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業務シミュレーションからわかること ~建物と介護~


高齢者住宅の基本は「要介護対応の充実」。それは介護スタッフの数・手厚さでなく、建物設備によって成否が決まると言っても過言ではない。言い換えれば、それは建物設備を見ただけで、強い商品性なのか、脆弱な商品なのかがわかるということ。要介護高齢者住宅の建物設計に不可欠な3つの鉄則

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 052


高齢者住宅は不動産事業ですから、二つとして同じものはありません。
建物設備×介護システム検討は、土地の広さや形状などの立地条件によっても、一つ一つ違ってきます。
ただ、要介護高齢者の建物設計には、3つの鉄則があることが見えてきました。
ここまでの業務シミュレーションの中で「建物×介護システム」の一体検討で見えてきた、介護システムから見た要介護高齢者住宅の建物設計のポイントを整理しておきます。

① 要介護高齢者住宅には適切な規模がある

一つは、要介護高齢者住宅には適切な規模があるということです。
一般のマンションやアパートの場合でも、部屋数や規模は建築コストに関わってきますが、要介護高齢者住宅の場合は、建築コストだけでなく、運営コストにも大きく関わってきます。ユニット型特養ホームに必要な人員は基準の二倍以上 🔗 で述べたように、10人1ユニットのユニット型でも、60名定員と30名定員×2では、同程度の介護サービスを提供するだけでも、必要となる介護スタッフ配置は7名~8名、違ってきます。同程度のサービスでもそれだけ人件費が上がるということです。


地域密着型のユニット型特養ホームが全国で増えていますが、特定施設入居者生活介護よりも介護報酬が高い、税制優遇などが行われていると言っても、それ単独で運営することは困難です。これは山間部などで、「このエリアには30名程度しか需要がない・・」という場合にのみ、体力のある社会福祉法人や市町村からの土地の提供など複合的な支援を得て行うべきもので、「それぞれの地域に一つずつ」などと、都市部において積極的に推進すべきものではありません。

介護付有料老人ホームの場合、それは営利事業としては致命的な欠陥となります。
上記の表のように、規模が半分になると介護看護スタッフ配置だけでなく、ケアマネジャーや生活相談員なども独立して必要になります。
入居者が負担すべき価格差は少なく見積もっても5万円以上にはなるでしょう。
しかし、入居者・家族の立場で見ると、ユニット単位で生活している場合、全体の定員数が60名でも29名でも、生活環境は何一つ変わりません。
同一地域に、60戸と30戸の賃貸マンションがあるとして「家賃が5万円高くても、30戸の小規模のほうがよい」という人はいないでしょう。地域密着型の特定施設入居者生活介護が介護類型・報酬体系としては整備されていますが、営利目的の要介護高齢者住宅のビジネスモデルとしては不適格なのです。

② ユニット定員が小さくなると、効率性は低下する

二つめは、ユニット定員が小さくなると、介護の効率性は低下するということです。
【10人1ユニット】【ユニット内に食堂・浴室を確保】【少人数のユニット内で個別ケアを推進】というユニットケアは、それまでの集団ケアへの反省から推進されたもので、要介護高齢者の生活環境としては、素晴らしいものです。しかし、その一方で、業務シミュレーションを見てもわかるように、すべての業務をユニット単位で成立させなければならないため、たくさんの介護スタッフが必要になります。

例えば、 60名定員のユニット型特養ホームでは、常勤換算で42.3人の介護看護スタッフ配置が必要となり、その比率は【1.42:1配置】という、基準配置の二倍以上の介護スタッフが必要とになります。
ただ、これを【12人1ユニット】にして、6ユニットで72人の特養ホームにしても、常勤換算で42.3人という数字は変わりません。介護看護スタッフは、多少忙しくなるでしょうが、【1.7:1配置】で対応が可能だということになります。
逆に【9人1ユニット】で54名定員でも、看護師、夜勤配置や食事や入浴に必要な常勤換算での人員配置は変わりません。その場合、【1.27:1配置】ということになります

これは、可変性にも関係してきます。
平均要介護2と平均要介護3では、全体の介護サービス量は大きく変わってきますから、それに応じて必要となる介護スタッフ数も変化するはずです。
しかし、【10人1ユニット】【ユニット内に食堂・浴室】という厳格なユニットケアにすると、食事介助に最低限二人は必要、常時ユニット内の人員をゼロにしてはいけないといった、システム構築の前提条件は変わらないため、必要となる介護看護スタッフ数にはほとんど変化はありません。
民間の介護付有料老人ホームの場合、それはサービス力だけでなく、価格競争力や収益性にも直結することになります。

③ 居室・食堂分離型は、介護システムが機能しない

もう一つは、居室・食堂分離型は、要介護高齢者向けの高齢者住宅としては機能しないということです。
居室・食堂分離型は介護システム構築が困難 🔗 で述べたように、介護システムを非効率にする最大の要因は、介護動線・生活動線の混乱です。車いす利用者などの要介護高齢者は、階段を使うことはできませんから、居室と食堂が分離することによって、入居者を一日三度の食事に移動させることだけに、たくさんの介助と時間で必要になります。60名定員でも、移動だけに必要となる介護スタッフは5~6人、一日に6時間程度はかかり切りになりますから、常勤換算では7名以上になります。
エレベーターを二台にすればよいという人がいますが、それで移動時間は短縮できても、エレベーター移動に必要な介護スタッフの数は、より多くなります。

これは、介護付有料老人ホームの問題だけではありません。サ高住や住宅型ではより深刻です。
通常の自宅に訪問する場合、食事介助の時間は30~40分程度ですが、サ高住や住宅型有料老人ホームの場合、食堂までの行きかえりの移動介助を含めると2時間程度はかかります。それが一日3回となると、とても区分支給限度額内だけで対応できるものではありません。
また、介護付有料老人ホームと違い、入居者一人一人との個別契約ですから、臨機応変に対応できませんし、食事は一人でできるが、移動介助だけが必要となる高齢者は訪問介護の対象外です。
この「居室・食堂分離型」は、自立~要介護1程度の高齢者が大半で、車いす利用者が2割程度であれば稼働できますが、半数を超えると、介護スタッフの多寡にかかわらず、また、介護付か住宅型かに関わらず、対応できなくなるのです。



以上、3つのポイントを挙げました。
このように整理すると、要介護高齢者住宅として、どのような建物設備が適しているのか、適していないのか、一目でわかるでしょう。それは、建物設備を見ただけで、強い商品性なのか、脆弱な商品なのかがわかるということです。

現在、介護付有料老人ホームの介護サービスの手厚さは、【3:1配置】【2:1配置】など、入居者対比の介護スタッフ数だけで語られていますが、建物設備によって要介護高齢者の生活のしやすさ、介護の手厚さは全く変わってくるということがわかるでしょう。
視点を変えれば、建物設備を工夫すれば【2:1配置】であっても、【1.5:1配置】よりも手厚い介護サービスが提供できるということであり、それは高齢者住宅のコストパフォーマンス、商品力だけでなく、重大事故の予防や介護のスタッフの働きやすさにも大きく影響してくるということです。

次回からは、実務編として、上記の3つのポイントをもとに、可変性の高い要介護高齢者住宅の業務シミュレーションについて、もう少し詳しく考えていきます。


高齢者住宅 事業計画の基礎は業務シミュレーション

   ⇒ 大半の高齢者住宅は事業計画の段階で失敗している 
   ⇒ 「一体的検討」と「事業性検討」中心の事業計画へ
   ⇒ 事業シミュレーションの「種類」と「目的」を理解する  
   ⇒ 業務シミュレーションの目的は「強い商品性の探求」
   ⇒ 業務シミュレーションの条件 ① ~対象者の整理~
   ⇒ 業務シミュレーションの条件 ② ~サービス・業務~
   ⇒ 高齢者住宅のトイレ ~トイレ設計×排泄介助 考~
   ⇒ 高齢者住宅の食堂 ~食堂設計 × 食事介助 考~
   ⇒ 高齢者住宅の浴室 ~浴室設計 × 入浴介助 考~

高齢者住宅 「建物設計」×「介護システム設計」 (基本編)

   ⇒ 要介護高齢者住宅 業務シミュレーションのポイント
   ⇒ ユニット型特養ホームは基準配置では介護できない (証明)
   ⇒ 小規模の地域密着型は【2:1配置】でも対応不可 (証明)  
   ⇒ ユニット型特養ホームに必要な人員は基準の二倍以上 (証明)
   ⇒ 居室・食堂分離型の建物で【3:1配置】は欠陥商品 
   ⇒ 居室・食堂分離型建物では介護システム構築が困難
   ⇒ 業務シミュレーションからわかること ~制度基準とは何か~
   ⇒ 業務シミュレーションからわかること ~建物と介護~



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