅は要介護対応に関与しない」というビジネスモデルは可能か
  ♯03  高齢者住宅の「要介護対応力=可変性・汎用性」とは何か
  ♯04  要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅰ ~建物・設備~
  ♯05  要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅱ ~介護システム~
  ♯06   要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅲ ~リスク・トラブル~
  ♯07  「早めの住み替えニーズ」のサ高住でこれから起こること
  ♯08  自由選択型 高齢者住宅は不安定な「積み木の家」になる
  ♯09  これからの高齢者住宅のビジネスモデル設計 3つの指針

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  5. 要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅲ ~リスク・トラブル~
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