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ユニット型個室特養ホームの失敗 Ⅱ ~高級老人ホームの半額~

 ユニット型特養ホームは、その運営にたくさんの介護スタッフが必要となる。後後期高齢者対比の労働人口が一気に減少していく中で、限られた介護人材の効率的・効果的な活用は必要不可欠なのだが、それに、真っ向から反する政策だと言える。
 それは介護財源も同じ。
 ユニット型特養ホームは高齢者の介護政策、社会保障制度全体としてみると、非効率というよりも、考えられないくらい、あまりに不公平なのだ。

 現在の特養ホームは、老人福祉施設であると同時に、介護保険施設として位置づけされている。
 家族からの虐待など緊急避難的な高齢者に対する措置入所が残されているが、それは極々一部に限られており、実際は、「要介護高齢者の終の棲家」であり、有料老人ホームなど、民間の高齢者住宅と役割は、ほとんど(というか全く)同じだ。
しかし、事業の運営環境は全く違う。


 特養ホームの建築には一か所あたり数億円の補助金が拠出されており、運営する社会福祉法人は、固定資産税や事業税、法人税などはすべて非課税。また介護報酬も、介護付有料老人ホームと比較すると、月額一人当たり4.0万円~4.5万円、年間50万円~55万円も高く設定されている。更に、特養ホームには、介護付有料老人ホームと比較すると様々な加算項目が用意されているため、これを加えると65万円~70万円になる。
 実際、厚労省は、特別養護老人ホームの入所者には、自宅や高齢者住宅で暮らす高齢者と比較すると、一人当たり年間180万円(月額15万円)もの社会保障費が多くかかっていると認めている。
 これは社会保障制度全体の話ではなく、入所者の支払う月額費用に深く関わってくるのだ。

 低所得者向けの減額措置のない高齢者(一割負担)の場合、ユニット型特養ホームに支払う月額費用の基準額は、要介護状態によって13万円~15万円程度となっている。全室個室で三食の食事付、【1.6~1.8:1配置】という手厚い介護看護体制で、破格の月額費用に抑えられているのは、自宅や高齢者住宅で暮らす要介護高齢者よりも、年間180万円もの社会保障費が投入されているからだ。
 そのユニット型特養ホームの隣に、民間事業者が、全く同じ建物設備、介護システムの介護付有料老人ホームを整備すると、月額費用は、30万円以上になることがわかっている。言い換えれば、その差額を補助金や介護保険で埋めているため、「特養ホームの整備・運営にはお金がかかる」となるのは当然だ。

 言い換えれば、月額費用が25万円程度の介護付有料老人ホームよりも、月額費用15万円程度のユニット型特養ホームのほうが、建物設備も人員配置も、グレードが高いということになる。家賃30万円の民間の高級賃貸マンションの隣に、全く同じ仕様で15万円の市営住宅をつくるのと同じだと言えばわかりやすいだろうか。市価の半額で利用できるのだから、「ユニット型特養ホームに入所したい」と、入所者が殺到するのは、当たり前のことだと言える。

 「同一サービス・同一価格」というのが経済の原則だ。
 介護や医療など、公的な社会保険を使うサービスであれば、それは尚更だ。なぜ、このような矛盾が起きるのかといえば社会保障制度の混乱によって、応能負担・応益負担の原則が崩壊しているからだ。
 「旧福祉時代は、特養ホームはもっと安かった」という人が多いが、介護保険制度が始まる前は、多床室型(四人部屋)の特養ホームでも、その入所者の収入に合わせて0円~最大24万円(措置費全額)の自己負担となっていた。わたしが特養ホームで働いている時でも、「不動産を売却して高額所得になった」などの理由で、措置費全額を支払っている入所者はいた。


 繰り返し述べているように、特養ホームも介護付有老ホームもその役割は変わらない。
 ただ、老人福祉施設には、低所得者に対する減額措置がある。逆を言えば、老人福祉施設であっても、負担能力の高い高齢者には相応の自己負担(応能負担)を求めるべきであり、手厚い介護体制のユニット型特養ホームに入所している高齢者はその受益されるサービスに応じた負担(応益負担)を負うべきだろう。しかし、介護保険制度以降、「介護保険と老人福祉」「高齢者住宅と老人福祉施設」の役割の混乱の中で、その両方の原則が大きく後退しているのだ。

 社会保障制度はセーフティネットとも呼ばれ、全国民に公平・公正であることが求められる。そのためにそれぞれが高額な社会保険料や税金を納めている。「特養ホームに入所できた人だけ、低価格で手厚い介護を受けられてラッキー」「特養ホームに入れない大多数の人がそのあおりを食う」などということは制度としてありえないのだ。
国は、財政難を理由に介護費用の抑制は不可避だといいながら、社会保障費の使い方として、あまりにも非効率であり、荒唐無稽なほどに不公平だということがわかるだろう。



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