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「食堂設計」×「食事介助」の特性について考える

食事介助はマンツーマンの介助ではなく、一人の介護スタッフが多数の高齢者の介助を行う「複数介助」、かつ移動や移乗、食事などの直接介助と、見守り・声掛けなどの間接介助が混在する「複合介助」。その特性を十分に理解した介護システム・建物設備設計が必要

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

多くの事業者、設計者が特養ホームなどの介護保険施設や要介護高齢者向け住宅の設計に失敗してしまうのは、指導指針や登録基準を土台しようとするからです。そのような介護保険施設・高齢者住宅は、開設できても生活も介護も、運営もできません。
では、食堂設計において、何を基準に考えるべきか…。
それは、食堂で入居者・要介護高齢者はどのように食事をするのか、介護スタッフはどのように介護するのかを理解することです。
食事介助といえば、介護スタッフが配膳をしたり、要介護高齢者の隣に座ってスプーンで食事を口に運んだりと言う映像・イメージを思い浮かべる人も多いと思いますが、それだけではありません。
食堂にはどのようなルートで入って、どこで手を洗うのか、厨房から食事カートはどのようなルートを通ってくるのか、配膳はどのように行うのか、スタッフはどこに座ってどのように介助するのか、早く食事が終わった人はどのルートを通って出ていくのか、食前薬、食誤薬は誰がどのように配薬するのか…。
独歩の高齢者、自走車いすの高齢者、介助車いすの高齢者、また、食事行動に全て介助が必要な高齢者、声掛けや見守りが必要な高齢者など、介助項目は多岐に渡り、入居者の入れ替わりや、要介護状態の変化によって、それは変わって行きます。その可変性、汎用性にどこまで対応できるのか、どのように介助するのか、その上で、実際にどのような事故が発生しているのか、その原因何かを十分に検討し、どうすれば安全に生活できるのか、効率的・効果的に介護できるのか…。それを点ではなく流れとして、何度も繰り返しシミュレーションすることから始まるのです。

食事介助の特性について理解する

食事介助の特性を理解するために、排泄介助との違いを考えてみます。

【排泄介助の特性】
 ◇ マンツーマンの個別ケア (オムツ交換・トイレ排泄介助など)
 ◇ 移乗・移動など直接的・身体的介助
 ◇ 定期介助(排泄リズムの把握)の他、臨時介助も発生
 ◇ 介助時間は5分~10分程度の短時間介助

排泄介助はマンツーマンの個別介助で、大きく「オムツ介助」と「トイレ介助」に分かれます。
オムツ介助の場合は、横になった姿勢のまま排泄介助することになりますが、トイレ(ポータブルトイレ)で排泄する高齢者に実際に行う介助は、トイレへ誘導(移動介助)や、車いすから便器への移乗介助、ズボンを下ろしたり上げたりという着脱介助、プラス排泄確認ということになります。
介助時間は概ね5分から10分程度、排泄リズムを把握したうえで行う定期介助と、日々の体調変化によって行う臨時の排泄介助に分かれ、24時間ランダムに排泄介助は発生します。

【食事介助の特性】
 ◇ 一人のスタッフが多数の高齢者の介助を行う複数介助
 ◇ 移動移乗・食事など直接介助と、見守り・声掛けなど間接介助の複合介助
 ◇ 基本的に1日3回(朝食・昼食・夕食)の定期介助
 ◇ 送迎・手洗い・食事などを含めると1時間~1.5時間の長期介助

これに対して、食事介助は、マンツーマンの介助ではなく、一人の介護スタッフが多数の高齢者の介助を行う「複数介助」で、移動や移乗、食事などの直接介助と、見守り・声掛けなどの間接介助が混在する「複合介助」です
例えば、全介助の高齢者の隣に座ってスプーンで口に運びながら、その隣の高齢者に一部介助したり、対面に座る認知症高齢者にも「急いで食べずにゆっくり食べて下さいね…」と声をかけたり、異変はないか誤嚥や窒息などしていないかなどを見守ります。それ以外にも、きちんと薬を飲めているのかを確認したり、食事が終わって動き出そうとした高齢者に「もう少し待ってください」と指示をしたりします。
介護時間は、1日3回、朝食時(8時頃)、昼食時(12時頃)、夕食時(18時頃)と1日3回の定期介助で、送迎・手洗い・食事などを含めると、食事に関わる介助行動は、それぞれ1時間~1.5時間程度かかることになります。

【食事介助×食堂設計】のポイントを理解する

この違いを考えると、食事介助×食堂設計のポイントが見えてくるはずです。
ひとつは、食堂までの介助・生活動線・介護動線です。
食事介助と言えば、介護スタッフが自力摂取のできない重度要介護高齢者の隣に座ってスプーンを口に運ぶというイメージ画像が頭に浮かびますが、実際はその前後、つまりテーブルに座るまで、そして食事が終わってからテーブルを離れてからの介助がとても多いことがわかります。独歩高齢者はどのように歩いてくるのか、自走車いすの人はどのようにやってくるのか、そして介助車いすの人はどのようなルートで移動介助をするのか。それぞれどこで手を洗うのか、途中でトイレにいたくなった場合はどうするのか…ということまで考えておかなければなりません。
また、食事の動線も必要です。厨房と食堂が離れている場合、また食堂が複数に分かれている場合、食事を運ぶルートと入所者・入居者の介護動線、生活動線が混乱していないか、不潔ルートと交わっていないのかも重要なポイントです。それが混乱していると、スタッフと食事カートがぶつかったり、排せつ物をもったスタッフと食事カートが同じエレベーターに乗っているという衛生上の問題が発生します。

もう一つは、食堂内における食事介助です。
車いすの高齢者が多くなっても、介助が必要な高齢者が増えても、スタッフが隣に座って余裕をもって食事がとれる十分に広さは確保できているのか。入居者がどのように座れば、スタッフはどこに座れば介助がしやすいのか、介助しながら、他の高齢者の見守りや声掛けができるのかを考えなければなりません。他のテーブルが見えにくかったり、背中合わせになっていると、入居者の誤嚥窒息などの異変に気付くことができません。
また、パントリーからの配膳、下膳が安全にできる動線は考えられているのか、食事が終わった高齢者はスムーズに退出できるのかといった、食堂内での動線の確保も必要です。

高齢者住宅や介護保険施設で行われている食事介助の特性をもとに、食堂設計を考えていくと、私たちが一般的にイメージするレストランや食堂、学生寮や社員寮の食堂とは、まったく違う視点が必要になることがわかるはずです。指針や基準を含め、介護保険施設や高齢者住宅の設計図書には、「食堂は車いす利用者が利用できるだけの広さを確保すること」と書いてあるものが多いのですが、そんな単純な話ではないのです。



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