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高齢者が要介護になるルートは四つ


 歳をとれば、だれでも身体の機能が低下し、認知症になる確率も上がります。
 介護準備の基本は、「わたしは要介護にならない」「認知症にならない」と、その事実から目を背けることではなく、「歳をとれば、誰しも要介護になる、認知症になる」と正しく理解することです。
 「とはいっても、いつ、何が原因で、どのような要介護状態になるかはわからないじゃないか…」
 「その時の状況によって、何をすればよいか変わってくるじゃないか」

 そう反論する人がいますが、全く手掛かりがないわけではありません。

 要介護になるのは、四つのルートがあります。
 すべての人が、必ず、そのどれかに当てはまります。
 まずは、そこから整理をしましょう。 

ルート1 緩やかな身体機能の低下 ~身体機能ゆっくり低下型~

 一つは、加齢によって緩やかに身体機能が低下し、要介護になるルートです。

   ◇ 買い物やゴミ出しなど、一人で行うことが難しくなってきた
   ◇ 家の中で、躓いたり、転倒することが増えてきた
   ◇ 外出が減って、日中でも寝たり、起きたりの生活に

 加齢によって、身体機能が低下することはだれにも止められません。
 75歳を超えると、立ち上がる時にふらついたり、段差がないところでも躓いたりすることが増えます。85歳を超えると、トイレが間に合わず排泄の失敗が増えたり、手すりがないと立ち上がれないなど、要支援・要介護になる確率が一気に上がります。
 これは、誰も避けられないことです。


 その場合でも、「子供に迷惑かけたくないから」「まだ要介護にはならない」と無理をして頑張る人が多いのですが、これは適切な対応ではありません。
 それは、高齢夫婦世帯でも同じです。「夫が一人でお風呂に入れない」「トイレまで介助が必要」という場合でも、誰にも相談せず、妻が一人で頑張ってしまうというケースは少なくありません。
 しかし、加齢によって夫婦ともにできないことが増えていきますし、妻が風邪で寝込んだり、入浴介助中に転倒・骨折して動けなくなると、そのまま生活が破綻してしまいます。
 「わたしは、そろそろ、要支援・要介護のドアを開けたんだな」「これからは介護サービスに頼っていいんだな」と冷静に捉え、その状態に応じた生活環境を整えていけば良いのです。

ルート2 病気やケガによる入院  ~身体機能 急激変化型~

二つ目は、脳梗塞や心筋梗塞や、転倒・大腿骨骨折などで入院し要介護になるルートです。

   ◇ 自宅内で階段から転落し、大腿部を骨折し、一ヶ月の入院になった
   ◇ 脳梗塞によって、手術は成功したものの右半身に麻痺が残った
   ◇ 肺炎で救急車で病院に運ばれ、廃用性症候群で車いす生活になった

 75歳を超えると小さな段差でも躓き、バランスを崩して転倒、骨折します。「浴室に手すりを付ける」「玄関に腰掛けをつくる」「高血圧や糖尿病の服薬を忘れないようにする」など、転倒骨折や病気の急変を避ける工夫はありますが、感染症をふくめその発生を完全に防ぐことはできません。
 病状そのものが重篤でなくても、入院で二週間以上の安静が続くと筋肉が萎縮したり、関節が固くなったりするため、病気やケガが治っても、そのまま車いす生活になる可能性も高くなります。


 この場合、慌てたり、落ち込んだりすると思いますが、その必要はありません。
 病院から退院を求められても、リハビリ専門病院があります。リハビリを頑張ることで、介護サービスを利用しながら、これまでと同じように自宅に戻って生活できます。また、麻痺が重く、寝たきりになって自宅で生活することが困難な場合でも、半年程度は老人保健施設に入所することができるため、そこで、特養ホームへの申し込みをしたり、介護機能の整った高齢者住宅を探したり、これからの生活についてじっくり考えることもできます。
 要介護になっても、そこから生活は五年、十年と続きます。頼れる子供家族がいない、金銭的に余裕がないなど、ひとりひとり条件、環境は違いますが、ケアマネジャーや地域包括支援センターのプロの相談員と一緒に落ち着いて考えれば、必ず、最適な方法が見つかります。

ルート3  緩やかな認知機能の低下、認知症の発症  ~認知症ゆっくり発症型~

 高齢期になると、身体機能の低下と同じように脳の機能も少しずつ低下していきます。

   ◇ 普通の物忘れではないと感じるような言動がある
   ◇ 時間や曜日の感覚が鈍くなっている
   ◇ 習慣的に行っていた料理の手順がわからなくなる

 認知症の危険因子である高血圧や糖尿病を適切に管理することや、定期的な運動、趣味やボランティアなどの社会参加、よく笑い良質な睡眠をとることなど、効果的な認知症予防対策が知られるようになりましたが、「これをやっていれば認知症にならない」という方法はありません。
 認知症の発生確率は年齢を重ねるごとに上がっていきます。
 つまり、長生きと認知症はセットなのです。

 
 ただ、進行を緩やかにしたり、症状を改善させる薬は開発されています。認知機能の低下を初期の段階で早期発見、早期対応できれば、それまでとほとんど同じ生活をすることは、十分に可能です。
 「早く見つかってよかった…」というだけで、慌てる必要もショックを受ける必要もありません。

ルート4 発見時には認知症が進行していた  ~ 認知症すでにに進行型 ~

 そして四つ目は、気付いたときには、認知症が相当進んでいたという場合です。

   ◇ 夜間徘徊で保護したと警察から家族に電話がかかってきた
   ◇ 家に帰ると、ごみ屋敷で冷蔵庫の中は腐ったもので一杯
   ◇ 近くのコンビニで万引きをして、暴れて逮捕されたと連絡があった

 高齢者のブレーキの踏み間違えによる悲惨な交通事故のニュースが毎日のように報道されていますが、その中には認知症によるものが少なくないとされています。
 また、「スーパーやコンビニで万引きをして、それを咎められて逆上して暴行して逮捕」という事件が高齢者に多いのは、認知症の進行によって、支払いをしなかったことを忘れ、冷静な判断や感情のコントメールができなくなるからです。社会問題となっている「ごみ屋敷」も同じです。


 認知症の対策が難しいのは、周囲からみれば、認知症によって明らかに生活が崩壊している場合でも、当人はそれを認めないし、改善しようともしないからです。
 ひとりで生活することはできませんから、すぐに家族が24時間付き添う必要があります。同時にすぐに入居できる老人ホームや高齢者住宅を探さなければなりませんが、本人は理解できずに抵抗するので、そう容易ではありません。スタッフへの暴力、暴言などの周辺症状がある高齢者を受け入れてくれる老人ホームや高齢者住宅は少なく、興奮・混乱している本人だけでなく、対応する家族も感情的にも精神的にも、大変な思いをします。

 この「生活が崩壊するまで認知症が進んでいた」というルートは、これまでの「緩やかな身体機能低下」「病気やケガによる入院」「緩やかな認知機能の低下」とは違い、じっくり検討することも、望む介護生活環境を整備することもできません。最悪の場合、強い向精神薬を投与して、鍵のついた精神病院の病棟に入院しなければならないケースもあります。だから、何とか避けたいのです。

 ただ逆に、他の三つのルートとは違い、この【ケース4 発見時には認知症が進行していた】と言うルートだけは、家族や友人とコミュニケーションをとる、認知症の定期健診をうけるなど、初期の段階で認知症を発見することで、避けることは十分に可能なのです。
 つまり、高齢者介護は、【ルート1】【ルート2】【ルート3】は、避けられないけれど、その対応方法を知っていれば、慌てる必要はないということ。【ルート4】だけは大慌てになるけれど、普段から気を付けていれば、十分に避けることができるということなのです。
 だから、介護準備が大切なのです。


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