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 「居室・食堂フロア分離型」の介護付有料老人ホーム ~指定基準配置~

低価格の介護付有料老人ホームは、「基準配置【3:1配置】」「居室・食堂フロア分離タイプ」「平均要介護3」という事業計画・商品設計になっているものが多いが、事業シミュレーションを行うと、正常な生活することも介護することも不可能なビジネスモデルであることがわかる

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

「居室・食堂フロア分離型」で、どこまで介護できるのか・・・。
この命題には、介護システムが大きく関わってきます。
ひとつは介護付有料老人ホームの包括日額算定の介護システムで、どこまで対応できるのかです。
食事の時間帯、特に早朝の食事の時間帯には、起床介助、排泄介助、食堂までの移動、食事介助などの複数の介助が集中します。ただ、移動介助や食事介助の時間帯に、たくさんの介護スタッフがいれば対応は可能ですから、言いかえれば「介護付有料老人ホームで「居室・食堂フロア分離型」の場合、どのくらいの介護スタッフが必要になるのか」という命題に置き換えることができます。
もちろんそれは、朝四時前に起床させ、八時の食事時間まで食堂でそのまま放置するといった、非人間的な介護ではなく、6時半頃から起こし始め、七時半前後に食堂に移動させ、八時から食事をとるという通常の生活リズムに基づく食事・介助が行えることが前提です。

以下の表は、60名定員の介護付有料老人ホームの、指定基準配置【3:1配置】と手厚い介護配置【2:1配置】で、実際にどの程度の介護看護スタッフが勤務しているのかを一覧にしたものです。

指定基準配置【3:1配置】で、夜勤介護スタッフ2名とすると、日勤看護スタッフは2.1名、日勤介護スタッフは7.6名、手厚い介護配置【2:1配置】で、夜勤介護スタッフ3名とすると、日勤介護スタッフは12.5名体制となります。
この人数で、どこまで介護ができるのかシミュレーションしてみましょう。

指定基準配置【3:1配置】の食事介助の人員配置をシミュレーションする

まずは、指定基準配置【3:1配置】の食事介助の人員配置を考えてみます。
夜勤帯の介護スタッフ配置は2名、日勤介護スタッフは7.6名です。日勤介護スタッフを食事時間に合わせて、早出介護(7時~16時)、日勤介護(9時~18時)、遅出介護(12時~21時)に分けて、それぞれ2名、3.6名、2名を配置します。これで朝の起床介助~食事に必要な介護人員は、4名確保できました。

この場合、2~4階の居室フロア、一階の食堂フロアに1人ずつ介護スタッフを配置することになります。
居室フロアの介護スタッフは、起床介助・移動介助を行い、食堂フロアの介護スタッフは、食堂の準備や食堂に降りてきた高齢者の手洗い、消毒やテーブルへの誘導を行います。
夜勤スタッフが6時半頃から起床介助、早出スタッフが7時から起床介助をして、七時半頃からは一緒に食堂に降りて食事の介助をすると想定すると、起床介助、移動介助が必要な高齢者は各フロア2~3名程度で、それ以外の人は介助が必要ないということであれば、何とか可能かもしれません。
ただ、このシミュレーションには3つの問題(瑕疵)があります。

ひとつは、対象者・対象範囲が限定されるということ。
この【3:1配置】というのは、すべての入居者が要介護状態(要介護1以上)と言うのが前提だということです。自立だと介護報酬は受けられませんし、要支援でも相当低くなりますから、ほとんどの入居者が要介護1以上で「移動介助、起床介助、食事介助までは必要ない・・・」という極めて限られた要介護状態の高齢者限定ということになります。

二つ目は、もし仮にそのシミュレーションの状態になっても、それは維持できないということ。
高齢者は加齢や疾病によって、要介護状態が重くなっていくのが特徴です。入居当初は、独歩・杖歩行の人が多くても、一年経てば数人の人は車いすになり、三年経てば3割、5年経過すれば半数近くの人が車椅子・要介護状態になっていきます。各フロアの20名の高齢者のうち、5人以上が起床介助、移動介助が必要になれば、一度のエレベーターで降ろすことはできなくなりますし、早出スタッフが7時から起床介助をするのでは、8時ぎりぎりまで起床介助だけに掛かり切りになります。必ずどこかで介護システムがパンクするということです。

そしてもう一つは、この軽度要介護対象の介護付有料老人ホームは大赤字になるということです。
特定施設入居者生活介護の指定基準は、要介護高齢者(要介護1以上)三名に対して、介護看護スタッフが一名以上の【3:1配置】となっていますが、受けられる介護報酬は、要介護度によって変わります。要介護1では月額約16万円、要介護2では約18万円、要介護3では約20万円程度と、要介護度が一つ重くなるにつれて凡そ2万円ずつ介護報酬が上がる仕組みになっています。
そのため60名定員で、全入居者が要介護1の場合、月額介護報酬は960万円ですが、要介護3の場合は、1200万円と240万円以上の差がでます。介護看護スタッフ以外にも、生活相談員やケアマネジャー、管理者などの配置が必要になりますから、全入居者が要介護1という場合、受け取る介護報酬よりも、人件費総額が上回るのです。

低価格の介護付有料老人ホームを見ると、「基準配置の【3:1配置】」「居室・食堂フロア分離タイプ」「平均要介護3」という収支シミュレーションが組まれたものが多くみられますが、それは絵に描いた餅なのです。
実際には、この指定基準の【3:1配置】では、要介護3以上の重度要介護高齢者が増えてきた場合、ユニット型特養ホームのような「居室・食堂フロア一体型」でも必要最低限の介護ができないことがわかっています。ましてや、移動介助ばかりに時間のかかる非効率な「居室・食堂フロア分離型」では、介護することは不可能なのです。その結果、三時半に高齢者の起床介助を始める・・・という劣悪な生活環境、労働環境にならざるを得ないのです。



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