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「在宅へ・自宅へ」という対策は、なぜ間違っているのか


高齢者住宅の整備が必要な理由は「需要の増加」だけではない。
限られた財源、人材を効率的・効果的に運用するには、重度要介護高齢者には集まって生活してもらうことが必要。重度要介護・認知症高齢者は一人で生活できないため、在宅介護を進めると介護離職が激増する。

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 009


要介護高齢者対策とは 🔗で述べたように、超ハイパー高齢社会の要介護高齢者対策として強化が必要となるのが、「介護対策」「福祉対策」「住宅対策」「低所得者対策」です。
しかし、「言うは易し、行うは難し」で、そう簡単なことではありません。
現行制度のまま、高齢者・要介護高齢者の増加に合わせて、介護、福祉、住宅、低所得者対策の費用を比例して増加させていくことは100%不可能です。
これからの社会保障政策には「あれも・これも」ではなく、選択と集中のもと、限られた財源や人材を公平に公正に、また効率的・効果的に運用するというマネジメントの視点が必要です。


高齢者住宅が必要なのは「重要の増加」だけではない

これから激増する重度要介護高齢者対策に不可欠となるのが、高齢者住宅です。
その理由は、需要の増加だけではありません。
例えば、オムツ介助や排泄介助の介助時間は、一人当たり10分~20分程度ですが、訪問介護で離れた各家を一軒、一軒回るには移動に時間がかかります。また、入居者個別のケアプランに基づいて介護サービスを提供するため、順序良く回れる訳ではなく手待ち時間も発生します。一人のホームヘルパーが一日8時間働くとしても、一日あたり6人~8人の高齢者宅を訪問するのが限界です。

これに対し、高齢者住宅で暮らす要介護高齢者が増えると移動の時間が必要ないため、効率的に介護サービスを提供することができます。個々のケアプランに基づく排泄介助の間に、全体の洗濯・掃除、入浴の準備などきめ細かいケアを行うことができますから、一人の介護スタッフが訪問介護の3倍、4倍のサービスを提供することが可能です。

食事介助も同じです。
食事介助と言っても「全介助」「一部介助」「見守り介助」など要介護状態は様々です。
高齢者住宅では、一人の介護スタッフが左に座る入居者の口にスプーンを運びながら、右の高齢者に食事を促し、補助をしながら、他の入居者に誤嚥はないか、むせていないか等、見守ることができます。自宅で一人暮らしをしていると、調理から食事まですべて介助が必要とされる高齢者でも、高齢者住宅でスタッフが見守り、促しをすれば、一人で食べることができる人はたくさんいます。

効率性から見た高齢者住宅のメリット
 ■ 移動時間・待機時間がないため、効率的・効果的にサービス提供が可能
 ■ 効率的なサービス提供によって、効率的な介護保険財政の運用が可能
 ■ 効率的な介護保険財政の運用によって、介護労働環境の向上が可能
 ■ 効率的な介護サービス提供によって、高齢者の生活環境・ADLの向上が可能

介護サービスにかかる費用は人件費が中心であり、介護報酬も人件費が基礎となって設定されています。効率的・効果的に介護サービスが提供できるということは、同じ量の介護サービスを提供しても、必要な介護労働者数を抑えられるということですから、財政的にも効率的な運用が可能となります。
視点を変えれば、給与など介護職員の労働条件を上げることもできますし、「介護のしやすさ」を高めることによってスタッフが働きやすい労働環境をつくることにもつながっていきます。要介護高齢者が高齢者住宅に集まって生活すると、財政的にも人的にも効率的な運用が可能になるのです。

「在宅介護」を推進すれば、介護離職が増える

しかし、最近は施設や高齢者住宅ではなく「できるだけ住み慣れた自宅で…」という流れになっています。
特に、都心部では、施設や住宅用地の確保ができないために、在宅介護を加速させています。
しかし、この政策は大きな間違いです。それは、述べたように一軒一軒回るのは非効率だというだけでなく、重度要介護高齢者、認知症高齢者の激増するこれからの社会には対応できないからです。

現在の「在宅介護」に適用される区分支給限度額方式は、一ヶ月単位で策定するケアプランの中で「サービス内容」「サービス種類」「サービス時間」を指定して受ける予約方式です。要支援~軽度要介護高齢者は、「入浴が困難な人には入浴介助」「一人で通院できない人は通院介助」など、予約方式による「定期介助・ポイント介助」で対応が可能です。
一方、重度要介護高齢者になると、排泄や移動、移乗など、ほとんどすべての生活行動に介助が必要になります。「汗をかいたので風呂に入りたいが、午後にヘルパーさんが来るまで待っていよう」ということはできても、「トイレに行きたいけれど、お昼まで待っていよう」ということはできないからです。
特に、認知症高齢者になると、想定できない行動を起こすこともあり、継続的な状態把握、見守り、声掛けなどの間接介助の必要性が高くなります。

重度要介護高齢者や認知症高齢者の生活を支えるには、食事、入浴、排泄などの予約方式の「ポイント介助」ではなく、日々の要介護状態に臨機応変に対応できる「24時間365日の継続的・包括的な介助」が不可欠なのです。
最近、厚労省は「ポイント介助」の通常の訪問介護ではなく、「定期巡回随時対応型訪問介護」を推進していますが、これも自分でSOSを発信できない重度要介護、認知症高齢者には対応できません。本当に、重度・認知症高齢者が安心して生活できるだけの、きめの細かい「定期巡回随時対応」をやろうとすれば、大変な数の拠点とホームヘルパーが必要となります。

このような「在宅で、自宅で」という方策を継続した場合、確実に増えるのが介護離職です。
これから増える重度要介護高齢者、認知症高齢者の多くは、独居または高齢夫婦世帯です。排泄も一人ではできず、テレビも付けられず、最重度になると寝返りもできません。「訪問介護サービス」の回数が増えても、子供などの家族の誰かが同居しなければ、生活は維持できないからです。
また、保育園のように朝から夜までデイサービスを行っても、夜間の介護は家族に任せることになります。昼夜逆転で夜中に起きだしたり、不安で騒いだり、夜中に二度、三度と排泄介助が必要な老親を抱えながら、いつ終わるかわからない介助を続けることは、体力的にも精神的にも不可能です。

このように、高齢者住宅が必要となる理由は、需要の増加だけではありません。
絶対的に不足する社会保障財政、介護人材の効率的・効果的な活用のためにも、「介護離職」「介護別居」「介護離婚」を防ぐためにも、要介護高齢者も家族も安心して生活できる、高齢者住宅の整備が不可欠なのです。


不足するのは要介護高齢者住宅 ~事業特性の理解~

   ⇒ 要介護高齢者対策とは ~介護・福祉・住宅・低所得者~ 🔗
   ⇒ 「在宅へ、自宅へ」という対策は何故間違っているのか 🔗
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  ☞ 高齢者住宅事業の整備は「プランニング=商品」で決まる (全7回)
  ☞ 不足するのは要介護高齢者住宅 ~事業特性の理解~ (全7回)
  ☞ 要介護高齢者住宅の商品設計 ~建物設備設計の鉄則~ (全9回)
  ☞ 要介護高齢者住宅の商品設計 ~介護システム設計の鉄則 (全12回)
  ☞ 高齢者住宅 事業計画の基礎は業務シミュレーション (全9回)
  ☞ 高齢者住宅 「建物設計」×「介護システム設計」基礎編 (全8回)



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