今後、現在の8割以上を占める「囲い込み型」サ高住のビジネスモデルが直面する「事故・トラブルの激増」「介護保険制度の規制強化」「介護スタッフ不足・離職者激増」の三重苦。制度の方向性から見ても、経営面から見ても、商品性から見ても、介護労働環境から見ても、あまりにも脆弱な欠陥商品。
【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 020 【全 29回】
高齢者住宅は、単なる高齢者専用賃貸住宅ではなく、介護・食事・生活相談などの「生活支援サービス付き住宅」です。また営利目的の住宅事業でありながら、その収支の基礎を公的な介護保険制度に依存するという、他に類例のない特殊な事業です。有料老人ホーム、サ高住など制度は混乱しているため「難しい商品」だと考える人が多いのですが、ビジネスモデルはそれほど複雑なものではありません。
そのため、サ高住であれ、介護付有料老人ホームであれ、それぞれの事業者が作っているパンフレットを見れば、どのような収益モデルなのか、どこで利益を上げようとしているのかは、たちどころにわかります。同様に建物設備や介護システムを見れば、入居者は要介護状態になっても生活できるか、介護スタッフの労働環境は適正なものか、適法に運営されているものかも、容易に判断できます。
なぜ、超高齢社会なのに高齢者住宅が倒産するのか。
それは、高齢者住宅が増えすぎたから…、供給が需要を超えたから…ではありません。
現在、開設されているものは、大手・中小事業者を問わず、また介護付、住宅型有料老人ホーム、サ高住など類型を問わず、商品、ビジネスモデルがあまりにも脆弱だからです。
まずは、現在のサービス付き高齢者向け住宅が直面するリスクについて、整理します。
現在のサ高住の8割を占めるビジネスモデルの特徴
老人福祉施設と民間の高齢者住宅の商品性の最大の違いは、「商品設計の自由度」にあります。
老人福祉施設は、細かく定められた基準に基づいて設置・運営するのが基本です。特別養護老人ホームは、沖縄から北海道まで、ほぼ全国一律のサービス内容、価格設定で運営されています。
これに対して、民間の高齢者住宅は、一般のマンションやアパートと同じように自由設計が基本です。有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅にも、それぞれバリアフリーや居室内の広さ、共用設備などの建築設備基準が定められていますが、それらは、あくまで最低基準でしかありません。
これは介護システム設計も同じです。
特定施設入居者生活介護の指定基準は、要介護高齢者と介護看護スタッフの配置基準を、【3:1以上】と定めていますが、これは指定基準です。「3:1配置で介護しなさい」というものではなく、それぞれの介護付有料老人ホームで【2:1配置】【1.5:1配置】など独自の介護システムを構築し、上乗せ介護費用を設定することができます。区分支給限度額方式の通常の訪問介護は、「臨時のケア」「すき間のケア」「見守り・声掛け」などには対応できませんから、別途全額自己負担で、これらのケアを行う介護スタッフを確保しなければなりません。
民間の高齢者住宅は、最低基準・指定基準を土台として、それぞれの事業者の創意工夫によって、顧客のニーズに応えられる商品設計を行うというのが基本です。実際、有料老人ホームの場合、介護付、住宅型といっても、建物の広さや食事内容、介護スタッフの配置は様々であり、低価格のものから超高額のものまで、その商品は多様化しています。
しかし、一方のサービス付き高齢者向け住宅は、有料老人ホームと違い、事業者・経営者が違っても、そのほとんどは同じような建物設備・商品設計になっています。
サービス付き高齢者向け住宅の商品の特徴 ■ 居室は18㎡~25㎡の一人用個室(食堂・浴室は共同) ■ 居室フロア、食堂・浴室フロアの分離タイプ ■ 月額費用は15万円前後 (介護保険自己負担除く) ■ 介護サービスは区分支給限度額方式 (訪問介護などを併設) |
価格設定や介護システムだけでなく、建物設備設計もほとんど同じです。それぞれに定員数やフロア当たりの居室数に違いはありますが、上記のような1階に食堂・浴室フロアが設置され、2階~5階に居室が配置される「居室・食堂分離タイプ」が大半です。
介護サービスは、高齢者住宅は介護サービスを提供しない「区分支給限度額方式」ですが、テナントなどで訪問介護や通所介護を併設しています。
現在のサ高住のビジネスモデルが直面する3つのリスク
大手・中小・個人事業者を含め、現在、運営されているサ高住の8割、9割は、上記のタイプの商品に集約されるといって良いでしょう。
しかし、このタイプのサ高住は、高齢者住宅の商品・ビジネスモデルとしてみた場合、長期安定的な経営・サービスができない欠陥商品なのです。
① 事故・トラブルの激増
要介護重度化に対応できない素人事業者?で述べたように、上記のような商品設計のサ高住は、介護システムも建物設備設計も重度要介護高齢者の増加に対応できる高齢者住宅になっていません。
全国のサ高住で、骨折・死亡などの重大事故が多発している最大の理由は、そこにあります。
「サ高住は一般の賃貸住宅と同じなので、事故責任はない」と、制度を推進した国交省と事業者が一体となって言い訳アピールをしていますが、これは全くの間違いです。サ高住は福祉施設ではありませんが、一般の賃貸アパートでもありません。「高齢者専用の住宅」ですから、事故に対して一般の住宅とは比較にならないほど高い安全配慮義務が求められます。
それは事故だけでなく、感染症や食中毒、火災や自然災害への対策も同じです。
高齢者や家族に、「介護が必要になっても安心・快適」とセールスして入居者を集めているのですから、「事故やトラブルは知らない・関係ない」などという言い訳が通るはずがありません。
現在のサ高住は、自立~要介護2程度の軽度要介護高齢者が中心ですが、今後、加齢や疾病によって、要介護状態はどんどん重度化していきます。サ高住における事故やトラブルは増えていますが、今後、重度要介護高齢者、認知症高齢者の増加によって、更に激増することは間違いありません。
② 制度の規制強化
二つ目は、制度の規制強化です。
述べたように、現在のサ高住の多くは、「15万円前後」「訪問介護併設で区分支給限度額方式」を取っています。実は、この二つはリンクしていて、「家賃・食費などを低価格に抑え、併設の介護サービス利用促進によって利益を上げる」というのが、サ高住の「囲い込み」と呼ばれるビジネスモデルです。区分支給限度額方式の訪問介護の場合、個別契約・個別介助ですから、10人の要介護高齢者へ介護サービスを提供するには、10名のホームヘルパーが必要ですが、実際はそうなっていません。
この囲い込みを行っている高齢者住宅が、不正だとの批判に対して反論の根拠にしているのが、「複数の高齢者に対する訪問介護費」という特例です。
これは例えば、自宅で暮らすどちらも要介護状態の高齢夫婦に対し、訪問介護で調理・食事介助を行うケースです。区分支給限度額方式では「おばあさんに対する訪問介助」と「おじいさんに対する訪問介護」のチケットや時間は分かれていますから、本来別々に時間を分けて介護しなければなりません。しかし、実際には調理や配膳、片付けなどは明確に分離できるわけではありませんから、一人のホームヘルパーが、二人分のご飯を作り、見守りや声かけなど、双方の食事介助を一体的に行います。
これについては、厚生労働省も認めています。
それは、そのように柔軟に介護する方が、利用者にメリットがあるからです。
区分支給限度額方式をとる高齢者住宅の一部は、これを「一人のホームヘルパーが臨機応変に動いても、訪問介護費は別々に算定してもいいはずだ」と拡大解釈し、悪用しているのです。言い換えれば、本来の「複数の高齢者に対する訪問介護費」の趣旨から全く逸脱し、「できるだけ少ないホームヘルパーで複数介助を行い、できるだけ高い報酬を算定する」という理解が前提になってしまっているのです。
このようなケアマネジメントを無視した悪質な「囲い込み」は、財政悪化の大きな要因であることから批判は強まっており、2018年度の介護報酬改定でも減算になっています。ただ、問題の本質は、「同一法人、関連法人だからダメ」なのではなく、介護保険制度の根幹である「ケアマネジメント」に基づかない押し売り介護サービスは、要介護高齢者の個々人の生活を破綻させ、生命を危険にさらす行為だということです。
「【複数高齢者の訪問介護】は、高齢者住宅には適用するな・・」という単純な話ではありません。
「複数高齢者に対する訪問介護」は、入居者の生活向上、ケアマネジメントの視点からの科学的・臨床的な根拠が必要なのです。「報酬算定の範囲だから」「基準内だから」、事業者の都合でどんな算定しても良いという話ではありません。ケアマネジメントではなく、事業者都合で介護サービスを提供するのは間違いなく不正です。
今後、事故やトラブルの増加によって、介護報酬算定だけでなく、指導や監査は厳しくなります。明確な根拠に基づかない「複数高齢者に対する訪問介護」は、規制が更に強化されることになるでしょう。その結果、多くのサ高住は、実質的に経営できなります。
③ 介護スタッフ不足・離職者激増
この「囲い込み不正」は、入居者の生活環境だけでなく、介護スタッフの労働環境の問題でもあります。
「入居者の生活向上ではなく介護計画(ケアプラン)ではなく、事業者利益を目的にしたケアプラン」「時間通りに、法律通りに介護していない」ということは、当のケアマネジャーやホームヘルパーが一番わかっています。ケアマネジャーとして働き始めたものの、「こんなことをしていて、大丈夫なのでしょうか・・」 「不正が発覚すれば、私たちも罪になるのでしょうか・・」 「途中で事故が起これば、どうなるのでしょうか・・」といった、悲愴な叫び声のような相談も寄せられます。
「コンプライアンスの意識の低い事業者」?で述べたように、囲い込みビジネスモデルの陰には、「介護認定調査の不正」「ケアプランの不正」「介護報酬算定の不正」が隠されています。ただ、事業者・経営者の指示だったとしても、ケアマネジャーやホームヘルパーは、公的な資格を持った専門職種です。不正が発覚すれば、「知らなかった・・」ではすみません。②で述べたように、不正請求対する指導や監査は確実に厳しくなりますから、今後、有印公文書偽造や詐欺罪で逮捕されたり、莫大な介護報酬返還を事業者と連帯して求められるケアマネジャー、ホームヘルパーもでてくるでしょう。
更に、これは①で述べた、事故の増加とも関係しています。
報酬算定上の介護と、実際に提供した介護サービスの内容・時間に違いがあり、その歪みで死亡事故が発生した場合、そのホームヘルパーは確実に業務上過失致死に問われますし、それを黙認していた場合、ケアマネジャーも同罪です。
ブラック企業と言えば、「パワハラ・セクハラ」を含め、労働条件の劣悪さが課題となりますが、「囲い込みはグレーゾーンだ・・」と、介護スタッフに法律に触れる不正を強いるなど、ブラックというよりも暗黒企業だといって良いでしょう。誰もそんなところで働きたいと思わないでしょう。
以上、3つのリスクを上げました。
現在、サ高住の囲い込みについて、様々な指摘が行われていますが、実際にはまだ、「どこでもやっている」「不正ではなくグレーゾーンだ」と、不適切や不正を半ば認めている、確信犯的に行っている事業者が大半です。もともとそういう事業者、商品設計なのです。
しかし、制度矛盾を突いた不正なグレーゾーンがこの先もずっと許されるほど介護保険財政は潤沢ではありません。この現在のサ高住のビジネスモデルは、介護保険制度の方向性から見ても、経営面から見ても、商品性から見ても、介護労働環境から見ても、まったく維持できない、社会のお荷物となる欠陥商品なのです。
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