2035年、85歳以上人口が1000万人をこえる中、生産年齢人口は1200万人も減少。 北海道や東北、四国、九州などの地方だけでなく、東京、愛知、神奈川など都市部でも人材不足は悲惨なことに。介護ロボットが進化しても外国人労働者が増えても、需要増に対応することは不可能
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「誰も逃げられない」後後期高齢者1000万人時代 ? で述べたように、2035年までの15年で、85歳以上の後後期高齢者の激増により、重度要介護高齢者、認知症高齢者は一気に2倍に増えます。合わせて独居高齢者、高齢者夫婦世帯の割合も激増しますから、介護需要は2倍以上になります。
それを支えるには、「労働力(介護人材)」と「財源(社会保障関連費)」の確保が不可欠です。
しかし、その見通しは、「明るくない」という程度の悠長なものではありません。
少子化・労働人口減少がボディブローのように効いてくる
一つは、労働力人口の減少です。
介護は労働集約的な対人サービスです。介護福祉士の資格をもつ、ベテランの介護スタッフでも、車いすは一台しか押せません。それは食事や入浴、排せつの介助も同じです。
重度要介護高齢者の増加は、そのまま介護需要の絶対的増加を示します。この激増する介護需要に比例して介護労働者の増加・育成は不可欠なのですが、ここに少子化が直撃します。
表のように、これからの日本は、85歳以上人口が1000万人時代を迎える一方で、総人口は大きく減っていきます。中でも支える側の生産年齢人口(15歳~65歳)は、2015年の7700万人から、2035年には6500万人へと1200万人が減少、2060年には2900万人減の4800万人となります。
その結果、最も介護需要の高い85歳以上人口と、それを支える生産年齢人口の比率を見ると、2015年は6.4%ですが、2025年には10%を超え、2035年には15%、2055年には20%を超えます。
現在でも全国で介護スタッフ不足が社会問題となっていますが、それは今の高齢者、これから後期高齢者になる団塊世代の問題ではありません。数字でみれば、現在50歳の人も、40歳台の人も、更には30歳台の人も、自分が85歳になったときに介護してくれる人は、どんどんいなくなっていくのです。
自治体別に見ると、更に厳しい状況が見えてきます。
上の表は、都道府県別に、85歳以上の人口を生産年齢人口(16歳~64歳)で割ったもので、一人の85歳以上の高齢者を、何人の生産年齢人口で支えるのかという指標です。
秋田では、2015年の段階で、一人の85歳の高齢者を9.3人の生産年齢人口で支えていますが、これが2035年には半分以下の4.2人、2040年には3.5人となっていきます。北海道や東北、四国、九州などの地方で数字が小さくなるのは、それだけ人口減少の割合が大きいからです。
一方の、東京や愛知など都市部は、地方と比較してまだ大丈夫なのかと言えば、そうではありません。今でも、一番介護スタッフの確保に苦労しているのは東京や神奈川といった大都市です。2030年にはその数字は半分以下に、2040年には1/3となっていくのです。
『高齢者介護はロボットや外国人が担う』 論のいい加減さ
「将来、私たちの介護をしてくれるのは外国人がロボットだろう」という声も聞かれますが、現実的には、それもそう容易なことではありません。
介護ロボットは日進月歩で進んでいますが、あくまでも転倒を知らせるセンサーやアシストスーツなど介護労働者の業務の補助が中心です。介護ロボットができるのであれば、すでに保育ロボットや子育てロボットができているはずです。鉄腕アトムやドラえもんのような人間型のロボットが介護してくれるのは、まだまだ遠い、遠い先の未来の話です。
特に、重度要介護高齢者の多くには認知症があり、日々の要介護状態も体調によって大きく変化します。事前に定められたスケジュール、プログラム通りに行えるものではありませんし、本人が臨機応変に指示を変更することもできません。本人が「大丈夫」と言っていても、大丈夫でないことがたくさんあります。ロボットがどれほど進化しても、高齢者介護の中核を担うのは人間です。
一方、EPA(経済連携協定)や入管法の改正など、外国人労働者の活用も検討、実施されていますが、これも短期的にも長期的にも難しい問題をはらんでいます。
「介護は文化」と言われるように、入浴方法、食事方法、排泄方法一つとっても、国によって違いがあり、日本人の日常生活を理解していなければ、適切な介助を行うことはできません。
加えて「チームケア」の中で、スタッフ間、職種間の連携連絡、また高齢者や家族とのコミュニケーション能力も求められます。身体機能の低下した要介護高齢者が対象ですから、一瞬の判断ミス、連絡不備が転倒、骨折などの重大事故に発展するリスクも高く、死亡事故になると、高額の損害賠償だけでなく、介護労働者個人が業務上過失致死など刑事罰に問われるケースもあります。
介護労働は機械的な単純労働ではなく、高い技術、知識、倫理観が求められる専門性の高い仕事です。 「技能実習という名目で、安い労働力で高齢者の介護してもらおう」といった底の浅い取り組みでは、高齢者だけでなく、外国人介護スタッフにも事故やトラブルのリスクを背負わせることになります。
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「外国人に日本の介護はできない」と言っているのではありません。
ただ、日本人でも、介護経験や介護資格のない新人介護スタッフを一人前にするには、一年程度の期間は必要です。特に、最初の3か月~半年程度は、ベテランスタッフが付き切りで指導するため、時間も手間もかかります。言葉や生活環境の違う外国人労働者を受け入れ、安全な介護できるように知識や技術を実習させ、介護のプロとして独り立ちさせるには、少なくとも2年程度は必要になるでしょう。
しかし、「外国人介護労働者受け入れ」と言っているのは、日本人の介護労働者も育てることのできない素人事業者が目に付きます。逆に、現在の外国人労働者実習制度は3年(一定の条件で5年)ですから、介護スタッフとして一人前になったときには帰国させなければならず、優良な事業者は「現行制度では継続的な受け入れが難しい」という判断をしています。これまで日本の介護労働者さえ育成できていない政府、自治体、事業者に、外国人介護労働者を育てられるはずがないのです。
また、現在は中国やベトナム、フィリピンなどからの受け入れが多くなっていますが、特に東南アジアは急速に経済成長を遂げていますから、いつまでも都合よく日本に安い労働力を提供してくれるわけではないでしょう。
介護ロボットが進化し、外国人労働者を受け入れても、20年、30年というスパンで考えた場合、介護人材の確保が今以上に難しくなることは間違いありません。
「将来は、外国人やロボットが介護することになるだろう・・」というのは、介護の現場を知らない人の空論で、逆に日本人をさらに介護の現場から遠ざけることになるのです。
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