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「要介護になれば親と同居」を勧めないわけ

 介護休業の目的は、「親の介護環境・生活環境を集中して整えることで、家族や子供はできる限り従前と同じ生活を行えるようにすること」です。親が要介護になった時、その土台としてまず考えなければならないのが「どこで生活をするのか…」です。これは親の生活環境や要介護状態、金銭的な余裕、子供家族の生活環境や仕事、親との関係などによって変わります。
 その選択肢は、大きく四つに分かれます。ここでは、親が一人暮らしをしているというケースを例に、それぞれの利点・課題から整理していきましょう。

【そのまま自宅で独り暮らしを継続する】
 一つは、介護サービスなどを利用して、親の住み馴れた自宅でそのまま一人暮らしを続けてもらう。その利点は、誰に気兼ねすることなく、住み慣れた家で、自分の生活のリズムで生活ができるということです。それは親本人だけでなく、家族も同じです。一方、課題としては、一人の時に転倒したり、病気になったりという不安が大きいということです。また寝たきりなどの重度要介護や重い認知症になれば、ひとりで暮らすことは難しくなります。

【親の家で同居する(子供が親宅に転居)】
 二つ目は、親の住んでいる家(実家)に子供が転居し、要介護の親と子供が一緒に生活を始めるというもの。同居しているので、訪問介護や通所介護などを受けていない時間帯でも、家族が介護をすることが可能です。しかし、子供の生活スタイルが大きく変化するので、親子ともに大きなストレスがかかります。また、重度要介護や認知症になると、24時間365日の介護が必要となるため、家族に重い負担となります。

【子供の家で同居する(親が子供宅に転居)】
 三つ目は、子供の住んでいる家に親が転居してきて、要介護の親と子供が一緒に生活を始めるというもの。これは二つ目のケースとよく似ています。同居しているので、訪問介護や通所介護などを受けていない時間帯でも、家族が介護をすることが可能です。しかし、友達や知人もおらず、子供家族ともすれ違いで、ずっと自分の部屋の中にいて、テレビを見ているだけ…という生活になり、認知症が発症するリスクは高くなります。また、慣れていない生活環境なので、転倒・骨折などの事故も多くなります。そうなれば、同居家族のストレスや負担も一気に重くなります。

【高齢者施設・高齢者住宅へ入居する】
 最後の一つは、高齢者施設や高齢者住宅に入居するというものです。
 専門スタッフが常駐しており、急変や事故の早期発見が可能です。家族にとっても安心ですし、これまで通りの生活を続けることができます。ただ、起床や食事などの時間はある程度決まっているので、自分の生活リズムに合わせた自由な生活は難しくなります。また転居によって生活環境が大きく変化し、慣れない生活にストレスもかかります。

 以上の四点を踏まえて、簡単にその利点と課題を整理しておきましょう。
 まず、住み慣れた自宅で、介護サービスを利用しながら、一人暮らしを続けるのは、身の周りのことができる要支援・軽度要介護の時は自由で良いけれど、認知症になったり、要介護状態が重くなれば、一人暮らしを続けることは容易ではありません。

 一方、家族が同居するのは、親の家でも子供の家でも、互いに相当のストレスがかります。「親の家だから親の生活環境は変わらない」「子供家族の家だから子供の生活環境は変わらない」というわけではなく、転居する側だけでなく、受け入れる側の生活環境や生活リズムも大きく変わらざるを得ないからだてす。
 それは、重度要介護や認知症になった時だけでなく、要支援・軽度の時も同じです。
 「お婆ちゃんが、夜中にごそごそトイレに行くので、そのたびに目が覚める」
 「お爺ちゃんが、勝手に部屋に入ってくるので困る」
 「夜中にゴホゴホと咳をする音が気になって、勉強できない」
 「同居した結果、夫婦での喧嘩が多くなった」
 親子だからといっても、自分が子供の時とは違いますし、何十年も離れて暮らしていると、生活リズムや考え方、掃除のしかたや食事内容もすべて変わってきます。また、子供一人ではなく、子供夫婦や孫世代も合わせて同居となると、夜中のトイレの音、食べこぼしなど、一つ一つの言動にイライラが募ります。お正月やお盆など、短期間であれば、お互いに我慢したり、仲良くできますが、同居となると話は別です。子供が鬱になったり、暴言を吐いたりと介護虐待につながったり、「介護別居」「介護離婚」につながるケースは少なくありません。


 では、高齢者住宅への転居はどうでしょう。
 これは、子供家族の生活環境は変わりませんが、親の生活環境は変わります。述べたように、高齢者住宅に入居すると、起床時間や食事の時間などの生活リズムは制限されますし、他の入居者との共同生活になるため、「悪口を言われた」「あの人が嫌い」といった、人間関係のストレスもかかります。また、要支援・軽度要介護に入居しても、重度要介護や認知症になったときは、介護機能の整った高齢者住宅、高齢者施設へ再度、転居しなければならないこともあります。高齢期、特に介護が必要になってから、何度も生活環境や生活リズムが変わることは、大きなストレスがかかるため望ましいことではありません。

 もちろんこれは、「介護が必要になってからの同居は絶対ダメ」と言っているのではありません。人によって、家族によって、それぞれに事情は違うからです。「実家の家業を継ぐつもりでいた」「親が要介護になれば、一緒に住むつもりで部屋も用意してある(住宅資金も出してもらった)」など、それぞれの家族で、それぞれに事情はあるでしょう。私の知人にも、「看護師で独身なので、田舎でも働けるし、実家に帰って一緒に暮らす方がお金も助かる」と同居した人もいますし、それで楽しくやっています。

 ただ、親宅で同居、子供宅で同居、高齢者住宅へ入居など、転居を伴う生活環境の変化を選択すると、その後、家族間のストレスや高齢者住宅でのトラブルが起きても、元の生活に戻せないということです。
 「無理に親と同居を始めたけれど、それが原因で夫婦の喧嘩が絶えない」
 「本人が元の田舎の家に戻りたいと言っているが、今さら一人暮らしは無理」
 「高齢者住宅が気に入らないから退居したいと言っているが、自宅は売却した」
 トラブルで、他の方法を考えようと思っても、代替の方法が見つからないのです。

 
繰り返し述べているように、「親の介護環境・生活環境を集中して整えることで、家族や子供はできる限り従前と同じ生活を行えるようにすること」です。それは親にとっても家族にとっても同じです。
 そう考えると、介護が必要になっても、まずはできる限り長く、住み慣れた自宅で一人で生活できる方法を考えること。そして、訪問介護や通所介護などを利用しても生活できないほど要介護状態が重くなって、自宅で暮らすことが困難になってから、介護機能の整った高齢者住宅に転居するというのが基本なのです。

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