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介護人材の絶対的不足はこれから本格化

高齢期に要介護状態になれば、公的な介護保険制度が利用できます。
そのために私たちは、高額の介護保険料を支払っています。
介護保険は民間の私保険ではなく、行政が管轄する公的な社会保険ですが、「保険システム」であることは同じです。介護需要が激増し、それが30~40年に及ぶ中で制度を維持し続けるには、比例してそれを支える人材と財源が必要になります。
しかし、その見通しは明るいものではありません。

一つは介護人材です。
高齢者介護は、労働集約的な仕事です。トップセールスマンが一人で10台の車を売るのとは違い、ベテランの介護スタッフでも押せる車いすは一台です。食事介助も排せつ介助も、要介護状態が重くなったり、介護が必要な人が増えたりすると、比例して介護スタッフの増員が必要になります。
同時に、専門性の高い仕事であり、一瞬の隙、小さなミスが骨折・死亡につながる責任の重い仕事でもあります。介護は文化であり、単純労働ではありませんから「外国人労働者に丸投げ」はできませんし、認知症や判断力低下の問題があるため「OK グーグル」「介護ロボットにお任せ」もできません。質の高い介護サービスを提供するには、介護福祉士など高い知識・技術・ノウハウを持った介護人材の育成をしなければならないのです。
しかし、私たちが立っているのは、介護需要が急激に増加する一方で、それを支える側の労働人口が直線的に減少していくといういびつな社会です。


表の通り、2020年の「支える側」の20歳~64歳の人口は6,938万人ですが、2040年には1,100万人減の5,808万人、2060年には、そこから更に1,100万人減って、4,722万人となります。一方の「支えられる側」の85歳以上の後後期高齢者人口は、2020年613万人だったのが、2040年には1,006万人、2060年には1,170万人となります。この「支える人口」と「支えられる人口」を対比すると、2020年は、11.3人で一人の後後期高齢者を支えていたのに対し、2040年には5.77人と、今の半分以下の人間で85歳以上の高齢者を支えなければなりません。更に2060年になると4.03人へとさらに減ることがわかっています。



自治体別にみると、更に厳しい状況が見えてきます。
上表は一人の85歳以上の高齢者を何人の生産年齢人口で支えるのかという将来推計の指標を、都道府県別に分けて整理したものです。秋田では、2020年の段階で、一人の後後期高齢者を6.4人の20歳~64歳の人口で支えていますが、2040年には3.3人になります。北海道や東北、四国、九州などの地方で数字が小さくなるのは、それだけ少子高齢化が進んでいることを示しています。

これをさらに、市町村レベルにまで細かく分析すると、2040年には、全国で、「85歳以上人口」が「20歳~64歳人口」よりも多い自治体(1.0以下)が現れ、2.0を切る自治体が、全自治体の約一割に達することがわかっています。こうなると介護の人材確保だけでなく、自治体の存続そのものが難しくなっていきます。

一極集中と言われる東京や近郊の都市部でも、これから少子高齢化は進んでいきます。
東京では2020年には15.9人だったのが、2040年には10.2人、神奈川や埼玉では6.8、6.4と今の秋田や青森と同程度の数値になっています。京都や大阪、福岡などの他の大都市でも、5.0、5.7と、現在の半分の数字になっています。言い換えればそれは、支える側の負担が二倍になるということです。

都市部の方がまだ数値が高いから大丈夫という話ではありません。
2040年の東京都内の平均は10.2ですが、八王子市は6.3、町田市や福生市では5.8、多摩市では5.4、青梅市では3.5と、地方と同じくらいの厳しい数字が並びます。あなたの住んでいる市町村ではあなたが85歳になった時にどのような人口動態になっているのか、親の住んでいる市町村の将来人口は20年後、どのようになっているのか、一度調べてみることをお勧めします。驚くべき数字がでてくるはずです。

今でも、介護スタッフの確保に苦労しているのは東京や神奈川といった大都市です。それは介護以外の仕事がたくさんあるからです。このまま抜本的な対策を打ち出すことができなければ、一気に高齢化が進む都市部では、この10年内に「保険あっても介護人材なし」という状態になることは間違いありません。







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