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介護の仕事がブラックなのではなく、その介護事業者が暗黒


 杜撰な制度設計、欠陥・違法高齢者住宅の被害者は入居者だけではない。
 「介護スタッフが集まらないのは、介護報酬が低いからだ」
 「事業所内で虐待や事故が多発するのも、介護報酬が低いからだ」
 マスコミの報道でもそれが定説であるかのように語られている。介護人材不足が社会問題となるにつれ、介護報酬を上げるべきという声は大きくなっている。
 介護労働の待遇改善を支援してくれるのはありがたいが、介護業界は「家族の代わりにおむつ交換や認知症対応をしているのだから、もっと金をくれ」と言っているのではない。高齢者介護は介助技術・知識など専門性の高い仕事であり、一瞬のミス・過失が骨折や死亡につながる法的責任の重い仕事だ。要介護状態や認知症になった時に質の高いプロの介護を受けたいのであれば、その専門性やリスクをきちんと評価し、優秀な人材が介護労働を目指すよう、社会の責任・仕組みとして、その体制を整えてほしいと訴えているにすぎない。
 ただ、優秀な人材が集まらないのは介護報酬だけの責任かと言えば、そうではない。
 介護の専門性、現場の介護スタッフの努力を一番理解しておらず軽んじているのが、当の高齢者住宅の事業者・経営者だからだ。

 現場の介護労働者も含め、「介護がブラック」と叫ぶ人たちが誤解しているのは、「介護という仕事はどの事業所で働いても同じ」と思っていることだ。
 第4章で【3:1配置】の基準配置や「食堂居室フロア分離型」の介護付有料老人ホームは重度化対応できない「介護できない介護付」だ、と述べた。夜勤二人体制では、一人が休憩に入れば一人で60人に対応しなければならない。センサーマットが発報し、認知症高齢者は歩き回り、手元のスタッフコールのPHSは震え続ける。「ちょっと待っててって言ったでしょ!」「何度もコールしないでよ!」と身体的疲労と精神的ストレスは積み重なっていく。
 早朝4時には、入居者を起こし始めなければならない。早い人は4時半には食堂に連れて行き、朝食の7時半まで待機、居室に戻すとまた降ろさなければならないので、そのまま昼食まで放置される人もいる。見学に行くと食堂でぐったりしている車いすの高齢者を見かけることがあるだろう。それが365日続くのだ。「安心・快適」どころか人間らしい生活には程遠いが、そうしないと介護できないのだ。

 その常軌を逸した過重労働は、重大事故につながることになる。
 ある介護付有料老人ホームで発生した入浴死亡事故では、5人の要介護高齢者を3人で介護していた。それぞれ「誰か他のスタッフが見ているだろう」と思ったのか、要介護2の入居者が浴室で一時間半近く放置され溺水で亡くなっている。この事故では、当時の施設長、ケアマネジャー、その日に入浴を担当していた介護スタッフ2名の合計4名が、適切な介助を怠ったとして業務上過失致死(厳重処分)で書類送検されている。これも大手事業者だ。

 わたしは、介護保険施設・高齢者住宅の介護スタッフを対象に、介護事故や感染症予防のリスクマネジメントのセミナーを行っているが、このような絶対的に介護スタッフ数が不足している高齢者住宅では、最低限の事故予防や感染症の予防対策さえ取れない。それは「忙しい・介護の仕事は大変」というレベルではなく、事故が起きれば介護看護スタッフが刑事罰に問われる危険な労働環境なのだ。
 「介護はブラックだ」「介護の労働環境は悲惨だ」
 そんな声をよく聞くが、介護業界ほど、その事業所によって働きやすさに大きな格差がある業界はない。介護がブラックなのではなく、その働いている事業者の労働環境が最悪なのだ。
 「労働者が安全に働ける環境を整えるのは経営者の仕事」
 そんな最低限のことさえわかっていない介護経営者が、あまりに多いのだ。
 そして、その不正で過酷な介護の労働環境を、我関せずと厚労省も放置してきたのだ。



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