『介護の地方分権』は”切り札”か”切捨て”か
「全国共通ケアシステム」からよりきめ細かい対応と、住み慣れた地域で暮らせる「地域包括ケアシステム」に舵をきった日本の高齢者施策。国の旗振りでメリットばかりが強調される中、構造的問題を抱えたままの制度が、自治体破綻の引き金になろうとしている。
未曾有の後後期高齢社会を乗り越えるたための抜本的な対策を問う!!
これからの高齢者介護を語る上でカギとなる言葉が「地域包括ケアシステム」です。
介護だけではなく、医療や介護予防、住まい、老人福祉、低所得者対策を含めた高齢者施策、社会保障政策の大転換であり、重度要介護・認知症高齢者の激増、家族介護の限界、介護人材不足、介護医療費の増大など少子高齢化に伴う課題が山積する中、国はその対策の柱としてこの言葉を掲げています。
地域包括ケアシステムは、「認知症や寝たきりになっても、住み慣れた地域で暮らし続けるための、介護・医療・住まい・介護予防が一体となった中学校区単位(30分以内)のコンパクトな介護システム」だと考えている識者は多く、国もそのようなイメージ図を作り説明を行ってきました。
この地域包括ケアシステムという言葉が初めて登場したのは2005年の介護保険法改正時。その20年後の団塊の世代が75歳以上の後期高齢者に入る2025年をめどとして、その構築を図ることとしています。いまは2024年目前であり、その準備期間、移行期間の最終盤に差し掛かっています。
しかし、そのイメージされた「介護・医療・住まい・介護予防が一体となった中学校区単位のコンパクトな介護システム」など、全国の市町村を見回してもどこにもありません。
何故、このようなチグハグなことが起きているのか・・・。
それは「地域包括ケア」という言葉やイメージだけが先行し、その本当の理由が隠されたまま本質的な議論・理解が行われていないからです。
「地域包括ケアシステム」は、「コンパクトな介護システム」を国の号令一下、北海道から沖縄まで、全国の市町村に一律に整備するという政策ではありません。その本質は、それぞれの地域でどのような高齢者施策、ケアシステムが必要になるのかを検討し、介護資源の確保を含め、プランニング・マネジメントする責任が、全面的に自治体(市町村・都道府県)に移るという行政機構の変革です。
いまのわかりやすい言葉でいえば、高齢者総合政策の「地方分権」です。
確かに、「地域需要・地域ニーズに密着した効率的・効果的な高齢者総合対策を行うには、国ではなく市町村が中心になって推進するのが望ましい」と言われると、その通りです。
しかし、それはそう簡単な話ではありません。現行制度がそのまま維持されると、2040年には高齢者、特に激増する85歳以上の後後期高齢者の医療介護費は、いまより年間43兆円増えることがわかっています。それは「全国共通ケアシステム」でも「地域包括ケアシステム」でも同じです。
しかし、それを賄うための人材・財政を確保することは、どう考えても不可能です。
つまり、財政も人材も破綻状態にある医療介護を含めた高齢者対策の責任を、これからは地方自治体、特に、基礎自治体である市町村(とその住民)が負うというのが「地域包括ケアシステム」なのです。
地域包括ケアシステムが本格始動する2025五年からは、住んでいる市町村によって地方税や医療介護の保険料、また要介護高齢者になった時に受けられる介護サービスの内容、自己負担が大きく変わるという「介護ガチャ」がスタートします。限られた財源・人材の中で効率的・効果的な地域包括ケアシステムが構築できない自治体は、医療介護費用の増加によって、財政破綻します。無理に介護費用を削減しようとすると、介護離職が増加し、地域経済・地域社会そのものが崩壊することになります。
つまり「地域包括ケアシステム」は、2040年に向けた自治体破綻の一里塚であり、全住民を巻き込む自治体存続をかけた壮絶な「自治体ガチャ」の時代に突入するのです。
この問題は、小手先の財政政策、金融政策で解決できるようなものではありません。
SDGS(持続可能な開発目標)という言葉がありますが、これから日本は社会保障制度だけでなく、市町村や都道府県の形、行政機構、社会システムなど、不透明や利権や癒着、不合理で非効率なものをすべて排し、この「後後期高齢社会」に合わせて持続可能なものへと根本から作り変えていかなければならないのです。
それは「痛みを伴う改革」「身を切る改革」といった軽いものではありません。
この地域包括ケアシステムはまだそのスタートでしかないのです。
是非、お読みください。
【コンテンツ】
序章 誰にも説明できない地域包括ケアシステム
1 全く進んでいないように見える「地域包括ケアシステム」
2 地域包括ケアシステム、二つのポイント
3 地域包括ケアシステムは、高齢者総合施策の行政機構の変革
4 なぜ国は高齢者総合施策の地方分権を推し進めるのか
第1章 未曾有の「後後期高齢社会」がやってくる
1 2035年、団塊の世代が後後期高齢者になる
2 激減する勤労世代・絶対的不足に陥る介護人材
3 激増する後後期高齢者の社会保障費をだれが負担するのか
4 社会保障費の負担を増やすと経済は疲弊する
5 介護サービスを抑制すると経済は破綻する
第2章 地域包括ケアは2040年に向けた自治体破綻の一里塚
1 介護報酬を上げても介護人材不足は解消されない
2 中学校区を単位としたコンパクトな介護システムは作れない
3 地域包括ケアシステムが進まない決定的な理由
4 地域包括ケアシステムの行く手を阻む法律・制度の歪み
5 地域包括ケアシステムは〝自治体ガチャ〟の始まり
第3章 高齢者の医療介護費用の大幅削減は2025年から始まる
1 介護保険の被保険者の拡大、制度の統合
2 介護保険の対象者の限定
3 介護保険の自己負担の増加
4 マイナンバー制度の目的は社会保障制度の抜本的改革
5 社会福祉法人と営利法人の役割の整理・分離
6 高齢者施設と高齢者住宅の整理・統合
7 要介護認定調査の厳格化
8 独立ケアマネジャー事務所への支援
9 囲い込み不正に対する規制強化・不正に対する罰則の強化
10 高齢者の医療費の削減のポイントと課題
11 2025年から始まる高齢者の医療介護費用の大幅削減策
第4章 地域包括ケアシステムの推進──自治体の存続をかけた戦い
1 地域包括ケアシステムは自治体の存亡をかけた大事業
2 域内の包括的事業者間ネットワークの構築
3 地域包括ケアシステムは、総合力が成否を決める
4 医療介護のコンパクトシティ構想を
5 最も変わらなければならないのは市民の意識
~おわりに~
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