テレビや新聞で、盛んに取り上げられた「老後資金2000万円問題」ですが、高齢期の最大の支出項目である介護費用が算定されていないこと、また、これから高齢者医療介護制度は変わり、保険料や自己負担は大きく上がることが予測されるため、現行制度で老後資金を算定することはできません。
それでもセミナーなどでは「高齢期の生活にいくらあれば安心か…」と聞きたがる人がいますが、その人には、「一人三億円くらいあれば、安心だと思いますよ」と答えることにしています。皆さん苦笑いされますが、述べたきたように、独居、夫婦世帯、年金額、持ち家か否かを含め、一人ひとりの条件が違うことや、「何歳で要介護になるのか」「どのような介護生活を望むのか」によってまったく変わってくるので、一般論として答えることに意味がないからです。
例えば、平均年金額で、「65歳の時点で、夫婦で預貯金4000万円、夫婦で手取り年金が月額20万円だが大丈夫か」と聞かれても、75歳で要介護になり、10年、15年と夫婦で介護付有料老人ホームに入所すればお金は足りなくなります。
一方、「65歳の時点で、夫婦で1500万円」であったとしても、それが減らないような生活をして、要介護になるのが85歳、90歳であれば、その後の生活や介護資金を、ある程度の余裕をもって賄うことができるでしょう。
そもそも、日本では、高齢者向けの社会保障制度は手厚くできていますから、預貯金ゼロの人は、必要最低限の医療や介護も受けられないということではありません。
老後には、ある程度の余裕資金が必要だというのは、それだけ選択肢が広がるからです。
例えば、生活保護や預貯金がない人が施設介護を選ぶには、四人部屋の特養ホームに限定されます。待機者が多いため、すぐに入居できるわけではありませんが、その間は自宅で訪問介護や訪問看護を受けることができますし、自己負担の減額制度もあります。
余裕資金がある人は、全室個室のユニット型特養ホームを選べますし、よりたくさんお金がある人は、手厚い介護看護体制の整った介護付有料老人ホームに入ることもできます。さらに余裕資産のある人は、介護保険で提供されるサービス以上の介護・看護サービスを自費で購入し、24時間365日、専属の介護福祉士、看護師を雇って悠々と自宅で暮らすことも可能です。
逆に、注意が必要なのは、たくさんお金があっても、選択肢を間違えれば、安定した老後、介護生活を送ることはできないということです。
元気な時に、自宅を売却して、入居一時金数千万円~数億円という高級老人ホームに入居する人がいますが、人間関係のトラブルで退居することになれば、戻ってくるお金は微々たるものですし、事業者が倒産すれば、無理やり追い出され返還金もありません。その時に「こんなはずではなかった…」と後悔しても、戻る家もありません。いまでも、そんな人はたくさんおられます。
最近は、「要介護になる前に安心したい」「介護問題で家族に迷惑をかけたくないから」と、元気なときから「介護が必要になっても安心・快適」とセールスしているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入るという人が増えていますが、これも、確実に失敗します。詳しくは後述しますが、高齢者住宅と言っても、自立向け住宅と要介護向け住宅は違う商品であり、サ高住では重度要介護や認知症には対応できないからです。
「入居費用15万円」「介護が必要になっても安心快適」と書いてあっても、それは居住費と食費だけで、毎月の生活費は一人20万円はかかりますし、介護が必要になれば、介護保険の一割負担、その他介護費が徴収され、月額25万円~30万円になります。
サ高住や住宅型有料老人ホームは要介護専用ではないので、事業者側から「認知症で対応できないから出て行ってくれ」と言われることもありますし、「お金が足りなったで、四人部屋の老健施設や特養ホームを探している」と言う人もいます。
老後の生活、特に、要介護になった時の生活に潤いや選択肢が増えるように、日々の生活費以外に、ある程度の余裕資金を準備しておくことは大切です。しかし、それ以上に重要なのは、要介護にならないように、できるだけ長く自立した生活をすること、そして要介護になった時に選択を間違えないことです。そのために必要なのが、「介護準備」なのです。
後後期高齢者になれば、誰でも等しく「要介護・認知症」になります。
そこから目を逸らさず、必要な準備、対策をしておくことで、要介護になる時期を遅らせ、要介護や認知症になった時の対応やその後の生活を正しくイメージすることができます。
逆に、「介護準備」ができていなければ、2000万円程度の老後資金では全く足りませんし、5000万円、6000万円あっても、選択を間違えると、あっという間になくなってしまいます。
1000万円、2000万円の預貯金よりも、「介護準備」をして介護予防や要介護に失敗しない方法を知っておくことが、これからの後後期高齢社会、介護社会を生き抜く糧になるのです。


























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