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生活安全性の高い土地の選定ポイントとその視点


高齢者・要介護高齢者の生活上の事故や介護サービス上の事故は、建物設備設計と大きな関係がある。ただ、それは「建物設備設計上の工夫」だけで対応できるものではなく「土地の選定」から大きく関わってくる。生活安全性の高い土地の選定ポイントとその視点について考える

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 055


土地の選定にかかる安全性について、もう一つのポイントは「生活安全性」です。
介護リスクマネジメントはソフトではなくハードから 🔗(リスクマネジメント) 
建物設備設計の工夫で事故は確実に減らすことができる 🔗(プランニング) 
で述べたように、高齢者・要介護高齢者の生活上の事故や介護サービス上の事故リスクは、建物設備設計・備品選択と大きく関係しています。ただそれは「建物設備設計の工夫」だけで対応できるものではありません。そこには「土地の選定」が大きく関わってくるからです。
生活安全性の視点からみた土地の選定について、ポイントを整理します。

生活安全性から見た高齢者住宅 候補地の選定

高齢者住宅に適した土地・周辺環境と、学生や勤労世帯の一般の賃貸マンションに求められる立地・周辺環境とは根本的に違います。
一般の賃貸マンションの場合、通学や通勤を行うため、小学校や中学校、駅やバスなどの交通網、スーパーマーケット、コンビニといった商業施設などの「外部サービスとのアクセス」が求められます。
一方の高齢者住宅の場合、その土台となるのは「生活の安全性」です。

① 交通事故からの安全性
高齢者・要介護高齢者は身体機能が低下していますので、外出時には電車やバスなどの公共交通機関ではなく、自動車(家族)やタクシー、福祉車両を利用する割合が高くなります。
特に、身体機能の低下した高齢者は若年層のようにスムーズに乗り降りできませんから、前面道路に車を止めて乗降するのは非常に危険ですし、後ろからクラクションを鳴らされ慌ててしまい、降車時に転倒、骨折するという事故も増えます。
更に車いす利用となると、車いすをトランクから出して、ドアのそばにセッティングし、車から降りてそこに座ってもらうというだけで、相当の時間がかかります。これを一般の路上で行うとなると、道や歩道をふさぐために渋滞が発生し、他の車や歩行者、自転車の交通事故の原因にもなります。
そのため、高齢者住宅の玄関が直接前面道路に面していないこと、また福祉車両が敷地内に入って安全に乗り降りができるだけの広い駐車スペース、玄関までの車寄せが設置できるだけの広さが必要です。

実際の高齢者の生活実態・身体機能の低下の視点に立った交通事故のリスクの判断も必要です。
自立度の高い高齢者も入居対象とする場合、「近くまでなら、一人で買い物に行く」という人もいるでしょう。例えば、自動車の通行が多い二車線の前面道路で、高齢者住宅の向かいにコンビニエンスストアがあるが信号まで大きく迂回しなければならない場合、「信号まで行くのはしんどいから…」「少しくらいなら大丈夫…」と、無理に横断して車にはねられて死亡するという高齢者は少なくありません。その交通事故の責任が直接事業者に及ぶわけではありませんが、どのように入居者が生活するのかをイメージして、その生活実態に即して交通安全性の視点から立地環境のチェックが必要になります。

【交通事故にかかる安全性】
交通事故からの安全性の確保のため、次の各視点を踏まえて、土地を選定すること。
 ① 高齢者住宅の玄関(出入口)が、前面道路に直接面していないこと。
 ② 安全に車の乗り降りができるよう、敷地内に自家用車や福祉車両が乗り入れることができるスペースがあること。
 ③ 高齢者・要介護高齢者の生活実態に合わせ、交通安全性に配慮されていること。


② 生活事故からの安全性
二つめは、転倒・骨折などの生活事故からの安全性です。
高齢者住宅は、敷地内に傾斜や段差がないと言うことが前提です。
一般の賃貸マンションでは、床面を高くするため、道路から玄関入口までに数段の段差があるところが少なくありませんが、小さな一段の段差でも車いすで上がることはできませんし、スロープであっても腕の筋力が低下した高齢者は一人で上がることはできません。緩やかな傾斜であっても、歩行不安定な高齢者は転倒のリスクが高くなりますし、駐車場で車いす高齢者を下ろして、ストッパーをかけ忘れてそのまま車いすが動き出してしまい、転倒・骨折、頭部打撲で重症という事故の原因にもなります。
地域によっては、雨や雪、または凍結によって滑りやすく、リスクがより増大するというところもあるでしょう。建築上、階段を緩やかにしたり、手すりを付けたり、スロープを付けるなどの配慮をすることは可能ですが、「段差・斜面=介護負担の増大 & 転倒転落リスクの増加要因」であるということを十分に理解する必要があります。

【生活・介護事故にかかる安全性】
敷地内及び周辺の安全性の確保のため、次の各視点を踏まえて、土地を選定すること
 ① 原則、敷地内には、車いす移動や自立歩行の妨げとなる段差や傾斜がないこと。
 ② 段差や傾斜がある場合、手すりやスロープなど、建物設備設計で十分に配慮すること。
 ③ 敷地周辺に、自立歩行や車いす移動の妨げとなる段差や傾斜が少ないこと。

合わせて、周辺環境にも目を配る必要があります。
近くのスーパーや駅、コンビニに行くのに、長い階段や陸橋を上り下りしなければならないということになれば、転倒事故のリスクが高くなりますし、逆に「階段が大変なので外に行けない」ということになれば商品性・QOLの低下につながります。それは、自立度の高い高齢者だけでなく、車いす利用者の買い物支援も同じです。


敷地の広さ・形状も事故の安全性に大きく関わってくる

もう一つ、生活事故からの安全性検討が必要になるのが、形状・広さです。
高齢者住宅用地の安全性の検討には「どのような建物が建てられるか」「居室・食堂・浴室などの配置はどうなるか」といった建物設計との一体的な検討が必要になります。
一般的な賃貸マンションの場合、居住・生活スペースは居住者ごとに完全に分離しており、入浴・食事はそれぞれの住戸専有部の中で行います。しかし、高齢者住宅の場合、自立高齢者を対象としたサ高住・住宅型有料老人ホームでも、それぞれの居室内で食事・入浴するのではなく、入浴は共用の浴室で、食事は他の入居者と一緒に共用の食堂で食べるというのが基本です。どちらかと言えば、学生寮や独身者の社員寮のイメージに近いと言った方が良いでしょう。

ただ、学生寮や社員寮とは違い、高齢者は加齢や疾病によって心身の機能が低下していきます。
上図の通り、「居室・食堂一体型」の場合、EVを使用せずに食堂や入浴などの基本的な日常生活動作が可能ですが、「居室・食堂分離型」の場合は、食事や入浴のたびにエレベーターを使って一階まで降りる必要があります。もちろん、それには介助も必要になります。ほとんどの高齢者が認知症もなく自立歩行であれば問題ありませんが、車いす利用者が増えてきた場合、一日三度の食事に食堂まで通うだけで、相当の時間と介護量が必要となります。
この問題については、要介護高齢者住宅は「居室・食堂同一フロア」が鉄則 🔗 や、分離型の実際の業務シミュレーションについては、居室・食堂分離型は介護システム構築が困難 (証明) 🔗  で述べていますので、ご参考いただければと思いますが、「分離型は要介護対応不可」というのが結論です。効率的・効果的に介護ができなければ、移動介助にかかる介護スタッフの負担が増大し、転倒・転落などの事故リスクが激増します。


ただ、これは「居室・食堂一体型であればよい」という単純な話でもありません。
例えば、上記のように同じ一体型・60名定員であっても、Aタイプは20名×3フロア、一方のBタイプは12名×5フロアです。Aタイプの場合、食事介助時を各フロア2名(全体で2×3=6名)で対応することができますが、同じ6名であってもBタイプでは各フロア1名になってしまいます。誰かが、誤嚥をしたり、トイレに行きたくなってそれに掛かり切りになれば、他の入居者の見守りができません。
同様に、それぞれ夜勤3名体制であっても、Aタイプは各フロア1名が常駐できますが、Bタイプの場合フロアに介護スタッフが誰もいないところがてできますから、入居者が転倒したり大声を出しても、気が付かないということになります。
もちろん、それは生活の安全性だけでなく、災害の安全性にも大きく関わってきます。言い換えれば、同程度の入居者数・要介護状態 の入居者に、同程度の介護スタッフ数 でサービスを提供する場合でも、土地の広さ・形状・建蔽率等によって建てられる建物は全く違い、生活の安全性・災害の安全性は全く変わってくるということです。

一般の賃貸マンションやオフィスビルの場合、その設計においては容積率にできるだけ近づけ、できるだけたくさんの部屋を作って、レンタブル比の向上を目指すことになりますが、高齢者住宅の場合、「介護効率の低下=見守りの低下=事故リスクの増大」であることを十分に理解し、「どのような建物が建てられるのか」「その建物は要介護高齢者の増加にも耐えられる生活動線・介護動線になっているか」「効率的・効果的に介護サービスが提供できるか」を一体的に検討しなければ、生活安全性・災害安全性が大きく低下するのです。
このように整理すれば、一般の賃貸マンションと高齢者住宅に適した用地は、その視点・求められるポイントが全く違うということがわかるでしょう。



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