要介護高齢者専用住宅のプランニングは「建物設備」と「介護システム」の一体検討・提供が不可欠。「要介護高齢者はどのような建物設備が生活しやすいか」と「どのような建物設備が介助しやすいか」という効率・効果の追求が「強いビジネスモデル」をつくる
高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 012
要介護高齢者専用住宅の、商品設計における基本を3つ挙げておきます。
重度要介護高齢者専用住宅 プランニング・商品設計の基礎 ◆ 食事・介護看護・生活相談・ケアマネジメントの生活支援サービスを一体的に提供 ◆ 介護類型は、臨機応変に対応できる包括算定の特定施設入居者生活介護 ◆ 重度要介護高齢者の生活動線、効率的な介護動線を考えた建物設備 |
まず重要なのは、すべてのサービスを一体的に高齢者住宅の責任で提供するということです。
コンサルタントや識者と呼ばれる人の中には、「高齢者住宅は、施設ではないので住宅と生活支援サービス契約の分離が原則」「それぞれ個別契約が原則」と言う人がいますが、これは全くの間違いです。
「施設じゃないから介護サービス分離が原則」は素人発想?の中で述べたように、サービスごとに契約が分離すれば、サービス連携が難しくなりますから、入居者からみれば使いにくく、事業者としてもサービス管理が難しくなり、不安定な商品となります。
「住宅だから特定施設(介護付)ではなく、区分支給限度額方式(住宅型)が基本」というのも間違いです。なぜなら、介護サービスは、食事・生活相談・ケアマネジメントなどの各種サービスと一体的に提供されること、そして、「介護が必要になっても安心・快適」を標榜するのであれば高齢者住宅事業者の責任で提供されるべきものだからです。
そもそも、事前のケアプランに基づく、区分支給限度額方式のポイント介助では介護サービス量を増やすだけでは重度要介護へのへの対応はできません。「臨時のケア」「すき間のケア」への対応、「見守り」「声掛け」などの間接介助への対応、更には、同じ介護スタッフによる「生活の連続性」「ケアの連続性」の視点が欠けているからです。「介護が必要になっても安心・快適」とセールスしながら、実際は「介護看護サービスは無関係」「自己選択の自己責任」では、誇大広告、虚偽広告だと言われても仕方ありません。
事故やトラブルの増加によって、高齢者や家族の「高齢者住宅を見る目」は厳しくなっていきます。いまはまだ高齢者・家族は高齢者住宅選びに慣れていませんが、早晩、このようなサービス提供体制がバラバラ、サービス提供責任の所在が不明瞭の高齢者住宅には、入居者は集まらなくなるでしょう。
商品・サービスの個別検討は欠陥商品を生み出す
これは、「住宅サービスと介護サービスの一体的なサービス契約が必要」ということだけではなく、計画の段階から「建物設備と介護システムは、一体的にプランニングしなければならないということです。
それは一般のマンションの建物設備の考え方と、高齢者住宅の建物設備とは全く違うものであり、また介護システム設計にも大きく影響してくるからです。
学生寮・社員寮と、高齢者住宅を比較して考えてみましょう。
学生寮・社員寮では、上の図のように食堂や浴室と居室階は基本的に分離しています。
それは、個々人が生活するプライベートスペースと共用部であるパブリックスペースは離れていた方が良いこと、また、建築効率の視点からみても、このタイプが最も多くの居室を配置することができ、かつ建築費を抑えることができるからです。
現在開設されているサ高住のほとんどは、このタイプだといって良いでしょう。
しかし、この建物設計は、要介護高齢者の住宅には明らかに不適格です。
食事介助の場面を想定してみましょう。
社員寮や学生寮と同じように、ほとんどの高齢者が自立・要支援程度で一人で歩いて、食堂まで移動することができるのであれば、エレベーターの容量は一台で十分です。しかし、車いす利用の高齢者、歩行器や手押し車などを使う高齢者が増えれば、一度に移送できる人数は大きく減少します。12人乗りのエレベーターでも、車いすは2台しか移送できませんし、福祉専用の大型のものでも4人が限界です。車いすの移動や回転が一人でできない場合は、介助をするスタッフも同乗しなければなりません。
特に、大変なのが、早朝の介助です。
朝は、起床介助、洗面・歯磨きなどの介助などが集中します。
ただ、この60人の高齢者住宅(介護付)の場合、夜勤は3人程度ですし、7時頃から勤務する早朝勤務のスタッフを入れても、5人~6人といったところでしょうか。その人数で、一時間半程度の間に、入居者を起こし、着替え、洗面・歯磨き、排泄、車いすへの移動や食堂への移乗、更に、食堂で食事の準備などを行わなければなりません。
生活全般に介助が必要な中度・重度高齢者が増えてくると、その人数で集中する介助を行うことは不可能です。今、この「居室・食堂分離タイプ」の高齢者住宅で、何が起きているかと言えば、起床時間の前倒しです。最も早い人は、毎朝3時半に起こされ、食堂に降ろされると言います。食堂で朝4時ころから、車いすのまま、ずっと3時間以上待たされているのです。また、食事が終わっても部屋に戻すのは9時、10時となり、またすぐに昼食の時間となるため、そのまま食堂に残される人もいると言います。
このような建物は「特定施設か、区分支給限度額方式か」という以前に、要介護高齢者の生活環境としては不適格であり、同時に介護スタッフの労働環境としても不適格なのです。その結果、同じ人数、同じ要介護状態の高齢者、同じ内容・同じ量の介護サービスを提供するにも、介護スタッフは走り回ることになり、事故やトラブルが多発することになるのです。
現在、軽度要介護状態の高齢者が多いサ高住でも、今後加齢によって、車いすを利用する要介護高齢者、重度要介護高齢者の割合が増えてきます。
今ある、サ高住のほとんど、高齢者住宅全体でもおよそ半数は、重度要介護高齢者の増加に対応できずに、実質的に機能停止、サービス不可となるでしょう。
建物設備と介護システムの一体的検討が基本
これが、一部の人たちが「高齢者住宅は施設ではない」ということを独自に解釈し、「高齢者住宅は、通常の住宅だからサービス契約の分離が原則」「住宅サービス(建物設備)と介護看護サービスは別々に検討する」ということが、正しいと主張してきた結果です。
「サービス分離だ、区分支給限度額方式だ」と言っている人は、「要介護高齢者の住宅・生活にはどのような建物設備、介護システム、契約形態が適しているのか」ではなく、単純に、「介護付有料老人ホームは特養ホームに似ているからダメ、施設的だからダメ」、と言っているにすぎません。
食事介助を例に挙げましたが、これは入浴介助や夜勤介助でも同じことが言えます。
要介護高齢者にとって「介護と生活」は一体的なものです。
高齢者住宅のプランニングは、「どのような建物設備が要介護高齢者は生活しやすいのか」「どのような建物設備が介助しやすいのか」を一体的に検討しなければ、商品として成立,機能しないのです。
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